建設業の働き方改革は本当に無理なのか？

「建設業で働き方改革は無理だ」と言われることが少なくありません。長時間労働が当たり前になっている業界であり、人手不足や厳しい納期の問題もあるため、「現場の実情を考えると難しい」と考える人が多いのが現状です。特に熊本県では、地震や台風などの自然災害の復興工事が続く中、建設業の需要は高まる一方で、労働環境の改善が追いついていないという課題があります。

しかし、本当に建設業での働き方改革は不可能なのでしょうか？ 実際に、建設業の労働環境を改善するために国もさまざまな施策を打ち出しています。例えば、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制（年間960時間）が適用されるようになりました。これは、長時間労働を前提とした働き方を見直す大きなきっかけとなるでしょう。また、ICT（情報通信技術）を活用した施工管理の効率化や、週休2日制の導入を進める企業も増えてきています。

熊本県内でも、働き方改革に取り組む建設企業が少しずつ増えています。その一例として、「熊本県ブライト企業認定制度」 があります。この制度は、働く人が「安心して働き続けられる企業」として認定を受けるもので、労働環境の改善やワークライフバランスの推進、人材育成への積極的な取り組みが評価されます。建設業界においても、このブライト企業に認定されることで、企業の信頼性向上や人材確保に役立てることができます。実際に、県内の建設企業でもブライト企業に認定される事例が増えており、労働時間の適正化や週休2日制の導入に取り組む企業が出てきています。

とはいえ、すべての企業がスムーズに働き方改革を進められるわけではありません。「そもそも現場が回らなくなる」「人手が足りないのに労働時間を短縮するのは無理」など、さまざまな不安があるのも事実です。そこで、本記事では熊本の建設業における働き方改革の現状と課題を整理し、具体的な解決策について社労士の視点から解説していきます。働き方改革に興味はあるものの「何から手をつければいいかわからない」と感じている方にとって、ヒントとなる情報をお届けします。

 

熊本の建設業における働き方改革の課題とは？

建設業は、他の業種と比べても働き方改革の実現が難しいとされています。その理由は、長年の業界慣習や特有の労働環境にあります。熊本県内でも、働き方改革を進めるうえで多くの課題が指摘されています。ここでは、その主な課題について解説します。

 

 

なぜ「働き方改革は無理」と言われるのか？

1. 工期の厳しさと人手不足

建設業では、工期が厳しく設定されることが一般的です。特に、公共工事や大規模なプロジェクトでは、発注者の都合により納期が決められ、無理なスケジュールのもとで作業が進められることも少なくありません。

さらに、建設業界は慢性的な人手不足に悩まされています。熊本県でも、少子高齢化により若年層の労働者が減少しており、特に現場作業員の確保が難しくなっています。国土交通省の調査によると、建設業に従事する技能労働者の約3割が55歳以上であり、若手の育成と確保が急務となっています。

このような状況の中で「労働時間を短縮しよう」としても、人員が不足しているため現場の負担が増し、結果的に従業員へのしわ寄せが大きくなる可能性があります。そのため、多くの企業が「働き方改革は現実的ではない」と考えてしまうのです。

 

 

2. 元請け・下請け構造の影響

建設業は、多くの企業が関わる「多重下請け構造」が特徴的な業界です。元請け企業が受注した工事を複数の下請け業者が担当するため、労働環境の改善を一企業単独で進めることが難しいという課題があります。

例えば、元請け企業が「労働時間の短縮」を掲げても、下請け業者が納期に間に合わせるために長時間労働を強いられるケースがあります。また、元請けからの厳しいコスト管理により、下請け企業の労働条件が圧迫されることも珍しくありません。

熊本県内でもこの構造は同様で、特に地方の中小企業では大手ゼネコンや公共工事の影響を受けやすく、独自に働き方改革を進めるのが困難な場合があります。このため、業界全体での意識改革が必要とされています。

 

 

3. 時間管理の難しさ

建設現場では、天候や資材の納品状況によって作業スケジュールが大きく変わるため、計画通りに進まないことが多々あります。例えば、雨の日には外部工事が進められず、晴れの日に作業を集中させる必要が出てきます。こうした変動要因があるため、一般的なオフィスワークのように労働時間を固定するのが難しく、時間管理が大きな課題となっています。

