「所得税の年収の壁」が2025年に変更へ!年末調整に向けて企業が取るべき対応とは

2025年度の税制改正で「所得税の年収の壁」が大きく変わります。基礎控除・給与所得控除の見直しや新たな特例導入により、企業の年末調整実務にも影響が及びます。中小企業が今から取るべき対応を、社労士の視点で解説します。
「年収の壁」問題と2025年税制改正の背景とは
近年注目を集める「年収の壁」問題。特定の年収を超えると税負担や社会保険料が増え、かえって手取りが減るという現象が、働き方や雇用の安定に影響を与えています。物価上昇が続く中で、国としても所得税の控除制度を見直す動きが強まってきました。
その流れの中で、2025年度の税制改正では、所得税に関する控除制度の大幅な見直しが決定。2025年12月の年末調整から適用される予定です。
2025年税制改正の主なポイント
今回の改正では、以下の2点が大きく変更されます。
- 基礎控除の控除額を引き上げ
- 給与所得控除の最低保障額を引き上げ
これに加え、一定の所得以下の方には「基礎控除の特例(上乗せ措置)」が導入され、低〜中所得層の税負担が軽減される仕組みになっています。
そもそも「年収の壁」とは?
「年収の壁」とは、配偶者控除や社会保険の扶養の条件に関わる収入基準のことです。たとえば、年収103万円、130万円、150万円といったラインを超えると、税金や社会保険料が発生し、手取りが減ってしまうため、働き控えが発生していました。
新たに導入される「基礎控除の上乗せ特例」
2025年の改正では、所得金額に応じて段階的に控除額が上乗せされる「特例」が導入されます。この特例により、年収の壁に悩む多くの方が、手取りを確保しながら働きやすくなることが期待されています。
ただし、特例の適用条件は複雑で、給与収入の額に応じて細かな計算が必要となります。
企業への影響:年末調整の実務が変わる
制度変更の適用は2025年12月の年末調整から。このタイミングで、以下のような実務的対応が求められます。
- 控除額の計算方法の見直し
- 給与計算ソフトのアップデート
- 社員への制度説明
- 税務署等への確認
とくに、年末調整時の控除申告書の様式や内容が変更される可能性が高く、事前の準備が不可欠です。
複雑化する制度と対応の注意点
税制そのものは「負担軽減」を目的としていますが、制度はかなり複雑です。特例適用の境界線上にいる従業員がいる場合、計算ミスや認識違いによる混乱が起きやすいため、注意が必要です。
今から企業が準備しておくべきこと
制度の完全施行まで約半年ありますが、早めの準備が功を奏します。具体的には以下の対応をおすすめします。
- 最新の税制情報を定期的にチェック
- 給与ソフトのベンダーへ確認
- 社員への説明資料の作成
- 必要に応じて外部専門家への相談
社労士から見た「対応の勘所」
社会保険労務士としての視点から見ると、重要なのは「社内での情報共有と実務へのスムーズな反映」です。特にパート・アルバイトの多い事業所では、収入調整の希望が出てくる可能性が高く、制度への理解と説明力が求められます。
中小企業の現場では、「何が変わるのか」が曖昧なまま進めてしまい、結果としてミスや従業員の不満につながるケースも少なくありません。
まとめ:税制改正をチャンスに変えるために
2025年の税制改正は「年収の壁」問題を見直す一歩として重要な転換点です。複雑な制度ではありますが、正しく理解し、丁寧に対応すれば、従業員にとっても企業にとってもプラスに働く可能性があります。
これからも財務省や国税庁からの最新情報に注目しつつ、現場に落とし込む準備を進めていきましょう。
熊本県内の中小企業経営者・人事労務担当者の皆さまへ
制度の詳細や実務対応について不安がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
法改正に強い社会保険労務士として、税理士とも連携しつつ、貴社の実情に合わせた支援を行います。
参考情報
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