「人権経営」は誰のため? 中小企業の現場から見える“現実的な一歩”とは

「人権経営」「人権デューデリジェンス(DD)」という言葉を聞くと、
「それは大企業の話では?」
「うちの規模で、そこまで必要なのか?」
そう感じる熊本県内の中小企業経営者の方も多いのではないでしょうか。
しかし近年、人権への配慮は“理念”ではなく、“取引の前提条件”として中小企業にも確実に波及しています。本記事では、報道事例をもとに、人権経営が誰のための取り組みなのか、そして中小企業が無理なく始めるための現実的な視点を、社労士の立場から整理します。
朝日新聞「人権経営」は誰のため? 中小企業の試行錯誤から分かったこと
人権経営は「守り」ではなく「取引継続の条件」
報道で紹介されていた電子部品メーカーでは、売上約10億円、従業員70名規模でありながら、取引先の大手企業から100問を超える人権関連調査を受けるようになったといいます。
注目すべきは、
- 海外売上比率は1割程度
- 外国人技能実習生もいない
という、いわば「典型的な国内中小企業」である点です。
それでも、人権対応を求められる理由は明確です。
サプライチェーン全体で“人権が守られているか”を説明できなければ、取引そのものが継続できない時代に入っているからです。
中小企業が最初に取り組むべきは「人権方針」
多くの中小企業が最初に取り組んでいるのが、「人権方針」の策定です。
これは、
・立派な英文ポリシーを作ること
・完璧な体制を整えること
ではありません。
実務的には、
- 自社として何を大切にするのか
- どのような行為を許さないのか
- 問題が起きたとき、どこに相談できるのか
これを明文化し、社内外に説明できる状態にすることが第一歩です。
実際、厚生労働省と国際労働機関(ILO)駐日事務所がが共同作成したチェックリストを活用し、
・強制労働
・差別
・ハラスメント
といった項目を「自社に当てはめて確認する」だけでも、大きな意味があります。
人権DDは「新しい義務」ではなく「既存業務の延長」
「人権デューデリジェンス」と聞くと、特別で重たい義務に感じがちです。
しかし本質は、
・ISO対応
・個人情報保護
・情報セキュリティ対策
と同じです。
かつては「面倒」「コストがかかる」と言われたこれらも、今ではやっていて当たり前の経営管理になっています。
人権DDも同様に、
・採用
・就業規則
・ハラスメント対策
・メンタルヘルス
といった既存の労務管理と強く重なっています。
中小企業を一人にしない支援の広がり
注目すべきは、支援体制が着実に整いつつある点です。
例えば、電機メーカーなど約390社でつくる電子情報技術産業協会(JEITA)では、大企業と中小企業が一緒に学ぶ人権DDプログラムを試行しています。また、全国社会保険労務士会連合会でも「ビジネスと人権」対応を専門とする社労士の育成が進められています。
つまり、
「分からないまま、すべてを自社で抱え込む必要はない」
という状況が、ようやく整い始めています。
人権経営は「誰のため」なのか
結局のところ、人権経営は誰のためのものなのでしょうか。
・取引先のため?
・海外市場のため?
・社会からの評価のため?
それも確かに一部ですが、最終的には
「自社で働く人を守り、安心して事業を続けるため」
に行き着きます。
人手不足が深刻化する中で、
・働く環境が整っている
・声を上げられる仕組みがある
・問題が放置されない
こうした企業は、確実に選ばれる存在になっていきます。
社労士としての視点:まずはここから
熊本県内の中小企業の皆さまには、次の3点からの着手をおすすめします。
- 自社なりの「人権方針」を短くてもよいので言語化する
- ハラスメント・相談窓口など、既存制度を棚卸しする
- 社外の専門家(社労士等)と一緒に整理する
人権経営は「正解探し」ではなく、「試行錯誤のプロセス」です。
完璧を目指す必要はありません。
小さな一歩を、確実に。
それが、これからの中小企業経営を支える現実的な人権対応だと考えています。
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