改正育児・介護休業法の対応、進んでいますか?―埼玉労働局の自主点検から見える中小企業への示唆

2025年4月と10月、育児・介護休業法改正法が相次いで施行され、特に「育児期の柔軟な働き方のための措置」義務が企業に課せられるようになります。これを受け、埼玉労働局が中小企業240社に対して自主点検を実施。今後の労務管理にどう備えるべきか、熊本県内の中小企業経営者の皆さまに向けて解説します。
埼玉労働局が240社に自主点検を実施へ
埼玉労働局は2025年度中に、中小企業を中心とした240社へ育児・介護休業法の改正に関する自主点検票を配布します。これは、10月から義務化される「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」を含めた法令遵守状況の確認を目的としています。
対応の遅れは“報告徴収”の対象に
今回の特徴は、単なる任意調査ではなく、自主点検の回答が「理解不足」や「無回答」の場合に報告徴収を行い、違反があれば是正を助言したうえで、是正されなければ指導の対象とする、という点です。実務対応を怠ることが、実際の行政介入を招くリスクがあるということになります。
「柔軟な働き方を実現するための措置」とは何か?
2025年10月1日施行の措置義務では、例えば始業・終業時刻の調整(時差出勤制度)やテレワーク制度など、5つの選択肢から2つ以上を導入する必要があります。具体的な時間幅の明示はないものの、「子の送迎を想定した柔軟性」が必要とされます。これは制度を形だけ整えるのではなく、実効性を持たせる設計が求められているということです。
誤った理解を炙り出す「チェック方式」に注目
自主点検票には、あえて誤った選択肢が設けられており、法令理解の有無が問われる構造になっています。たとえば、子の看護等休暇の対象年齢を、法改正前の「小学校就学の始期に達するまで」と誤認させる項目などです(正しくは「小学校3年生修了まで」)。これは「知っているつもり」を可視化する工夫であり、自己点検の精度を高める手法といえるでしょう。
熊本の中小企業も「自主点検」を
埼玉県での取り組みは、いずれ全国的な動きとなる可能性があります。熊本の経営者の皆さまも、自主的な法改正対応のチェックを始めることが肝要です。当事務所でも、育児・介護休業制度の整備支援や点検項目の解説など、実務対応をご支援しています。
まとめ
制度改正は、企業にとって「守るべきハードル」であると同時に、「人材確保と定着」のチャンスでもあります。行政の目を気にする前に、自社の労務環境を見つめ直す好機と捉え、実効的な制度設計を進めましょう。
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