日本版DBS制度への対応 児童と接する職場に求められる労務管理とは?社労士が解説する就業規則対応

「性犯罪歴のある人を子どもと接する職場に就かせない」──この目的のもと、2024年に成立した「日本版DBS制度」。2026年12月の施行を前に、保育園や学校、学童・塾といった児童関連施設には、これまで以上に厳格な労務管理体制が求められます。特に、性犯罪歴というセンシティブな情報をどのように扱うか、虚偽申告があった場合にどう対応するかなど、就業規則の整備が急務です。本記事では、社会保険労務士の立場から、制度の概要と企業が今すぐ始めるべき実務対応について解説します。
児童を守る法改正、企業がすべき備えとは
2024年6月、児童と接する仕事に就く者の性犯罪歴を確認できる「日本版DBS法」(こども性暴力防止法。正式名称・学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が成立しました。これは、教育機関や保育施設などでの性暴力を未然に防ぐための新たな制度です。2026年12月25日の施行に向け、企業や法人には実務的な準備が求められます。今回は、社会保険労務士の視点から、今から備えるべき就業規則の整備や個人情報の取り扱いルールについて解説します。
日本版DBS制度とは?何が変わるのか
この制度では、児童(18歳未満)と支配的・優越的な関係にある職種において、採用前および在職中の従業員について、一定の性犯罪歴の有無を行政機関を通じて照会できる仕組みが導入されます。
対象は、学校・専修学校・認定こども園・児童福祉施設などで働く職員が中心ですが、認可外保育施設や塾・習い事教室、スポーツクラブなどの民間事業者も、国の認定を受けることで照会制度を利用できるようになります。
照会の対象となる犯罪には、不同意わいせつ、児童淫行や児童ポルノ諸事等のほか、児童を対象としたものに限られず、不同意性交等や不同意わいせつ、痴漢・盗撮などが含まれます。また、性犯罪歴は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」とされ、管理には厳格なルールが求められます。
経歴詐称によるリスクと「解雇できない」という誤解
制度が施行されると、履歴書の記載や採用面接時に性犯罪歴の有無を確認する場面が増えると予想されます。その中で問題となるのが、性犯罪歴があることを隠して就職したケースです。これは「経歴詐称」にあたり、解雇理由となり得ます。
しかし、実際には「経歴詐称でも解雇できないのでは?」と誤解している経営者が少なくありません。ただし就業規則に「虚偽の申告があった場合は解雇とする」旨が明記されていなければ、解雇は無効とされる可能性がありますので、注意が必要です。
就業規則と個人情報管理ルールの整備が鍵
制度対応の第一歩は、「就業規則」の整備です。以下の点を明文化する必要があります:
- 該当情報の取り扱い方法(取得・保存・廃棄手順)
- 虚偽申告や漏洩時の懲戒規定(解雇含む)
特に性犯罪歴は「要配慮個人情報」に分類され、扱いを誤れば個人情報保護法違反となりかねません。取扱者の限定や保管期間の設定、情報の廃棄ルールも厳密に定めておくべきです。
社労士の力を借りて制度対応を万全に
2026年12月の施行を待たずに、今から準備すべきことは数多くあります。性犯罪歴の確認方法や書類管理、解雇規定の見直しなど、専門的な視点が不可欠です。制度に沿った実務運用を構築するには、労務管理の専門家である社労士との連携が最も確実な手段です。
保育・教育現場の信頼を守るためにも、ぜひお早めにご相談ください。
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