社会保険労務士と労務顧問契約を結ぶと、会社はさまざまな情報を社会保険労務士に提供することになります。
たとえば、従業員の氏名・住所・生年月日といった個人情報だけではありません。給与や賞与、社会保険の情報、健康に関する情報、休職・退職に関する情報、さらにはハラスメントや解雇などの労務トラブルについて相談することもあります。
こうした情報の中には、万が一外部に漏れれば、従業員本人だけでなく会社にも大きな影響を与えるものがあります。
熊本市の中小企業でも、
「従業員とのトラブルについて、どこまで社会保険労務士に話してよいのだろう」
「給与データを渡しても本当に大丈夫だろうか」
「顧問契約を終了した後も秘密は守ってもらえるのだろうか」
と心配される経営者や人事担当者はいらっしゃるでしょう。
労務顧問を選ぶ際には、料金やサービス内容だけでなく、「預けた情報がどのように取り扱われるのか」を確認することも大切です。
この記事では、熊本市で労務顧問契約を検討している中小企業の経営者・人事担当者に向けて、社会保険労務士の「守秘義務」と契約前に確認しておきたいポイントを解説します。
目次
熊本市での労務顧問契約における守秘義務の重要ポイント
社会保険労務士には法律上の守秘義務がある
まず知っておきたいのは、社会保険労務士の守秘義務は、単なるマナーや事務所独自のルールではないということです。
社会保険労務士法第21条では、開業社会保険労務士や社会保険労務士法人の社員について、正当な理由なく、業務上知り得た秘密を他人に漏らしたり、盗用したりしてはならないと定めています。
さらに重要なのが、社会保険労務士でなくなった後についても、この義務が続くと定められていることです。
また、社会保険労務士事務所の使用人その他の従業者についても、同法第27条の2に秘密を守る義務が定められており、退職後も同様です。
つまり、社会保険労務士本人だけが秘密を守ればよいというものではありません。
顧問先企業の情報に接する事務所スタッフも含めて、適切な情報管理が求められます。
どのような情報が守秘義務の対象になるのか
労務顧問業務では、非常に幅広い情報を取り扱います。
代表的なものとして、次のような情報があります。
- 従業員の氏名、住所、生年月日、連絡先
- 給与、賞与、手当、年収などの情報
- 雇用契約や労働条件に関する情報
- 社会保険・労働保険に関する情報
- マイナンバーなどの特定個人情報
- 病気、休職などに関係する健康情報
- ハラスメント相談や懲戒に関する情報
- 退職、解雇、雇止めなどに関する相談内容
- 経営者や管理職から受けた労務相談の内容
- 人事制度、賃金制度など会社内部の情報
特に労務相談では、「まだ社内で公表していない組織変更」「特定の従業員とのトラブル」「今後予定している人事措置」などを社会保険労務士へ相談することがあります。
そのため、個人情報だけに注意すればよいわけではありません。
企業の経営や人事に関する非公開情報についても、適切に取り扱われる必要があります。
契約終了後の情報の取り扱いも確認する
顧問契約書を見る際には、「契約期間中に秘密を漏らしてはならない」という条項だけで安心しないことが大切です。
確認したいのは、契約終了後です。
社会保険労務士法上、社会保険労務士本人や事務所の従業者については、その立場を離れた後も守秘義務が続きます。
一方、実務上は守秘義務だけでなく、
「預けていたデータはいつ削除されるのか」
「紙の資料は返却されるのか、廃棄されるのか」
「クラウド上に保存されたデータはどうなるのか」
といった点も重要です。
したがって、契約終了時のデータの返還・保存・削除・廃棄についても、契約前に確認しておくと安心です。
個人情報保護法との関係
