従業員を守るために退職勧奨を決断する―経営再建に必要な人事対応とは

「辞めさせる」ことが、従業員を守ることにつながる?
「従業員を辞めさせる」――経営者にとって、これほど重く、つらい決断はありません。
しかし、経営が厳しい状況に陥ったとき、先送りにすることで会社そのものが立ち行かなくなり、結果的にすべての従業員の生活を危うくしてしまうこともあります。
本稿では、熊本県内でも増えつつある倒産リスクを背景に、経営再建のために必要な人事対応としての「退職勧奨」や「人員整理」について、専門的な観点から解説いたします。
熊本県で1200社が倒産危機、迫られる経営判断
現在、物価高や人件費の高騰を受けて、企業の経営環境は一段と厳しさを増しています。熊本県においても、この1年以内に倒産するおそれが高いとされる企業が1200社以上にのぼるという調査結果も報じられており、多くの経営者が今後の対応に頭を悩ませています。
こうした状況下で最も求められるのは、「早めの判断」と「適切な実行」です。
経営の悪化が明らかになってからでは、従業員の生活や会社の信用を守るための選択肢は限られてしまいます。経営の持続可能性を高めるためには、雇用の維持と再構築の両立を真剣に考える必要があります。
「早めの決断」が従業員の生活を守った事例
ある熊本県内の中小企業では、資金繰りの悪化が見えてきた段階で、社労士と連携し、退職勧奨による人員整理を実施しました。
同社では、まず会社の財務状況と将来予測を経営陣と共有し、従業員にも誠実に現状を説明。そのうえで、希望退職を募り、退職後の再就職支援もあわせて行いました。
結果として、会社は倒産の危機を回避し、退職した従業員の多くも新たな職場に移ることができました。
退職という選択が、単なる「雇用の切り捨て」ではなく、「生活の再構築」につながることもある――その実例といえるでしょう。
退職勧奨・人員整理は「専門家との連携」が成功のカギ
ただし、退職勧奨や人員整理は、感情的・感覚的に進めるべきものではありません。
労働法の観点からも非常に高度な配慮が必要であり、進め方を誤れば労使トラブルや法的責任を招く恐れがあります。
たとえば、退職勧奨と解雇の違いを明確にしないまま手続きを進めたり、従業員に一方的な圧力をかけたりすることは、法的に不適切な対応と判断されかねません。
そのため、特定社会保険労務士や労務の専門家と連携し、企業ごとの状況に応じた適切な対応を設計・実行することが不可欠です。
会社と従業員を守る「最後の選択」を後悔しないために
「誰かを辞めさせる決断」ではなく、「会社とすべての従業員の生活を守るための選択」
このように捉えることで、経営者の判断には大きな意味が生まれます。
退職勧奨や人員整理は、確かに困難な判断を伴います。しかし、正しいステップを踏み、適切な支援を受けながら進めることで、会社も従業員も次の一歩を踏み出すことが可能です。
経営判断に迷いがある場合は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
再建への道は、早めの一歩から始まります。
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