熊本市の特定社会保険労務士、荻生清高です。

これから10回にわたり、中小企業の人事労務における、生成AI活用とリスク管理について説明します。

なお、2025年4月28日に行った、当事務所セミナーの内容をまとめています。

 

生成AIとは何か？労務管理分野で注目される理由

「生成AI」という言葉を耳にする機会が急増していますが、その正体や労務管理分野で重要視される理由についてご説明します。

生成AIとは、人工知能（AI）の一種であり、大量のデータを学習し、自然言語による文章や画像、コードなどを自動で「生成（アウトプット）」する技術を指します。たとえば、チャットボットのように質問に答えたり、文章のドラフトを作成したり、さらには複雑な法令文章の解説までも可能にする高度なAIモデルです。

近年の技術進歩で、生成AIは短期間に飛躍的に能力を高めています。私自身も、社労士としての業務で実務経験を活かしながら、こうしたAIツールの導入支援を進めていますが、１年前とは比較にならないほど進化していると実感しています。例えば、勤怠管理に関する質問への自動応答や、労務に関連する文書の雛形を効率的に作成できることは、中小企業にとって大きなメリットとなります。

なぜ労務管理分野で注目されるのか。その理由は、業務の幅広さと複雑さにあります。雇用保険・労災保険などの社会保険手続き、給与計算、就業規則の改訂、助成金申請、労働基準法や育児介護休業法などの対応──これらは専門知識を要し、多くの企業担当者にとって負担の重い作業です。生成AIは、これらの情報処理や文書作成を迅速に行えるため、人事労務担当者の負担軽減に直結します。

さらに、新型コロナ禍でテレワークや多様な働き方の促進が求められる中、これまで以上に労務管理の対応範囲が広がったことも、生成AIへの期待を後押ししています。例えば、テレワーク規程の作成や、在宅勤務時の安全衛生指導の啓発文書など、都度変わるルール整備にスピード感が必要だからです。生成AIによる文書の自動提案は、最新の法改正情報も加味して行えるため、企業のコンプライアンス強化にも寄与します。

また、生成AIは単なる文章作成ツールにとどまらず、質問応答型のAIとしての利用も進んでいます。社員からの問い合わせ対応の負荷を減らしたり、採用活動での面接質問案作成、給与計算の項目チェックなど、多彩な用途に応用可能で、人手不足が深刻な昨今、中小企業の労務管理現場には特に有効です。

ただし、労務分野での生成AI活用には専門的な注意点も伴います。プライバシー保護や情報漏洩、AI特有の誤情報（ハルシネーション）発生などリスク要素もあるため、単なる導入だけでなく適切な使い方や社内ルール整備が欠かせません。この点は私のセミナーや支援業務でも重視しているポイントであり、具体的な活用方法と合わせて徹底指導しております。

まとめると、生成AIは「人手不足の解消」と「業務効率化」の両面で中小企業の労務管理に革新をもたらすツールです。今後の労務業務は、このテクノロジーを上手に活用しながら法令遵守と社員の安心を両立させることが求められます。私の知見を活かし、企業の皆さまがその変化の波に遅れず対応できるようサポートしていきます。次章以降で、具体的な活用例やリスク管理法について順を追って解説していきますので、ご期待ください。

 

業務効率アップ！実務で活かせる生成AIの活用例

生成AIの導入が中小企業の労務管理にもたらす効果は多岐にわたり、その活用は業務効率を大幅に改善する大きな力となっています。私が日頃支援している企業様の実務例を踏まえながら、具体的にどのように生成AIを活用できるのか、実践的なポイントを解説します。

まず人事労務の基本的な作業のなかで、生成AIは特に「文書作成」の負担軽減に威力を発揮します。例えば、求人広告の原稿作成があります。従来は採用担当者がゼロから文章を作るか、多くの文例を参考に地道に修正を重ねていましたが、生成AIに募集要項や求める人物像、会社の特長などのキーワードを入力するだけで、一定の品質を持った求人広告の草稿が即座に作成されます。この草稿を担当者がブラッシュアップすることで、時間と労力を大幅に節約でき、募集活動を迅速に開始可能です。

また、就業規則や社内規定の改訂や新規作成の局面でも生成AIは優れたアシスタントとなります。企業ごとの特性や業種に応じた規程案をAIに生成させることで、法改正に対応した最新かつ適切な文書のベースが得られます。もちろん、そのまま規程として使うのではなく、専門家の目で内容の整合性や法令適合性を確認し、職場実態に合わせた調整を行う必要があります。しかし、生成AIによる第一稿の提示は条文の書き起こし時間を大幅に削減し、改正対応のスピードアップに直結します。

日常業務の中では、社員からの問い合わせ対応や社内連絡文の作成に生成AIを活用するケースも増えています。例えば、育児休業制度の概要説明や勤務ルールの変更通知など、平易な言葉でわかりやすく説明する文面作成にAIを使うと、短時間で人件費をかけずに高品質な案内文が得られます。加えて、多様な質問に対する模擬回答文の生成も可能であり、人事担当者の回答作成の手助けとして役立っています。

給与計算や勤怠管理に関連する補助的作業もAIによって効率化が進みます。例えば、給与計算ミスのチェックポイントの整理、過去の労務トラブル判例の要約、最新の法令改正点のまとめなど、多量の情報整理作業を生成AIが高速で処理し、担当者の判断の参考資料を提供します。特に定型業務の自動化はDX推進の柱であり、私もクラウド勤怠管理システム「KING OF TIME」等の導入支援とセットでAI活用を提案しています。

さらに、生成AIは採用面接の評価シート作成、社員教育用の資料作成、研修講師用の講義案の素案作成など、多様な場面で“アイデアの種”を提供する役割も担います。これらにより、人事労務担当者が企画・深耕に集中できる時間的余裕が生まれ、組織全体の付加価値向上に貢献します。

一方で、これらのAI活用が単なる「便利ツールの使用」にとどまらず、適切に組み込まれるためには社内ルールの整備と使用者のリテラシー向上が必須です。個人情報や企業機密を含む内容をAIに入力する場合は、必ず情報の取扱いに注意し、例示したような文書作成時にも不要な機密事項を削除した上で利用する運用ルールが求められます。また、AIの出力内容は誤情報やバイアスが含まれることもあるため、必ず人間の目でチェックし、必要に応じて専門家の判断を仰ぐ体制を構築することも重要です。

私の支援企業では、まず日々の業務で最も「面倒だな」と感じているタスクに絞ってAI活用を試験導入し、その効果を見極めています。例えば、日報作成やメールの返信文章作成、定型報告書の初稿作成など、小さな成功体験を積み重ねてから対象領域を拡大する方式です。こうした段階的な取り組みが、実務適用のハードルを低くし、担当者の心理的抵抗も軽減します。

まとめると、生成AIの利活用は求人広告作成や就業規則の改訂、問い合わせ対応、給与計算補助、教育資料作成など、多岐にわたる人事労務業務の効率化と品質向上に役立ちます。私の事務所では実務に即した導入支援を通じて、ルール整備や教育も一体的にサポートし、安全かつ効果的なAI活用を推進しています。DXによる業務革新は中小企業の競争力強化に欠かせません。生成AIを味方に、組織の未来を切り拓いていきましょう。

 

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10回の記事は、こちらのタグ「生成AIの基礎知識」にまとめています。

タグ「生成AIの基礎知識」

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特定社会保険労務士 荻生 清高｜社会保険労務士　荻生労務研究所（熊本市）
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