熊本市電「非正規79人」問題にみる、地域公共インフラと雇用の課題

熊本市電の運転士80人のうち、79人が非正規雇用。市議会で取り上げられたこの課題は、単なる一自治体の人事制度にとどまらず、地域インフラの安全性や雇用政策そのものを問い直す重要な論点です。社会保険労務士としての視点から、この問題の本質と中小企業にも通じる示唆を探ります。
非正規率98.75%、市電という「ライフライン」の実情
2024年4月時点、熊本市電の運転士80人のうち、定年後再任用を除く79人が非正規の会計年度任用職員。この数字は衝撃的です。鉄道やバスといった交通インフラの安全性が、非正規雇用に支えられているという構図は、地域社会全体にとって大きなリスクとも言えます。
平均年収493万円の裏にある長時間労働
市電運転士の2023年度平均年収は398万円、今年度は493万円へ改善予定ですが、その背景には年間423時間もの時間外勤務が存在します。これは月平均約35時間、繁忙期にはさらに増えることが予想されます。金額だけでは測れない過重労働と精神的負担が潜んでいます。
処遇改善の必要性と中小企業への教訓
議会では「正規化を急ぐべき」「やる気を引き出すには処遇改善が必要」との声が上がりましたが、交通局の回答は「今後研究・検討したい」にとどまりました。これは他人事ではありません。中小企業でも、責任ある業務を任せる従業員に対する適切な評価と処遇が求められています。
公共部門の非正規化が意味するもの
会計年度任用職員制度は、業務の柔軟化・効率化を目的に導入されましたが、本質的には「非正規公務員」を大量に生み出す制度設計です。これは長期的に見れば、働き手のモチベーションや社会保障の不安定化、さらには人材の流動性低下を招きます。
地域の安全と雇用の安定性をどう両立するか
市電運転士の正職員化は、単に待遇の問題ではなく、地域の移動インフラの安全性・信頼性を確保する上で避けて通れない論点です。中小企業経営者にとっても、「責任ある仕事を担う人材をどう処遇すべきか」は共通の課題です。人手不足時代のいまこそ、処遇改善をコストではなく「投資」と捉える視点が求められます。
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