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生成AIの活用

③生成AIによる中小企業の人事労務文書作成と導入事例【社労士が解説】

熊本市の特定社会保険労務士、荻生清高です。

全10回にわたり、中小企業の人事労務における、生成AI活用とリスク管理について説明します。
3回目の今回は、AIを使った雛形作成・表現チェック手順、導入事例の紹介や法令遵守のポイントをまとめました。

なお、2025年4月28日に行った、当事務所セミナーの内容をまとめています。

 

プロが教える、AIを使った雛形作成・表現チェック手順

労務管理の現場において、生成AIを活用した文書作成は劇的な効率化をもたらすだけでなく、精度や表現の質を向上させる強力なツールとなっています。しかし、単にAIに任せるだけではなく、適切な手順とチェック体制を設けることが不可欠です。社会保険労務士として実務経験を持つ私が、専門家の視点から「AIを使った労務文書の雛形作成と表現チェック」の具体的手順を詳しく解説します。

 

1. 雛形作成の準備と情報整理

まず、AIに依頼する前に「どのような文書を作成するか」を明確にする必要があります。求人広告や就業規則の改訂、各種労働契約書、育児・介護休業制度の案内文など、用途ごとに必要な情報を整理し、AIへの入力に適した形でまとめましょう。

特に注意したいのは、社名や個人名、具体的な数値などの機密情報や個人情報は、必ずマスキングや削除を行うことです。AIの情報取り扱いルールはサービスごとに異なり、入力情報が学習データに利用されたり、一時保存されるケースもあります。これらを防ぐ最善策として、原稿の文中に固有名詞を含めない、テキストエディタで別途管理しながら必要な部分のみAIに入力する方法がおすすめです。

 

2. AIへの指示(プロンプト)作成のポイント

AIは与えられた指示(プロンプト)に基づいて文章を生成します。そのため、適切な指示を書くことが重要ですが、難しく考えすぎる必要はなく、むしろ「具体的かつ簡潔に」伝えることが成功の鍵です。

たとえば、求人広告の雛形を作る場合、「〇〇業界の求人募集、募集職種は△△、学歴不問、必要な資格は□□、勤務時間と給与の範囲は〇〇、福利厚生として××を含めて」など具体的な条件を並べると、AIはそれを反映した文章を生成しやすくなります。

また、「丁寧語で書いてほしい」「中小企業向けにわかりやすい文章に修正してほしい」などの表現スタイルの指定も加えると、クオリティの高いドラフトが得られます。最近はAI自体に「効果的な質問の仕方を教えてください」と尋ね、AIに対話形式で必要な情報を尋ねさせる方法も有効です。これにより、一方的な指示では見落としがちな詳細もフォローできます。

 

3. 生成結果の初期レビューと編集

AIからのアウトプットが出たら、専門家の視点で「法令遵守」や「表現の適切性」「企業文化との整合性」などの観点から注意深くチェックします。労務管理分野では、法令や判例の正確な反映が必須であり、AIが誤った情報(ハルシネーション)を生成するリスクを考慮しなければなりません。

具体的には、就業規則の条文であれば、労働基準法や育児・介護休業法などの最新の法改正内容が反映されているかを社労士的視点で確認し、不明点があればWeb検索や専門書を用いてファクトチェックを行います。AIを便利な下書きツールと位置づけ、「そのまま使うのではなく、必ず修正・調整を加える」ことを強調したいポイントです。

 

4. 表現のブラッシュアップとわかりやすさの追求

文章の読みやすさやわかりやすさも重要な要素です。AIが生成した文章は必ずしも人間の感覚に合うとは限りません。語尾が硬すぎる、冗長になっている、専門用語が多すぎるなどの場合は、必要に応じて引き直しや語彙の変換を行います。

AIは「文章を簡潔に」「誰にでも理解できるように」といったリクエストにも対応可能ですので、再度AIに精度の高い指示を出して、よりブラッシュアップした文章を作成することも一つの手法です。人間が読む文書として、社員や求職者に不安や誤解を与えない表現を心がけることが、結果として企業リスクの抑制にもつながります。

 

5. 最終チェックと承認プロセスの確立

完成した文書は、社内の責任者や法務担当者、場合によっては顧問社労士など複数の視点で最終チェックを行い、法令違反や社内規定との不整合を見逃さない体制が不可欠です。生成AIはツールの一つであり、AI任せではなく人間の責任で使用する意識を根付かせることが重要です。

また、チェックプロセスを社内ルールとして文書化し、誰がいつどのように確認し承認するかを明示しておくことが望ましいです。こうした運用ルールは、後日のトラブル防止や内部監査時の根拠資料としても有効となります。

 

6. 実践的な運用で押さえておきたい留意点

AIによる文書生成では誤情報リスクもあるため、「生成された文書は必ず修正・確認する」ことを徹底したうえで利用することが最も重要です。特に労務管理では法令遵守が命であり、AIの出力を機械的に信じてしまうと思わぬ問題に発展する恐れがあります。

