役員でも「労働者」になりうる─労災認定が示した実態重視の姿勢とは

専務取締役として現場監督を担っていた男性の死が、労災と認定されました。一見すると「使用者」にあたる役員。しかし実態に照らして労働者性が認められた今回のケースは、熊本県内の中小企業にとっても他人事ではありません。役職と実態の乖離に光を当て、経営者が押さえておくべきポイントを解説します。
労災認定を受けた「専務取締役」
建設会社の専務取締役だった66歳の男性が、月100時間を超える残業の末に急性心筋梗塞で亡くなりました。彼は会社のナンバー2でありながら、週1日の休みで毎日現場に立ち、指揮を執っていたとのことです。
労基署は、実質的に代表取締役の指揮命令のもとで働いていたこと、工事受注や人員配置など業務執行権がなかったことを理由に、「労働者」としての性質を認定し、労災と判断しました。遺族はこの労災認定をもとに会社や代表に約5千万円の賠償を求めて提訴、会社側が解決金を払って和解しています。
実態がすべてを決める
一般的に役員は「使用者」と見なされ、労基法や労災保険法などの労働者保護法制の保護を受けません。しかし、役職名にかかわらず、業務の指示を受けて働き、労務提供の対価として報酬を受けている実態があれば、「労働者性」が認められる可能性があるのです。
今回の事例では、残業時間の記録が手帳と出勤簿により明確に裏付けられており、また同僚たちの証言が労災認定に大きく貢献しました。
熊本の中小企業における示唆
熊本県内でも、社長や専務といった役員が現場作業を担う中小企業は少なくありません。とくに建設、運輸、農業などの分野では、経営と現場労働が曖昧に混在するケースが目立ちます。
このような場合、労務管理をおろそかにすると、労災申請や労基署の調査において企業側の説明責任が厳しく問われます。役員であっても、実態としての労働者性が立証されれば、会社は責任を問われる立場になります。
労働時間の「見える化」と文書管理の重要性
今回の事例では、故人自身が出勤簿を記録していたことが重要な証拠となりました。逆にいえば、役員の労働実態が曖昧なままであれば、企業にとってリスクが増すことになります。
勤怠管理、労務の分担、業務命令の流れ──こうした情報は可能な限り明文化・記録化しておくことが、企業を守ることにもつながります。
まとめ
「役員だから労災は関係ない」と思い込むのは危険です。中小企業経営においては、現場に立つ役員の労働者性にも留意した労務管理が必要です。
今回の事例は、役職よりも実態を重視する今後の労災判断の流れを象徴しており、熊本の中小企業にとっても、労務体制の見直しとリスクマネジメントの重要性を再認識させられる出来事となりました。
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