⑧生成AI時代の著作権リスクと労務管理業務で注意すべき対応策

熊本市の特定社会保険労務士、荻生清高です。
全10回にわたり、中小企業の人事労務における、生成AI活用とリスク管理について説明します。
8回目の今回は、生成AIの活用で生じる著作権リスクと、その対応策について解説します。
なお、2025年4月28日に行った、当事務所セミナーの内容をまとめています。
AI活用で生じる著作権リスクの基礎知識
生成AIは、その利便性から労務管理や企業の文書作成、問い合わせ対応、規定整備など幅広い業務で急速に活用が進んでいます。一方で、生成AIの活用に伴い避けて通れないのが「著作権リスク」です。生成AIが学習の過程で蓄積した膨大なデータの中には、著作物が含まれており、その扱いを誤ると企業が法的トラブルに巻き込まれる可能性があります。本稿では、労務管理分野の専門家として実務経験に基づき、生成AIの著作権リスクの基礎知識と、企業として取るべき具体的な対策について詳述します。
まず押さえておきたい、生成AIの仕組み
まず押さえておきたいのは、生成AIの仕組みです。生成AIはインターネット上の膨大な文章、画像、音声などを学習し、蓄えたパターンから新たなアウトプットを自動生成します。学習に使われたデータには、新聞記事や書籍、ウェブサイトの文章、写真など、「著作権で保護された」作品が多数含まれていることが普通です。ところが、生成AIがこれらの著作物をどのように使っているかは、技術的にも法的にも曖昧な点があります。特に著作権法では、著作物を無断で複製・転載・改変することが原則禁止されており、生成AIによるコピーや類似作品生成は著作権侵害に該当する可能性が指摘されています。
具体的に懸念される著作権リスク
具体的に懸念されるリスクとしては、例えば求人広告や就業規則の文案を生成AIに作成させた際、学習データの中にある他社の規定文や著名作家の文体に似た表現が出力されることがあります。この場合、内容が意図せず著作権侵害にあたる恐れがあり、企業の信用問題や法的な損害賠償リスクに直結します。特に、AIに世に公開されている著作物の文面をそのままコピーして生成させ、社内文書等に転用することは極めて危険です。また、画像生成AIの場合では、例えばジブリアニメのキャラクターが著作権の保護対象となるため、これに酷似した画像を無断生成し使用すると権利侵害となる可能性が高いです。こうした問題は外部から発覚すると、ネット上で拡散し企業のブランドイメージが傷つくことも少なくありません。
企業に求められる対応
ではどのように対応すべきでしょうか。まずは社内規程として「生成AIの利用にあたっては、著作権侵害となる恐れのある内容は一切入力しない」ことを明文化することが重要です。機密情報だけでなく、他社の文書や第三者の著作物をAIに丸ごと入力すること、そのアウトプットを無批判に利用することは避けなければなりません。文書作成時は、業界標準のテンプレートや自社独自の規定を基にAIに指示を与えるようにし、決してネット上の著作物の無断コピーを許容しないルールを徹底します。
次に、AIが生成した結果については、「必ず専門家のチェックを経てから利用する」仕組みを構築することが必須です。社労士が最終的な文面の著作権的な問題や法令適合性を確認し、必要に応じて表現の変更や修正を行います。同時に、著作権に抵触しそうな部分をあらかじめ検知・排除するためのツール導入も検討してください。例えば、文章チェックプログラムで類似文書の検出や過剰な引用がないかの確認を行う方法です。
さらに、社員や利用者に対して、著作権の基礎知識と生成AI利用の注意点を周知徹底することも欠かせません。労務管理の現場であっても、著作権違反は企業の法的リスクだけでなく、社会的信用失墜につながります。今回のようなAI活用時のリスクを例示し、具体的にどのような行為が禁止かを指導し、疑問点があれば専門家に相談するよう教育プログラムを組むことが望ましいです。
なお、現在、生成AIの著作権問題に対する法的整備は世界的に進行中であり、日本でも著作権法の改正やガイドラインの策定が検討されています。AIサービス事業者も、利用規約やプライバシーポリシーに著作権利用の制限や責任範囲を明記するケースが増えてきています。常に最新の規約や法令情報を把握し、適合した運用を行うことがリスクマネジメント上重要です。
社労士の視点:ルールと運用体制による適正利用を
私の経験上、生成AIの著作権リスクは「知らなければ絶対に回避できない」と言えます。労務分野における生成AI活用は、単なる効率化ツールの導入にとどまらず、法令遵守やリスク管理の視点から「適正使用の担保」が不可欠です。生成AIが創出するアウトプットに潜む著作権問題を軽視せず、早期に自社の利用ルールを整備し、必要な教育とチェック体制を構築することが、安心してAIを活用し続けられる企業の条件であると断言します。
今後も生成AIは進化し、より高度な文章・画像生成が可能となるでしょうが、著作権リスクは常に存在します。人材不足やコスト制約がある中小企業こそ、社会保険労務士など専門家の支援を受けつつ、著作権侵害を防止する運用体制を確立することが成功の鍵です。この分野の動向を注視し、最新の知見を取り入れた対応が求められています。
10回の記事は、こちらのタグ「生成AIの基礎知識」にまとめています。
特定社会保険労務士 荻生 清高|社会保険労務士 荻生労務研究所(熊本市)
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