また、機密情報の取扱いには細心の注意を払い、社内規定に基づきマスキングを徹底してください。AIプラットフォームの利用規約や設定を把握し、情報保護対策も怠らないこと。こうした運用が生成AIの利便性と安全性を両立するカギとなります。

 

以上の手順を踏まえれば、生成AIは労務文書作成における強力なアシスタントとなり、労務管理のDX推進に大きく貢献します。私の事務所でも、これらのポイントを踏まえたAI導入支援を行っており、個別のご相談にも対応可能です。是非、安全かつ効果的なAI活用によって業務の質をさらに向上させてください。

 

導入事例紹介と、法令遵守のためのポイント

生成AIを活用した労務管理は、中小企業にとって業務効率化の切り札として大きな期待を集めています。しかし、導入にあたっては具体的な事例から学び、法令遵守の徹底を図ることが不可欠です。ここでは、私が実務支援で携わった複数の導入事例を紹介しつつ、法令遵守の観点から押さえるべきポイントを詳しく解説します。

まず、熊本県内のスタートアップ企業における導入事例をご紹介します。この企業では、従業員数が20名程度で、これまで手作業で行っていた労務文書作成や社員問い合わせ対応に課題を抱えていました。生成AI導入の契機は、就業規則の改訂対応や求人広告の作成作業の効率化でした。AIに就業規則のドラフト作成を試行したところ、短時間で複数パターンの案が出てきました。これにより、従来なら数週間かかっていた作業が数日で完了し、経営者と労働者双方の理解度向上につながりました。しかし、AIの出力した条文は全て法令に適合しているわけではないため、専門家である私が細部を精査し、法改正や判例を踏まえて修正した点が重要です。これにより、安心して法令遵守が担保された就業規則が整備できました。

次に、地方の中小製造業での事例をお伝えします。この企業は従業員数50名ほどで、育児・介護休業制度の周知が雑然としており、問い合わせ対応に多くの時間が割かれていました。生成AIを活用し、FAQ形式のマニュアル文章を作成。ここでも「丁寧語で中小企業向けにわかりやすく」という具体的指示を与え、生成結果を修正・加筆して完成させました。結果として、従業員からの問い合わせが30%減少し、人事担当者の負担軽減を実現。情報提供の質も高まり、制度利用が促進されたことも確認できました。ただし、ここでも個人情報や機密情報の厳格なマスキングとAIプラットフォームのデータ利用設定(学習利用しない設定を選択)を徹底し、情報漏洩リスクの低減に努めたことがポイントです。

これらの事例からわかるように、生成AIによる文書作成は「完全自動化」ではなく、「AIを活用した下書き作成」と「人間による専門的な精査」の組み合わせが肝要です。法令違反のリスクを防ぐために、AIが生成した情報を最終的に人間がチェックし、法改正や自治体条例、判例等に即した内容に整えることが欠かせません。例えば、労働基準法や育児・介護休業法の最新改正点、同一労働同一賃金に関する判例動向等を適宜反映させる必要があります。

法令遵守のための具体的ポイントは次の通りです。まずは、AI生成文書類に「責任者による最終チェック体制」を設けること。この責任者は必ず労務管理の専門知識を有していることが望ましいです。次に、就業規則や規定に含める表現は曖昧さを排除し、AIが作成した一部表現に誤解を生む余地があれば修正を行うとともに、会社独自の実態や風土に合わせた運用ルールを明文化することが必要です。また、AI利用時に個人情報や機密情報を入力する際には、「マスキング」「要約」「抽象化」等の工夫により直接的な情報漏洩のリスクを抑制してください。これに加え、AIシステムのデータ利用設定に熟知し、学習用データへの転用を停止する設定を管理者が責任を持って管理することが求められます。

さらに、導入の際はAI活用を単一業務に限定して段階的に拡大し、リスク管理ルールの浸透と遵守状況の定期的な監査を確立しましょう。法令遵守を推進するためには、定期的な従業員教育も不可欠であり、AIに関わるリスクと安全な運用方法を周知徹底することが重要です。加えて、AIの判断ミスや曖昧さにより労務トラブルが起きた場合の想定シナリオを作成し、迅速な対応プロセスを用意しておくことも、リスクを最小化するための効果的な施策です。

最後に、生成AIの導入は単なる業務効率化のツールではなく、法律遵守とリスク管理を前提とした運用体制を構築しながら進めるべきプロジェクトであることを強調します。私はこれまでの実務経験を活かし、中小企業様に対してAIの安全かつ効果的な活用支援、クラウド勤怠システム連携、法令対応のアドバイスを提供しています。お気軽にご相談ください。

 


10回の記事は、こちらのタグ「生成AIの基礎知識」にまとめています。

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特定社会保険労務士 荻生 清高|社会保険労務士 荻生労務研究所(熊本市)
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