最低賃金1500円時代へ?―2025年度改定議論スタートと熊本県内中小企業への影響

2025年7月11日、最低賃金の新たな改定に向けた中央最低賃金審議会の議論が始まります。全国平均1500円という政府目標に向け、今後5年間で毎年7%前後の引き上げが必要とされる中、熊本県内の中小企業にとっては、まさに「人件費戦略の再構築」が問われる局面です。本記事では、社労士としての視点から、今回の議論のポイントと中小企業が取るべき対策について解説します。
最低賃金改定の最新動向
2025年7月11日より、厚生労働省の中央最低賃金審議会にて、2025年度の最低賃金改定に向けた議論がスタートします。審議は8月上旬まで続き、改定額の目安が示される見通しです。今回の議論が注目される理由は、石破首相が掲げる「20年代に全国平均1500円」という政策目標に向けた初の改定になるからです。
「1500円目標」の背景と現実
現在の全国加重平均は1055円。この水準から1500円に到達するには、5年間で毎年約7%ずつの引き上げが必要です。これは単なるインフレ対応ではなく、「格差是正」や「地方の人材確保」を目的とした構造改革の一環です。一方で、急激な賃上げは特に中小企業にとっては大きなコスト増となり、経営そのものを揺るがしかねません。
熊本県の最低賃金水準と予想される影響
熊本県の2024年度の最低賃金は時給952円。仮に全国平均に合わせて年7%の上昇が続けば、2029年度には1300円台半ばまで上昇する可能性もあります。これにより、特に非正規社員やパートタイマーを多く雇用する事業者では、数百万円単位の人件費増加が現実のものとなります。
中小企業が今から準備すべき3つのポイント
①【人件費の棚卸しと見える化】
給与体系の見直しと、業務ごとのコスト管理を行うことで、ムダな支出を抑えつつ賃上げ対応の余地を明確化します。
②【業務効率化とITツール導入】
生産性向上なしに賃上げだけを進めれば、企業体力を削ります。ITツールによる業務効率化は今や「賃上げの裏付け」とも言えるでしょう。なお、IT導入や業務改善に活用できる各種助成金制度も活用が可能です。資金面の不安がある場合は、制度を賢く利用しましょう。
③【人材戦略の再設計】
「誰に」「どんな働き方で」「どのように報いるか」を再考するタイミングです。単なるコストではなく「戦略的人材投資」としての視点が求められます。
まとめ:人件費をコストから投資へと捉える転換を
最低賃金1500円時代が現実味を帯びる中、企業は「耐える」姿勢から「設計する」姿勢への転換が必要です。人件費は単なる支出ではなく、「持続的成長の基盤を作る投資」として戦略的に取り組むべきフェーズに入っています。
熊本県内の中小企業経営者の皆様も、来る改定に備え、今から体制を整えていきましょう。ご相談はお気軽に当事務所までお寄せください。
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【社会保険労務士 荻生労務研究所】
熊本の中小企業に寄り添い、「人と組織」の健全な未来を共に考えます。
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