2024年度、障害者の「解雇」過去最多に──背景と企業・社会の対応策を考える

厚生労働省の最新発表によれば、2024年度に解雇された障害者の数が過去最多の9,312人に達しました。これは前年度比で約6,900人増という大幅な増加であり、多くの企業で「雇用の継続」に関する課題が表面化したと言えます。
本記事では、熊本県の中小企業の視点から、このニュースにどのような労務管理上の教訓があるかを、3つの具体的ポイントに整理してお伝えします。
1.なぜ「A型事業所」で解雇が増えたのか
就労継続支援A型は雇用契約のもとで最低賃金以上の給与を保証する仕組みですが、2024年4月の報酬改定で「生産活動による収益が利用者給与を上回ること」が評価基準となり、支援報酬が厳格化されました。
この改定は、多くのA型事業所にとって収益悪化を招き、結果として329事業所が閉鎖、5,000人以上の利用者が解雇または退職に追われたという実態につながっています。
さらに経営努力が追いつかない非効率事業所の撤退により、利用者が影響を受ける構図が顕著です。
2.「就労継続支援」卒業後の雇用受け皿としての備え
今後、制度改定や運営難によってA型事業所を離職する障害者がさらに増加することも予想されます。中小企業にとっては、そうした人材を迎え入れる準備(たとえば、職場の合理的配慮、ジョブコーチの活用、定着支援の連携など)を整えることで、地域雇用の担い手となる可能性が開かれます。
特に熊本県では製造・流通・福祉業などで慢性的な人手不足が続いており、労務管理の観点からも「障害者雇用の安定」は、企業の人材戦略にとって極めて実務的なテーマです。
3.「経営状態の変動」と雇用維持の仕組み作り
今回の解雇理由の大半は、「事業廃止」や「事業縮小」によるものでした。経営状況が変動するのは避けがたいとしても、雇用契約書の設計(更新条件、解雇事由の明確化)、事前通知、労使協議の運用ルールといった「平時からの備え」が、突発的な雇用トラブルを防ぐ要となります。
障害者雇用に限らず、全従業員に対しても「雇用安定の前提条件」が組織内で共有されているかを、今一度見直す契機にしたいところです。
地域密着型企業ほど、労務の安定性が問われる
今回のニュースは、単なる「障害者雇用」にとどまらず、熊本の中小企業にとって「持続可能な雇用」の構築が問われていることを浮き彫りにしています。受け入れる側の心構えだけでなく、契約・就業環境・フォロー体制といった実務的な部分にこそ、労務管理の工夫が求められます。
「社会的責任」ではなく、「経営上の選択肢」としての障害者雇用のあり方を、今こそ再設計していく時期ではないでしょうか。
当事務所では、雇用契約の整備、就労支援連携の体制作り、職場環境改善など、障害者を含む多様な人材との安定した雇用関係構築を支援しています。お気軽にご相談ください。
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