社会保険労務士に給与計算や社会保険手続きなどを委託する場合、会社が保有している従業員の個人データを社会保険労務士事務所へ提供することがあります。
個人情報保護法では、個人データの取り扱いを委託する場合、委託元には、委託された個人データの安全管理が図られるよう委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことが求められています。
したがって、
「社会保険労務士には法律上の守秘義務があるから、会社側は何も確認しなくてよい」
ということではありません。
会社側でも、どのような事務所へ個人データを預けるのか、どのような方法で管理されるのかを確認することが重要です。
熊本市での具体的なケーススタディ(社会保険労務士の視点から)
ケース1:従業員との労務トラブルを相談する場合
たとえば熊本市内の会社で、ある従業員との間に労務トラブルが発生したとします。
経営者が社会保険労務士へ相談するときには、対象となる従業員の氏名だけでなく、勤務状況、過去の指導内容、本人との面談内容、他の従業員からの証言など、社外に出したくない情報を共有することがあります。
こうした場合には、社会保険労務士本人の守秘義務だけでなく、
「相談内容を誰が閲覧できるのか」
「メールやチャットのデータをどのように管理しているのか」
「事務所スタッフにも情報が共有されるのか」
といった点も確認しておくとよいでしょう。
特にデリケートな案件については、必要な人だけが情報にアクセスできる体制になっているかがポイントになります。
ケース2:給与計算や社会保険手続きを委託する場合
給与計算を社会保険労務士事務所へ委託すると、毎月大量の従業員情報をやり取りすることになります。
氏名、給与額、残業時間、各種手当、社会保険料など、第三者に知られたくない情報が含まれます。
また、社会保険手続きではマイナンバーを取り扱うケースもあります。
そのため、
「給与データを通常のメール添付で送っている」
「誰でも開ける共有フォルダに保存している」
といった管理方法では、情報漏えいのリスクが高まります。
ファイル共有システムやクラウドサービスの利用方法、アクセス権限、パスワードや多要素認証の運用など、実際の情報の受け渡し方法まで確認することが重要です。
ケース3:顧問契約書の守秘義務条項が不十分だった場合
たとえば契約書に、
「業務上知り得た秘密を第三者に漏らしてはならない」
とだけ書かれていたとします。
最低限の内容は記載されているように見えますが、実際には疑問が残ります。
契約終了後も有効なのでしょうか。
業務を担当するスタッフは対象でしょうか。
外部へ業務を再委託した場合はどうでしょうか。
情報漏えいが発生した場合、いつまでに会社へ報告されるのでしょうか。
こうした点が明確でなければ、事故が発生して初めて双方の認識の違いが明らかになる可能性があります。
守秘義務条項では、単に「秘密を守る」と書いてあるかどうかだけでなく、具体的にどこまで取り決められているかを見ることが重要です。
労務顧問契約を結ぶ際の守秘義務の注意点
守秘義務の対象情報を確認する
契約書では、守秘義務の対象となる情報の範囲を確認しましょう。
「秘密情報」の定義がある場合は、従業員の個人情報だけでなく、給与情報、人事情報、経営情報、相談内容などが含まれているか確認します。
一方で、すでに一般に公開されている情報など、秘密情報から除外される情報について定める場合もあります。
大切なのは、会社と社会保険労務士との間で認識が一致していることです。
社会保険労務士事務所の情報管理体制を確認する
契約書だけでなく、実際の運用について質問してみることもおすすめします。
たとえば、
- 顧問先のデータをどこに保存しているか
- スタッフごとにアクセス権限を設定しているか
- パソコンやクラウドサービスの認証をどのように行っているか
