労働新聞社が報じた全国中小企業団体中央会の調査によると、令和7年度に「賃上げを実施した」と回答した中小企業は55.9%となりました。前年より4.7ポイント低下し、「引き上げ予定」を含めても70.2%にとどまっています。
一方で、実際に賃上げを行った企業の平均賃金は前年比4.0%増。数字だけを見ると“賃上げは続いている”ようにも見えます。
しかし、現場感覚としては、多くの中小企業経営者が「もう簡単には上げられない」という段階に入っているのではないでしょうか。
今回は、この調査結果を踏まえながら、熊本県内の中小企業が今後どのように賃上げと向き合うべきかを考えてみたいと思います。
賃上げ実施率が低下した背景
今回の調査で注目すべきは、「賃上げをした企業の割合が減少した」という点です。
ここ数年は物価上昇や最低賃金の引上げ、人材確保競争の激化などを背景に、中小企業でも賃上げ圧力が強まっていました。
しかし実際には、
・原材料費の高騰
・エネルギーコスト増
・社会保険料負担の増加
・価格転嫁の難しさ
といった複数の要因が重なり、「利益が増えていない中での賃上げ」を迫られている企業も少なくありません。
特に熊本県内では、TSMC進出による半導体関連需要の拡大に伴い、人材市場が急速に変化しています。
これまで地域内で安定していた賃金相場が崩れ始め、「採用のための賃上げ」が現実的な経営課題になっています。
“人材不足”が最大の経営課題に
今回の調査で最も多かった経営課題は「人材不足(質の不足)」で51.2%でした。
単に「人が足りない」のではなく、
「経験者が採れない」
「若手が定着しない」
「管理職候補が育たない」
という“質”の問題が深刻化しています。
これは社会保険労務士として多くの現場を見ていても強く感じる部分です。
特に中小企業では、1人の退職が現場全体に与える影響が大きく、採用コストだけでなく、生産性低下や既存社員への負荷増加にも直結します。
つまり現在の賃上げは、単なる「待遇改善」ではなく、
「事業継続のための投資」
という意味合いが強くなっているのです。
これからの賃上げは「全員一律」では難しい
ただし、ここで重要なのは、「とにかく賃金を上げればよい」という時代ではないということです。
中小企業が持続的に人材を確保していくためには、
・利益構造
・生産性
・人事制度
・評価制度
・働き方
を含めた総合的な見直しが必要になります。
実際、最近の企業支援では、
「給与は平均以上なのに応募が来ない」
「賃上げしたのに離職が止まらない」
という相談も増えています。
その背景には、
・評価基準が不明確
・育成環境が整っていない
・管理職マネジメント不足
・長時間労働体質
など、“職場環境そのもの”への不満が存在しているケースが少なくありません。
つまり今後は、
「賃金+働きやすさ+成長実感」
の三位一体で考える必要があります。
熊本県内企業が今後取り組むべき視点
熊本では今後も人材獲得競争が続く可能性があります。
だからこそ、地域中小企業には「大企業と同じ土俵で戦わない工夫」が重要になります。
例えば、
・柔軟な働き方
・地域密着の安心感
・経営者との距離の近さ
・多能工化による成長実感
・家庭事情への配慮
など、中小企業だからこそ提供できる価値があります。
また、助成金や補助金を活用しながら、
・賃金制度整備
・人事評価制度構築
・教育訓練強化
・DXによる生産性向上
を同時並行で進めることも重要です。
まとめ
今回の調査結果は、「賃上げの限界」と「人材確保競争の本格化」を示すデータとも言えます。
しかし、悲観する必要はありません。
むしろ今は、
「どのような会社が選ばれるのか」
が明確になり始めている時期です。
給与だけではなく、
「この会社で働き続けたい」
と思われる職場づくりができる企業こそ、これからの人材難時代を乗り越えていくのではないでしょうか。
経営と労務は、ますます切り離せない時代に入っています。
今後の制度設計や人材戦略について、早めの準備が重要になりそうです。
参考情報
労働新聞社
300人以下事業者 「今年度に賃上げ実施」は56% 中小企業団体中央会調べ https://www.rodo.co.jp/news/209768/
