若手人材の定着に効く「奨学金返還支援制度」栃木県と熊本県の事例から考える中小企業の実務対応

「人材は採りづらい、特に若手はすぐ辞める」――。多くの中小企業経営者が抱えるこの課題に、福利厚生の一環として注目されているのが「奨学金返還支援」です。2025年11月に発表された栃木県の新制度と、熊本県で既に進行中の制度を比較し、熊本県内中小企業がいま取り組むべき実務対応を、社会保険労務士の視点から解説します。
栃木県が導入「奨学金返還支援企業向け助成金制度」
栃木県は、35歳未満の従業員に対して企業が奨学金返還支援を行った場合、その一部を助成する新制度を創設しました。
– 支給対象:35歳未満の従業員
– 助成額:1人あたり年9万円(助成率1/2)
– 期間:最大3年間
– 企業あたりの対象人数:3名まで
– 方法:手当支給または代理返還
– 備考:就業規則整備例や運用ポイントを県が公表、SNS等で制度導入企業の広報支援も
地方での若年層の確保・定着を目的とした、実務的かつ広報効果も意識した制度です。
熊本県もすでに動いている「くま活サポート」による本格支援
熊本県でも、若年層のUターン・Iターン就職を促進する目的で「ふるさとくまもと創造人材奨学金返還等サポート制度(通称:くま活サポート)」が運用されています。
主な特徴は以下の通り:
– 対象:県外在住の若年層(例:35歳以下)で県内企業に就職する者
– 支援内容:奨学金返還支援として最大456万円(大学院卒)、244.8万円(大卒)を10年かけて分割支給
– 方式:熊本県と県内企業が費用を折半(1/2ずつ負担)
– その他:赴任費用や研修費用の補助もあり
– 制度導入企業は県公式HP等で広報・募集支援あり
– 実施には企業の登録・申請と、就業規則等の整備が必要
このように、熊本県の制度は「支援規模が大きく」「期間が長期にわたり」「企業広報にも繋がる」点が特徴です。
制度導入時の実務ポイント
1. 制度設計と就業規則整備
– 支給要件や対象従業員の明確化
– 支給額・時期(毎月/賞与連動/年1回など)の選定
– 退職時の対応など運用ルールの明文化
2. 税務・社会保険の確認
– 奨学金返還支援金は原則給与課税対象
– 社会保険料の算定にも影響する可能性あり
3. 求人・採用活動への活用
– 「奨学金返済を支援しています」と明示することで若手応募者への訴求力を強化
– 制度参加企業として県の公式サイト等に掲載されることで認知度向上
4. 県制度の活用準備
– 企業登録・助成申請スケジュールの確認
– 助成上限・対象者要件との整合性をチェック
– 制度変更に応じた柔軟な対応ができる体制構築
まとめ:熊本県内企業がいま備えるべきこと
人材確保がますます難しくなる中、奨学金返還支援は単なる福利厚生ではなく、「中小企業の生き残り戦略」となり得ます。熊本県内でも既に支援制度が整備され、参加企業には大きなメリットがあります。
– 若手採用の競争力を高めたい
– 福利厚生を強化して離職を防ぎたい
– 県制度を活用して経費負担を軽減したい
こうした課題をお持ちの経営者様は、ぜひ一度、制度導入をご検討ください。
当事務所では、奨学金返還支援制度の導入支援から就業規則整備、助成金活用までトータルでサポート可能です。お気軽にご相談ください。
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