「就業規則の相対的必要記載事項」とは?実務での位置づけ
就業規則の相対的必要記載事項とは?実務での位置づけと落とし穴まで整理
就業規則には「必ず書くべき事項」がある――この理解は多くの担当者に浸透しています。一方で、実務上のトラブルは「書く必要があるのに、条件次第で漏れやすい事項」、つまり相対的必要記載事項の不備から起こりがちです。「制度は運用しているのに規定がない」「規定はあるが条件や手続が曖昧」といった状態は、労使紛争・行政指導・社内統制の面でリスクになります。ここでは、就業規則の相対的必要記載事項の意味と実務での位置づけを、士業の視点も交えて解説します。
就業規則の相対的必要記載事項の定義と全体像
就業規則の記載事項は大きく、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項・任意記載事項に整理されます。相対的必要記載事項とは、「会社がその制度を設けるなら、就業規則に必ず書かなければならない事項」を指します。裏返すと、制度自体が存在しない(設けていない)なら記載不要ですが、運用しているなら記載が必須になります。制度運用の根拠が就業規則上不明確だと、支給条件や手続を巡って従業員との解釈が割れやすく、会社側の説明責任が重くなります。
相対的必要記載事項に該当しやすいテーマ
相対的必要記載事項として典型的に問題になるのは、退職手当(退職金)、臨時の賃金・賞与(ボーナス)、最低賃金額に関する事項、費用負担(食費・制服・備品・研修費など)、安全衛生や表彰・制裁、休職制度、出張・転勤の取り扱い、私傷病時の取り扱いなど、会社が「制度として」運用している領域です。特に退職金・賞与・休職・懲戒は、紛争に発展しやすい一方で「慣行で回っている」企業も多く、規定化の有無が実務上の分水嶺になります。制度があるのに就業規則や賃金規程に記載がない場合、従業員側の期待権や公平性の観点から争点化しやすくなります。
なぜ「書かないと危ない」のか:法的効力と運用の整合
就業規則は、周知され合理性が認められれば、労働契約の内容として効力を持ちます。相対的必要記載事項が未整備だと、制度の存在自体は認められても、支給・不支給、対象範囲、算定方法、手続、例外などが曖昧になり、恣意的運用と評価される余地が生まれます。例えば賞与を「業績次第で支給」として口頭で説明していても、規程に支給要件・査定・支給日・減額事由などがないと、従業員は「当然もらえるもの」と理解しがちです。結果として、会社の意図と従業員の期待がズレ、退職時や不支給時に争いになります。規定化は、制度の透明性と一貫性を担保するための“運用の取扱説明書”でもあります。
実務での位置づけ:本則・別規程・規程体系の作り方
相対的必要記載事項は、就業規則の本則にすべて詰め込む必要はありません。実務では、就業規則本則は骨格(労働時間・服務規律・休暇・懲戒など)を中心にし、賃金規程、退職金規程、育児介護休業等規程、出張旅費規程、休職規程などを別規程として体系化することが多いです。重要なのは、別規程を「就業規則の一部」として位置づけ、適用範囲・優先順位・改定手続・周知方法を整合させることです。条文の参照関係が曖昧だと、改定時に一部だけが置き去りになり、規程間の矛盾が生じます。社労士は、法改正対応と規程体系の整合を踏まえ、実務運用と条文化のギャップを埋める設計を支援します。
落とし穴:慣行運用・口約束・雇用契約書との不一致
相対的必要記載事項で最も多い落とし穴は「慣行でやっているから規定がなくても大丈夫」という誤解です。慣行は一定条件で労働条件として固定化し得る一方、会社がコントロールできる範囲が狭まり、変更時に強い反発を受けます。また、雇用契約書や労働条件通知書に「賞与あり」「退職金あり」と記載しているのに、就業規則や別規程が存在しない・内容が一致しないケースも危険です。優先順位(契約書が優先か、就業規則か)や合理性が争点になり、説明不足は会社の不利に働きやすいからです。社労士の視点でも、社内規程の整備はコンプライアンス文書の基盤であり、規程間の整合性と改定履歴の管理が重要になります。
整備の進め方:棚卸し→条文化→周知→運用確認
実務での最短ルートは、まず「いま運用している制度の棚卸し」を行うことです。退職金、賞与、見舞金、休職、研修費の返還、転勤の有無、表彰・制裁、在宅勤務手当など、支給・不支給や手続が発生するものを洗い出します。次に、支給要件・対象者・算定方法・支給時期・例外・手続・不支給事由・減額事由・会社の裁量範囲を明文化し、既存の就業規則・賃金台帳・運用実態と突合します。最後に、変更手続(意見聴取・届出が必要な場合)と周知(閲覧方法・配布・イントラ掲載)を徹底し、運用担当者の手順書も合わせて更新します。社労士は労働法令適合と紛争予防、また社内規程整備や文書管理の観点からも、支援できる領域です。
まとめ:相対的必要記載事項は「制度を守るための規程」
就業規則の相対的必要記載事項は、「制度を設けるなら必ず書く」ことで、会社と従業員双方の見通しをそろえるための重要パーツです。未記載のまま運用すると、期待権や公平性、恣意性の疑念が生まれ、紛争や行政指導の火種になります。まずは運用制度の棚卸しを行い、別規程も含めて規程体系を整え、周知と実務運用の一致を確保しましょう。退職金・賞与・休職・懲戒など争点化しやすい領域ほど、専門家(社労士)に相談し、法令適合と運用実態に即した条文化を進めることが、最も確実なリスク対策になります。
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