また、職人の技術習得には長年の経験が必要なため、若手社員が即戦力として働けるわけではありません。そのため、熟練の職人に業務が集中し、結果的に長時間労働を余儀なくされることもあります。

 

 

熊本県における具体的な課題と解決策の模索

熊本県では、こうした建設業の課題に対処するために、県や自治体が支援策を打ち出しています。その一つが、前述した「熊本県ブライト企業認定制度」です。

この制度では、労働環境の改善に積極的に取り組む企業を認定し、求人活動や企業のブランディングに役立ててもらうことを目的としています。熊本県内の建設企業の中にも、この制度を活用し、働きやすい環境づくりを進める動きが広がっています。

また、建設業に特化した助成金制度を活用し、ICT技術の導入や労務管理の効率化を進める企業も増えてきています。例えば、クラウド型の施工管理アプリを導入し、現場の状況をリアルタイムで共有することで、作業の効率化を図る取り組みが進められています。

 

 

まとめ：働き方改革に必要なのは業界全体の意識改革

熊本の建設業における働き方改革は、多くの課題を抱えていますが、完全に「無理」とは言い切れません。確かに、人手不足や厳しい工期、業界の慣習といったハードルは存在します。しかし、熊本県が推進する「ブライト企業認定制度」やICT活用など、企業努力によって改善できる部分も多くあります。

今後、働き方改革を進めるためには、企業単体の取り組みに加えて、業界全体の意識改革が不可欠です。元請け・下請けの関係性を見直し、労働環境の改善を全体で推進することが、長期的な人材確保や企業の成長につながります。

次の章では、具体的な解決策について、社労士の視点から解説していきます。働き方改革を実現するためのポイントを詳しく見ていきましょう。

 

働き方改革を実現するためのポイント【社労士が解説】

建設業における働き方改革の課題を踏まえた上で、具体的にどのような対策を講じればよいのでしょうか？
ここでは、熊本県の建設企業が働き方改革を進めるための実践的なポイントを、社会保険労務士の視点から解説します。

 

 

1. 労働時間の管理と適正な賃金設定

◎ 時間外労働の上限規制への対応
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制（年間720時間）が適用されました。これにより、従来の「長時間労働前提の働き方」を見直す必要があります。特に、熊本県では地震や災害復興工事、あるいはTSMC進出に伴う工事や人手不足が続いており、工期の厳しさから長時間労働になりがちです。そのため、次のような取り組みが重要になります。

• シフト制や交代制の導入：職人の負担を分散し、週休2日制の実現に近づける
• 勤怠管理システムの導入：出勤・退勤の記録をデジタル化し、労働時間を適正に管理する

また、時間外労働の上限規制に伴い、賃金体系の見直し も不可欠です。特に、時間外労働を減らすことで従業員の給与が減少しないよう、基本給の引き上げや手当の再設定を検討する必要があります。

◎ 適正な賃金設定で人材確保を強化
熊本県では、都市部への若手人材の流出が課題となっています。そのため、適正な賃金設定と労働条件の改善によって、働きやすい環境を作ることが重要です。例えば、「熊本県最低賃金の改定」 を考慮し、競争力のある賃金水準を設定することで、他業種との人材獲得競争にも対応できます。

 

 

2. 業務の効率化とICT活用（施工管理アプリなど）

建設業では、ICT（情報通信技術）を活用することで作業効率を大幅に向上させることが可能です。熊本県内でも、ICT導入を進める企業が増えており、国や自治体の補助金を活用する動きもあります。

◎ 施工管理アプリの導入
従来、建設現場では紙ベースの報告書や、電話・FAXを使ったやり取りが一般的でした。しかし、スマートフォンやタブレットを活用した施工管理アプリを導入することで、業務の効率化が期待できます。例えば、以下のような機能があります。

• 進捗管理のリアルタイム共有：現場の状況をリアルタイムで共有し、無駄な移動や連絡の手間を削減
• 写真・図面のデジタル管理：施工状況の記録を電子データ化し、検索や共有がスムーズに
• 労働時間の自動記録：勤務時間の管理をデジタル化し、適正な労務管理を実現

熊本県では、こうしたICT導入に対する補助金・助成金制度も活用できるため、導入コストを抑えながら業務効率を改善することが可能です。

 

 

