相談「広告を変えたら売上が落ちる。」
EC事業や通販事業の経営者と話をしていると、この言葉を聞く機会は少なくありません。
実際、その認識は間違っていない場合もあります。
広告の訴求を弱めれば、クリック率は下がるかもしれません。
申込導線を分かりやすくすれば、申し込み率も下がるかもしれません。
定期購入であることを目立つように表示すれば、初回購入数も減るかもしれません。
しかし私は、この議論には一つ抜け落ちている視点があると考えています。
それは、「今の売上は、本当に将来も続く売上なのか」という視点です。
短期的な売上と長期的な信頼は、時としてトレードオフになります。
だからこそ経営者は、「今日の数字」ではなく、「3年後も選ばれる会社であるための数字」を見なければなりません。
相談事例
ある健康食品の通販会社では、SNS広告を中心に急成長を遂げていました。
「医師も注目」
「3か月で人生が変わった」
「今だけ実質500円」
こうした広告が高い反応率を生み、新規顧客を獲得していました。
一方で、会社の中では別の変化が起き始めます。
カスタマーサポートへの問い合わせが増え、
「定期購入だと思わなかった」
「解約方法が分かりにくい」
「広告と印象が違う」
という声が目立つようになりました。
さらにレビューサイトでは低評価が増え、SNSでも批判的な投稿が少しずつ広がり始めます。
社長は言います。
「どこの会社も同じことをやっている。」
「広告を変えたら売上が落ちる。」
この考え方は、短期的には正しいかもしれません。
しかし私は、この時点で会社が見るべき数字は売上だけではないと思います。
この問題の本質
私は、この問題の本質は広告表現ではなく、「利益の質」だと考えます。
売上は伸びている。
利益も出ている。
それだけを見れば成功しているように見えます。
しかし、その利益が
・顧客の誤解
・解約のしにくさ
・過度な期待
によって支えられているのであれば、それは将来のクレームや信用低下を前借りしている利益かもしれません。
経営では、利益にも質があります。
今日の利益が、明日のブランドを削って生まれているのであれば、その利益は決して健全とは言えません。
よくある失敗
このような場面で、企業は極端な判断をしがちです。
一つは、「何もしない」ことです。
売上が順調だからと改善を先送りし、問題が大きくなってから対応します。
もう一つは、「すべて止める」ことです。
広告を全面停止し、新規顧客獲得を止めてしまう。
どちらも経営としては望ましい判断ではありません。
私は、必要なのは優先順位を決めることだと考えます。
リスクの高い広告表現から見直す。
申込画面を分かりやすくする。
解約方法を改善する。
こうした一つひとつの改善を積み重ねることで、売上への影響を抑えながらリスクを下げることができます。
私ならどう考えるか
私なら、まず広告そのものではなく、お客様の体験を確認します。
広告を見て申し込む。
商品が届く。
継続購入になる。
解約したくなった時に手続きする。
この一連の流れを、自分自身がお客様になったつもりで体験します。
その中で、
「誤解する人はいないか。」
「高齢の方でも理解できるか。」
「家族に説明できる内容か。」
という視点で確認します。
法律上問題があるかどうかだけではなく、「誠実な商売と言えるか」を考えることが重要です。
なぜ法律だけでは解決できないのか
景品表示法や特定商取引法への適合は当然重要です。
しかし、それだけで会社の信用は守れません。
仮に法令違反とまでは言えない広告でも、
「騙された」
と感じる顧客が増えれば、ブランド価値は下がります。
レビューサイトには低評価が並びます。
SNSでは批判が拡散します。
広告費は上がります。
新規顧客の獲得単価も上がります。
つまり、法律に適合しているかどうかと、持続可能なビジネスかどうかは別の問題なのです。
私は、経営者には「法令遵守」だけでなく、「顧客との信頼関係」という視点も必要だと考えます。
実務上のチェックポイント
私なら、次の点を確認します。
・広告表現と実際の商品内容に乖離はないか
・定期購入の条件は一目で分かるか
・解約方法は分かりやすく案内されているか
・広告ごとの解約率に差はないか
・広告ごとの苦情件数を分析しているか
・レビューやSNSの内容を定期的に確認しているか
・カスタマーサポートがどのような問い合わせに時間を取られているか
・LTVだけでなく返金率や解約率も見ているか
・広告制作時に法務・CS部門が関与しているか
・ブランド価値を測る指標を持っているか
数字だけでは見えない「顧客の不満」を把握することが、改善の第一歩になります。
まとめ
私は、この問題の本質は広告表現ではなく、「利益の質」と「ブランドの持続性」にあると考えます。
売上は大切です。
しかし、売上は信頼の結果です。
信頼を削って売上を作る経営は、長く続きません。
重要なのは、炎上してから広告を変えることではありません。
炎上する前に、自社のビジネスモデルを見直すことです。
私は、広告を変えることが目的ではなく、「お客様から選ばれ続ける会社」をつくることが経営者の本当の目的だと考えます。
【免責文】
本記事は一般的な経営課題に関する考察です。個別事案では、広告内容や契約条件、販売方法などによって適用される法令や評価が異なります。実際の判断にあたっては、具体的な事実関係を確認したうえで検討する必要があります。

