2026年10月1日から、短時間労働者(パート・アルバイトなど)が社会保険に加入する際の負担を軽減する「保険料調整制度」が始まります。
特に、従業員50人以下の中小企業にとって注目しておきたい制度です。
「社会保険に入ると手取りが減るので、勤務時間を増やしたくない」
パート社員から、このような相談を受けたことがある経営者・人事担当者も多いのではないでしょうか。
今回の制度は、こうした社会保険料負担による「働き控え」を減らし、短時間労働者が勤務時間を増やしやすくすることを目的としています。
熊本県内でも人手不足に悩む企業は少なくありません。
そこで今回は、2026年10月から始まる保険料調整制度について、中小企業の経営者の皆さまに押さえていただきたいポイントを分かりやすく解説します。
目次
1.「保険料調整制度」とは?
簡単にいうと、
新たに社会保険へ加入する一定のパート・アルバイトについて、加入後の社会保険料の本人負担を一定期間軽減する制度
です。
通常、健康保険料・厚生年金保険料は、原則として会社と従業員が負担します。
保険料調整制度では、対象となる従業員の本人負担の一部を、いったん会社が追加で負担します。
「それでは会社の負担が増えるのでは?」
と心配されるかもしれません。
ここが、この制度の重要なポイントです。
会社が追加で負担した保険料については、一定期間経過後に会社が支払う保険料から全額控除されます。
そのため、最終的に事業主が納付する保険料は増えない仕組みとなっています。
また、この制度によって従業員が将来受け取る年金額が減ることもありません。
2.どんな従業員が対象になる?
次の3つの条件をすべて満たす短時間労働者が対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上(フルタイムの4分の3未満)
- 月収13万円未満(標準報酬月額12万6,000円以下)
- 学生ではない
つまり、社会保険の適用拡大によって新たに加入対象となる、比較的収入の低いパート・アルバイトが主な対象となります。
3.本人負担はどのくらい軽くなる?
軽減割合は、従業員の月収によって異なります。
制度利用開始から1・2年目の本人負担割合は、おおむね次のようになります。
| 月収(標準報酬月額) | 従業員負担 | 事業主負担 |
|---|---|---|
| 9.3万円未満(8.8万円以下) | 25% | 75% |
| 9.3万円~10.1万円未満(9.8万円) | 30% | 70% |
| 10.1万円~10.7万円未満(10.4万円) | 36% | 64% |
| 10.7万円~11.4万円未満(11万円) | 41% | 59% |
| 11.4万円~12.2万円未満(11.8万円) | 45% | 55% |
| 12.2万円~13万円未満(12.6万円) | 48% | 52% |
※上記は保険料負担の割合です。制度利用3年目は、本人負担の軽減割合が半減します。
たとえば、厚生労働省・日本年金機構の資料では、月収8万8,000円の従業員について、本来の社会保険料負担を月額1万2,500円とした場合、制度利用後の本人負担を月額6,250円とするイメージが示されています。
つまり、社会保険へ加入した直後の「手取りが大きく減った」という感覚を和らげる効果が期待できます。
※実際の保険料額は加入している健康保険や標準報酬月額等によって異なります。
4.軽減されるのは「3年間」
注意したいのが制度を利用できる期間です。
対象となる従業員の保険料軽減は、事業所が制度を利用している期間の範囲内で行われます。
事業所が制度の利用を開始してから3年が経過すると、従業員の保険料軽減は終了します。
そのため、制度開始後に入社した人や、途中から社会保険へ加入した人について、必ずしも一人ひとりが丸3年間軽減を受けられるわけではありません。
たとえば事業所が2026年10月に制度利用を開始した場合、
2026年10月から加入したAさんは3年間利用できますが、2027年10月から加入したBさんは残りの2年間となります。
ここは実務上、間違えやすいポイントです。
5.従業員50人以下の会社でも利用できる?