3. 週休2日制の導入は可能か？

建設業界では、「週休2日制の導入は難しい」と言われがちですが、徐々に導入する企業も増えています。熊本県内でも、「完全週休2日制」 を導入した建設企業が注目を集めています。

◎ 週休2日制導入のポイント
週休2日制を導入するには、以下のような工夫が求められます。

• 工期の見直しと計画的なスケジュール管理：無理な納期設定を避け、適正な工期で受注する
• 元請けとの交渉：下請け企業だけでなく、元請け企業と協力しながら働き方改革を進める
• 労働時間の平準化：繁忙期と閑散期の作業量を調整し、休日を確保しやすくする

実際に熊本県の建設企業では、週休2日制を実現するために「作業の前倒しと計画的な人員配置」を行い、業務を効率的に進めることで休日を確保している事例があります。

 

 

まとめ：働き方改革を実現するために必要なこと

熊本の建設業で働き方改革を進めるためには、労働時間の適正管理、ICTの活用、週休2日制の導入 など、具体的な施策を組み合わせて実施することが重要です。

また、企業単独での取り組みだけでなく、元請け・下請け企業間の協力や、自治体の支援策を活用することも有効です。「熊本県ブライト企業認定制度」 などの制度を活用し、企業の魅力を向上させることで、優秀な人材の確保にもつなげることができます。

次の章では、実際に熊本県内で働き方改革に成功した建設企業の事例を紹介し、具体的な取り組みを深掘りしていきます。

 

 

熊本県内の建設業での成功事例

建設業における働き方改革は難しいと言われることが多いですが、熊本県内でも実際に労働環境の改善に成功した企業があります。ここでは、働き方改革を進めるために取り組んだ具体的な事例を紹介し、どのような工夫で成功に導いたのかを解説します。

 

 

1. 労働時間の適正管理とICT活用で業務効率化

【事例①】勤怠管理システムと施工管理アプリを導入

熊本市内のある建設会社では、従業員の労働時間の適正管理を徹底するため、クラウド型の勤怠管理システムと施工管理アプリを導入 しました。

導入前は、作業員が手書きのタイムカードで出勤・退勤を管理していたため、正確な労働時間の把握が困難でした。そこで、スマートフォンから打刻できるシステムを導入し、労働時間のリアルタイム管理 を実現。さらに、施工管理アプリを活用して現場の作業状況を可視化 し、無駄な残業の削減に成功しました。

▶ 成果：

• 月間の平均残業時間が 30時間→10時間 に削減
• 労働時間の可視化により、休日取得率が向上

 

 

2. 週休2日制の導入で働きやすい環境づくり

【事例②】週休2日制を試験導入し、従業員満足度向上

八代市の建設会社では、従業員の定着率向上と新規採用の強化を目的に、週休2日制の試験導入 を実施しました。

建設業では「工期が厳しいため週休2日制は難しい」という意見が根強いですが、この企業では以下のような取り組みを行いました。

• 施工スケジュールの見直し：作業工程を効率化し、休日確保を実現
• 交代制の導入：現場ごとにチームを分け、交代で休める仕組みを構築
• 従業員の意見を反映：働き方改革の意図を説明し、社員と対話を重視

結果として、休日の取得率が向上し、離職率も低下 しました。また、週休2日制をPRすることで、新卒採用においても応募者数が増加しました。

▶ 成果：

• 週休2日制の導入後、従業員の定着率が20%向上
• 求人応募者数が前年の1.5倍に増加

 

 

3. 「熊本県ブライト企業」認定で企業の魅力を発信

【事例③】ブライト企業認定で人材採用に成功

人吉市の建設会社では、労働環境の改善に取り組み、「熊本県ブライト企業」認定 を取得しました。

この企業では、以下の取り組みを行い、認定を受けることに成功しました。

• 働きやすい環境整備：有給休暇の取得促進、育児休業制度の整備
• 賃金体系の見直し：時間外手当の適正支給と基本給の引き上げ
• 地域貢献活動：地元の学校と連携し、建設業の魅力を発信

ブライト企業に認定されたことで、企業の知名度が向上し、採用活動でも好影響がありました。特に、若手の求職者が「働きやすい環境のある企業」として注目し、新卒採用が大幅に増加 しました。

▶ 成果：

• ブライト企業認定後、新卒採用数が前年比2倍に増加
• 求職者からの問い合わせが大幅に増え、人材確保が安定

 