- 紙の書類をどのように保管・廃棄しているか
- 情報漏えいが起きた場合の対応ルールがあるか
などです。
社会保険労務士を選ぶときには、専門知識や人柄に加えて、こうした情報管理に対する考え方を確認することも重要になっています。
クラウドやメールで情報を共有する場合
現在では、給与計算システム、勤怠管理システム、オンラインストレージ、チャットツールなどを利用して社会保険労務士と情報を共有するケースが増えています。
そこで確認したいのが、
「誰が、どの情報に、どこまでアクセスできるのか」
という点です。
便利なクラウドサービスでも、アカウントを共有していたり、退職した担当者のアクセス権限が残っていたりすれば、情報漏えいにつながる可能性があります。
システムを導入すること自体ではなく、適切に運用されているかを見る必要があります。
再委託先や事務所スタッフの取り扱いを確認する
社会保険労務士事務所によっては、業務の一部に外部サービスや再委託先を利用する場合があります。
その場合、
「どのような業務を外部へ委託しているのか」
「再委託先にも適切な情報管理を求めているのか」
「再委託について顧問先への通知や承諾が必要なのか」
などを確認しておくとよいでしょう。
また、社会保険労務士事務所のスタッフについても、法令上の守秘義務に加えて、事務所内でどのような教育・管理が行われているか確認することが考えられます。
守秘義務違反が発生した場合の対応
万が一の情報漏えいに備え、事故発生時の対応についても確認しておきたいところです。
特に、
「誰に報告するのか」
「どの程度の時間で報告するのか」
「原因調査や再発防止をどのように行うのか」
「損害が発生した場合の責任関係をどうするのか」
といった点です。
個人情報保護委員会も、個人データの委託に関して、委託先の適切な選定、委託契約、安全管理措置、委託先での取り扱い状況の把握などを求めています。
契約書はトラブルが発生したときだけのものではありません。
事故を未然に防ぐために、双方のルールを確認するものと考えるとよいでしょう。
よくある質問と対策
Q1.労務顧問にはどこまで情報を共有すればよいですか?
基本的には、依頼する業務や相談に必要な範囲で情報を共有します。
「念のため全従業員の全情報を渡しておこう」という考え方ではなく、何のために情報が必要なのかを考えることが重要です。
特にセンシティブな情報については、必要性を確認したうえで共有しましょう。
一方、労務トラブルについて相談する際に重要な事実を伝えなければ、社会保険労務士が適切な判断をできないことがあります。
「必要な情報は伝える。しかし、必要以上の情報は渡さない」という考え方が基本になります。
Q2.守秘義務違反が疑われる場合はどうすればよいですか?
まず、事実関係を確認してください。
何の情報が、いつ、どのような経路で、誰に漏れた可能性があるのかを整理します。
そのうえで、社会保険労務士事務所へ速やかに連絡し、調査や報告を求めます。
個人データの漏えい等については、その内容によって個人情報保護委員会への報告や本人への通知などが必要になる場合があります。
重大なケースでは、弁護士など他の専門家への相談も検討する必要があります。
Q3.契約書に守秘義務の記載がなければ秘密を守ってもらえないのですか?
社会保険労務士には、契約書とは別に社会保険労務士法による守秘義務があります。
したがって、「契約書に書いていないから自由に秘密を漏らしてよい」ということにはなりません。
ただし、契約書に守秘義務条項を設ける意味がなくなるわけではありません。
秘密情報の範囲、契約終了後の取り扱い、データの返却・削除、再委託、事故発生時の報告などを契約で具体化することで、双方の認識を合わせやすくなります。
Q4.社会保険労務士を変更するときはどうすればよいですか?
