「返済不要の助成金」は正しいか キャリアアップ助成金を例に
先日、とある助成金のご相談を頂きました。今回はその話をします。
助成金のセールストークでよくあるのが、「返済不要の助成金」です。
- 「助成金は融資と異なり、返済不要です」
- 「不足資金を迅速に調達できます」
いろんなパターンがあります。
これを聞かれた方は、会社のカネが増えると、思われるのではないでしょうか。
このトークをどこかで聞いてこられた方が、何度となく私にご相談なさいます。
この機会に、この「返済不要の助成金」について、考えるポイントをお知らせします。
「返済不要の助成金」が触れない事実
まず、助成金とはどんなものか、を説明します。
厚生労働省の助成金は、基本的には「かけた費用の一部を、助成金として支払う」ものです。
そして、ほとんどの助成金は、費用を出す前に必ず「計画届」を、届け出る必要があります。
一部の例外はありますが、この計画届を出す前に、買ってしまった場合、あるいは従業員を雇ってしまった場合、助成金は受け取れません。
ということは、購入費用や賃金・人件費など、「まず、先にカネが出ていく」ということです。
そして、支払ったカネの全てをカバーできるものではなく、たいていは一部、会社の持ち出しが発生します。
ということは、全体では「会社のカネは決して増えない」ということです。
「返済不要の助成金」というフレーズは、この点を見落としています。
ミスリードと言わざるを得ません。
以下、事業主様からのご相談の多い、キャリアアップ助成金を例に説明します。
例:キャリアアップ助成金
事業主様の関心が高い助成金のひとつに、キャリアアップ助成金があります。
有期雇用労働者を正社員にキャリアアップすれば、1人あたり57万円、場合によっては72万円を受けられます。これだけ見れば、お得に見えます。
しかし、キャリアアップ助成金を受けるためには、非正規社員から正社員への登用制度を作り、就業規則に書き加える必要があります。かつ、非正社員から正社員に、実際に転換させなければなりません。
加えて、今年・令和4年10月1日からは、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用される正社員として、登用しなければなりません。
この制度の整備にかかるコスト、そして制度による人件費アップを、考慮しなければなりません。
- 基本給+固定給手当 転換後に3%以上増加していること
- 「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」の適用が必須(令和4年10月1日以降適用)
- 社会保険の条件を満たす場合は、社会保険の加入が無ければ対象者にできない
これらはキャリアアップ助成金の対象労働者だけでなく、条件を満たす者はすべて対象としなければなりません。また、キャリアアップ助成金の対象期間が終わったからといって、就業規則を変えてこれらの制度を廃止・縮小することは、まず不可能です。
これらに伴う、定年までの昇給、賞与・退職金に伴う人件費アップは、数百万円~1千万円単位に上ることもあります。長期的な労務コストアップを踏まえて、取り組むべきと考えます。
それでもなお、従業員のキャリアアップに取り組みたい事業所様には
これらの困難を乗り越えてでも「従業員を長期的に育てて、優秀な人材を育て、事業の生産性を高める。そのために正社員化し、処遇を改善したい」という思いをお持ちでしたら、その崇高な志の実現に向けて、私も力を尽くします。
そのためのコストをカバーするものとして、キャリアアップ助成金を活用するのが、まさに助成金の本来の活用法です。
これに対し、「助成金がもらえるから、キャリアアップに取り組む」というのは、順番が真逆であり、むしろ長期的には会社のキャッシュフロー減少という、意図せぬ結果を招くことを、ご理解ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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