今回の制度で特に注目したいのがここです。
現在、短時間労働者への社会保険適用が義務化されていない小規模な企業でも、労使の合意によって「任意特定適用事業所」となれば、2026年10月1日以降、この制度の対象となることができます。
ただし、
2026年9月30日以前に任意特定適用事業所となった事業所は、保険料調整制度の対象外
とされています。
制度利用を検討している企業は、手続きのタイミングにも注意が必要です。
6.社会保険の適用拡大は小規模企業にも広がります
今後は企業規模に応じて、短時間労働者への社会保険適用が段階的に拡大される予定です。
資料では次のスケジュールが示されています。
| 従業員数 | 対象時期 |
|---|---|
| 36~50人 | 2027年10月~ |
| 21~35人 | 2029年10月~ |
| 11~20人 | 2032年10月~ |
| 10人以下 | 2035年10月~ |
ここでいう「従業員数」は、単純な会社全体の人数ではありません。
厚生年金の被保険者数(フルタイム従業員+週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員)で判断します。
「うちはパートを含めて50人を超えているから対象だ」
「全社員では50人以下だから関係ない」
と単純に判断しないよう注意してください。
7.中小企業にとってのメリットは?
この制度を単なる「社会保険料の軽減措置」と考えるだけでは、少しもったいないかもしれません。
経営者として注目したいのは、むしろ人材確保と勤務時間の問題です。
パート社員から、
「社会保険に入りたくないので勤務時間を減らしたい」
「手取りが減るならシフトを増やしたくない」
と言われ、人員配置に苦労している会社もあるでしょう。
保険料調整制度によって社会保険加入直後の本人負担を軽減できれば、次のような効果が期待できます。
① 人材の確保・定着
社会保険に加入しながら働ける環境を整備することで、採用や定着につながる可能性があります。
② 従業員の働く意欲の向上
「社会保険料が増えるから働かない」という就業調整を減らし、希望する従業員が勤務時間を増やしやすくなります。
③ シフトが組みやすくなる
特に小売業、飲食業、介護・福祉、サービス業など、多くの短時間労働者が働く企業では、人員配置を安定させる効果が期待できます。
8.会社側には手続きが必要です
制度は自動的に適用されるわけではありません。
保険料調整制度を利用する場合は、原則として「保険料調整開始申出書」の提出が必要です。
さらに、これから任意特定適用事業所になる場合には、
- 任意特定適用事業所申出書
- 同意対象者の2分の1以上の同意を示す書類
- 対象となる短時間労働者の被保険者資格取得届
などの手続きが必要となります。
また、保険料調整開始申出については、事業所が保険料調整制度の対象となった日から2年以内という期限があります。
任意特定適用事業所になる場合には、対象となる従業員への説明や、同意対象者の2分の1以上の同意も必要です。
制度だけを見て判断するのではなく、事前に対象者の把握と社内説明を進めておくことが重要です。
9.熊本県内の中小企業が今から確認しておきたいこと
2026年10月の制度開始に向けて、まず次の点を確認してみてください。
- 現在の厚生年金被保険者数は何人か
- 週20時間以上働いているパート・アルバイトは何人いるか
- 月収13万円未満の人は何人いるか
- 社会保険加入を避けるために勤務時間を調整している人はいないか
- 今後、人手不足を補うため既存のパート社員に勤務時間を増やしてもらいたいか
- 任意特定適用事業所になるメリットがあるか
特に重要なのは、「制度を使えるか」だけではなく、「制度を使うことで自社の人手不足や採用・定着の問題を改善できるか」という視点です。
まとめ|社会保険適用拡大を「人材戦略」の視点から考える
社会保険の適用拡大というと、
「会社の社会保険料負担が増える」
という点に目が向きがちです。
もちろんコストの確認は必要です。
一方で、人手不足が続く中、既存のパート社員が安心して勤務時間を増やせる環境を整えることは、中小企業の人材確保という点でも重要になっています。
2026年10月から始まる保険料調整制度は、その選択肢の一つになりそうです。
特に、今後社会保険の適用拡大の対象となる従業員50人以下の企業では、
「対象になるまで何もしない」のではなく、現在の人員構成やパート社員の働き方を確認しておく
ことをおすすめします。
当事務所では、社会保険の適用拡大や短時間労働者の社会保険加入、任意特定適用事業所の手続きなどについて、中小企業の実情に合わせたご相談を承っています。
「自社はいつから対象になるのか」
「どのパート社員が対象になるのか」
「任意適用した場合、会社負担はどのくらい増えるのか」
「制度を利用するメリットがあるのか」
など、判断に迷われる場合は、お気軽にご相談ください。
※本記事は2026年8月時点の公表資料をもとに作成しています。制度の詳細や手続きについては、最新の厚生労働省・日本年金機構の情報をご確認ください。
参考情報
厚生労働省・日本年金機構パンフレット
「2026年10月1日から労働者の社会保険料負担を支援する制度が始まります(保険料調整制度)」
厚生労働省