 

まとめ：成功事例から学ぶべきポイント

熊本県内の建設企業でも、働き方改革に成功している事例が増えている ことが分かります。これらの成功事例に共通するポイントは、以下の3つです。

1. ICTを活用し、労働時間を適正に管理
2. 週休2日制を導入し、柔軟な働き方を実現
3. 「熊本県ブライト企業」認定を活用し、企業の魅力を発信

建設業で働き方改革を進めるには、企業単体ではなく、業界全体の意識改革も必要です。熊本県が推進する施策を活用しながら、労働環境の改善に取り組むことで、持続可能な働き方を実現することができるでしょう。

次の章では、熊本県全域における働き方改革のメリットと、周辺地域にも適用できるポイントについて解説します。

 

熊本県全域での働き方改革のメリット

熊本県内の建設業における働き方改革の成功事例を見てきましたが、こうした取り組みは企業単体の利益だけでなく、地域全体にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、熊本県全域で働き方改革を進めることの利点と、周辺地域にも適用できるポイントについて解説します。

 

 

1. 人材確保と若手の定着率向上

熊本県では、若年層の都市部流出が深刻な問題となっています。特に建設業は「長時間労働・厳しい労働環境」というイメージが強く、就職先として選ばれにくい現状があります。しかし、働き方改革に取り組むことで、建設業の魅力を高め、若手人材の定着率を向上させることが可能 です。

例えば、週休2日制の導入や、労働時間の適正化を進めることで、建設業でも「働きやすい職場環境」があることをアピールできます。また、「熊本県ブライト企業」認定を取得することで、求職者に対する企業の信頼性を高めることができる ため、採用活動の強化にもつながります。

 

 

2. 生産性向上と企業の競争力強化

労働時間を減らすことは「生産性が下がる」と考えがちですが、実際には業務の効率化を進めることで、むしろ生産性が向上するケースが増えています。特に、熊本県内の建設業では、ICT（情報通信技術）を活用した施工管理や勤怠管理の導入 によって、効率的な働き方が実現できる企業が増えています。

例えば、施工管理アプリを活用することで、現場ごとの作業状況をリアルタイムで確認し、無駄な移動や作業の重複を防ぐことが可能 になります。このような取り組みにより、従業員の負担を減らしながら生産性を高め、企業の競争力を向上させることができます。

 

 

3. 地域経済の活性化と持続可能な発展

建設業は、地域経済に大きく貢献する重要な産業です。特に熊本県では、震災復興やインフラ整備の需要が高く、建設業の役割は今後も続くと考えられます。そのため、働き方改革によって企業の持続可能性を高めることが、地域全体の経済活性化につながる のです。

例えば、労働環境が改善され、従業員の生活の質が向上すれば、地域での消費活動が活発になります。また、建設業が魅力的な職業となることで、若者が地元に定着し、地方創生にも貢献できます。

 

 

まとめ：働き方改革は熊本の未来を支える鍵

熊本県における働き方改革は、単に労働環境を改善するだけでなく、人材確保、生産性向上、地域経済の活性化といった幅広いメリットをもたらします。

企業単体の努力だけでなく、自治体の支援制度を活用し、業界全体で取り組むことが重要です。今後も、熊本県全域で働き方改革が進むことで、建設業の新しい未来が開けるでしょう。

次の章では、建設業における働き方改革を実現するために、社労士に相談するメリットについて解説します。

 

社労士に相談するメリットとお問い合わせ情報（熊本県エリア対応）

建設業の働き方改革を進めるには、労働時間の管理、賃金制度の見直し、ICT導入など、さまざまな課題に対応する必要があります。しかし、これらを企業だけで進めるのは容易ではありません。そこで、社会保険労務士（社労士）に相談することが効果的 です。

◎ 社労士に相談するメリット

• 最新の法改正に対応：2024年の時間外労働の上限規制など、建設業特有の法改正を適切にサポート
• 助成金・補助金の活用支援：熊本県の「ブライト企業認定制度」や建設業向け助成金の申請サポート
• 労働環境の整備：週休2日制の導入や労働時間の最適化を支援

働き方改革は、企業の持続的な成長にとって不可欠な取り組みです。熊本県での導入を検討している企業様は、ぜひ社労士にご相談ください。