社会保険労務士を変更するときには、情報の引き継ぎと同時に、旧事務所に残っている情報の取り扱いを確認します。
たとえば、
- 会社から預けた原本の返却
- 電子データの引き継ぎ
- 不要となったデータの削除
- クラウドサービスへのアクセス権限の解除
- 新しい社会保険労務士への情報提供方法
などです。
「新しい社会保険労務士へ引き継いだから終わり」ではなく、旧事務所・自社・新事務所の3者について情報の所在を整理することがポイントです。
熊本市全域での労務顧問契約と守秘義務確認のメリット
守秘義務について契約前に細かく確認することは、社会保険労務士を疑うことではありません。
むしろ、お互いが安心して情報を共有するための準備です。
労務顧問の価値は、経営者が会社の問題を率直に相談できることにあります。
「この情報を話して大丈夫だろうか」と不安を感じながら相談していては、本当に必要なアドバイスを受けにくくなります。
情報管理について確認できていれば、
「実は従業員との間でこんな問題が起きている」
「管理職からこのような相談を受けている」
「今後、賃金制度を変更したい」
といった重要な問題も相談しやすくなります。
また、社会保険労務士との契約をきっかけとして、自社の情報管理を見直すこともできます。
就業規則や個人情報保護規程、社内のアクセス権限、給与データの管理方法などを点検すれば、社労士事務所だけでなく自社内部から発生する情報漏えいリスクの低減にもつながります。
熊本市周辺にも当てはまるポイント
守秘義務や個人情報管理について確認すべき内容は、熊本市内の企業だけに限られるものではありません。
菊陽町、合志市、宇城市など熊本市周辺の中小企業が社会保険労務士と顧問契約を結ぶ場合にも、基本的な考え方は同じです。
特に近年は、クラウド型の勤怠管理・給与計算システムを利用する企業が増え、会社と社会保険労務士がオンラインで情報を共有することも一般的になっています。
距離が近いから安全、オンラインだから危険という単純な話ではありません。
重要なのは、どのようなルールと仕組みで情報を管理しているかです。
一方、地域密着型の社会保険労務士であれば、必要に応じて直接打ち合わせを行いやすく、会社の規模、業種、組織体制などを踏まえて相談できるメリットがあります。
社会保険労務士を選ぶ際には、料金だけで判断せず、
「相談しやすいか」
「自社の業務を理解してくれるか」
「情報管理について明確に説明してくれるか」
といった点も含めて判断するとよいでしょう。
まとめと結論
熊本市で社会保険労務士と労務顧問契約を結ぶ際には、業務内容や顧問料とともに、守秘義務と情報管理の仕組みを確認することが重要です。
特に確認したいのは、次の点です。
- どのような情報が守秘義務の対象になるのか
- 守秘義務がいつまで続くのか
- 守秘義務の例外はどのような場合か
- 事務所スタッフはどのように情報を取り扱うのか
- クラウドやメールのセキュリティ対策はどうなっているか
- 外部への再委託が行われることがあるか
- 契約終了後のデータをどう処理するのか
- 情報漏えいが起きた場合の報告・対応方法はどうなっているか
社会保険労務士には社会保険労務士法上の守秘義務があります。
しかし、会社としてはそれだけで終わらせず、契約書の内容と実際の情報管理方法の両方を確認しておくことが大切です。
これは従業員の個人情報を守るだけではありません。
会社と社会保険労務士との間に、安心して相談できる関係をつくるためにも重要な確認事項です。
社会保険労務士に相談する理由とお問い合わせ情報(熊本市エリアに対応)
労務顧問契約では、会社によって社会保険労務士へ預ける情報が異なります。
社会保険手続きを中心に依頼する会社もあれば、給与計算、勤怠管理、就業規則、人事制度、労務トラブルの相談まで幅広く依頼する会社もあります。
そのため、守秘義務についても、すべての企業に同じ契約内容が最適とは限りません。
社会保険労務士 荻生労務研究所では、熊本市および周辺地域の企業から、労務管理、社会保険手続き、給与計算、就業規則、勤怠管理などのご相談を承っています。
特に、これから労務管理体制を整えていきたい企業や、勤怠管理・給与計算の仕組みを見直したい企業では、顧問契約の開始時に「誰が、どの情報を、どのように管理するのか」を整理しておくことが、その後のスムーズな労務管理につながります。
「初めて社会保険労務士と顧問契約を結ぶので、何を確認すればよいかわからない」
「現在の顧問契約や情報の受け渡し方法を見直したい」
「クラウド勤怠や給与計算システムを導入したい」
といった場合も、お気軽にご相談ください。
熊本市および周辺地域で労務顧問契約をご検討の事業者の方は、契約内容や現在の労務管理上の課題を整理したうえで、自社に合った顧問契約を検討していきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約内容について法的判断を行うものではありません。具体的な契約条項や個人情報漏えい等への対応については、事案に応じて社会保険労務士、弁護士その他の専門家へご相談ください。

