⑨社労士事務所が提供する生成AI導入支援と継続的リスク管理サポート

熊本市の特定社会保険労務士、荻生清高です。
全10回にわたり、中小企業の人事労務における、生成AI活用とリスク管理について説明します。
9回目の今回は、生成AIの活用で生じる著作権リスクと、その対応策について解説します。
なお、2025年4月28日に行った、当事務所セミナーの内容をまとめています。
運用後のリスクモニタリング&社内ルール改善支援
生成AIをはじめとする先端技術の導入による労務管理のDX推進は、中小企業にとって業務効率化やヒューマンエラーの軽減といった大きなメリットをもたらします。しかし、運用開始後のリスクモニタリングを怠ると、情報漏洩や誤情報拡散、法令違反などのリスクが顕在化し、企業経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そこで、本稿では導入後の効果的なリスクモニタリングの実践方法と、運用ルールの継続的な改善支援について解説します。
まずリスクモニタリングにおいては、社内で生成AIやクラウドシステムの利用状況を的確に把握・分析することが不可欠です。具体的には、利用ログの定期的な確認、操作履歴の監査、個別利用者のアクセス状況や質問内容の把握を行い、不適切な情報入力や過剰使用が認められた場合には早期に対処する体制を組みます。ログ分析による異常検知は、発信された情報に個人情報や機密情報が含まれていないか、法令に抵触するような運用がなされていないかをチェックする重要なポイントです。また、これらの監査結果は労務担当者だけでなく、情報管理担当者や経営層と共有し、経営リスクの把握と意思決定に役立てます。
次に、AIが出力する文章や分析結果に誤情報(ハルシネーション)が混入していないかの検証も欠かせません。実務現場では特に、評価資料、就業規則改訂案、助成金申請書類といった重要文書において、AIの生成内容が事実や法令に照らして正確であるかどうかの第三者チェックが求められます。こうした体制を構築するために、専門家(社労士)による定期的なレビューを実施し、不備が認められれば都度修正指示を行い、社内でフィードバックを確実に反映させるサイクルを回すことが理想的です。これは単なる品質管理にとどまらず、コンプライアンス遵守と企業リスクの回避に直結します。
運用ルールの改善は、こうしたモニタリング結果を踏まえた社内ルールのブラッシュアップによって遂行されます。たとえば、監査で頻出したミスや誤入力の傾向を分析した上で、入力時の禁止事項をより具体的に示す編集や、チェック体制の強化、研修内容の改訂などの対応が必要になります。ルールは一度作れば終わりではなく、AI技術の変化や法制度の改正、社内環境の変化に対応しつつ、「生きたルール」として継続的に見直すことが重要です。特に中小企業では従業員のITリテラシーのばらつきや理解不足によるルール遵守率低下がリスクとなるため、改善と教育を一体的に進めることが必要です。
また、リスクモニタリングの結果を活用して、従業員教育にも反映させることが望ましいです。具体的には、誤った利用方法やルール違反事例の共有、情報漏洩リスクの説明、AIの誤情報リスクに対する警戒心の周知を通じて、利用者のリテラシー向上を図ります。こうしたケーススタディを交えた研修は、理解を促すだけでなく、日常業務での適切なAI活用を促進し、事故未然防止につながります。
さらに経営層の関与も不可欠です。リスクモニタリングの報告を定期的に経営会議で共有し、経営戦略の一環としてAI運用の安全管理を位置付けることが、組織全体のガバナンス強化に寄与します。筆者の経験では、経営層の積極的な支援と理解が運用ルールの厳格な運用やリスク管理体制の定着を後押しする重要な要素であることが多々あります。
最後に、社内ルール改善支援のパートナーとして、外部の社会保険労務士の活用を推奨します。変化の速いAI技術や法令の動向を継続的にキャッチアップし、社内運用の専門的な分析・指導を行うことは重宝されます。当事務所でも、定期的なリスク診断やルール見直し支援、従業員教育の提供を通じて、多くの中小企業様の安全で効率的な生成AI運用の実現をサポートしています。
以上を踏まえ、運用後のリスクモニタリングと社内ルールの改善は二人三脚のプロセスです。一方的な技術導入で終わらせることなく、継続的な運用管理と教育をセットにすることで、生成AIをはじめとしたDX推進が企業成長の大きな推進力になることを強調したいと思います。
安心してAIを活用するための社会保険労務士への相談のすすめ
生成AIの導入が中小企業の労務管理に大きな革新をもたらす一方で、その利活用には独特のリスクと課題が伴います。特に、情報漏洩や誤情報の生成、著作権問題、法令遵守の不徹底など、労務管理の専門性が求められる領域でのトラブル回避は容易ではありません。だからこそ、生成AIを安心かつ効果的に活用するためには、社会保険労務士(社労士)への相談・連携を強くおすすめします。本稿では、その理由と相談を通じて得られるメリットを詳述します。
まず、社労士は労務管理の専門家であり、法律や労働関連の制度に精通しています。生成AIが自動生成する労務文書や評価資料には、ハルシネーションと呼ばれる誤情報リスクがつきまといます。AIは最新の法律改正や判例を常に把握しているわけではなく、また、虚偽の判例や誤った法解釈を「もっともらしく」提示してしまうこともあるため、人間による確実なチェックが不可欠です。社労士はそうした誤情報の発見と是正に豊富な経験を持ち、AIの生成物を法令に適合する形に精査・修正するプロフェッショナルとしての役割を担います。
さらに、労務管理には個人情報や企業の機密情報など高度にセンシティブなデータを扱う場面が多く、生成AIに入力する際には徹底した情報管理が求められます。誤って氏名や給与額、顧客データなどをAIに入力すると、外部に情報が流出するリスクがあります。社労士は情報保護の視点から生成AI使用時の入力制限やマスキングの具体的手法を指南し、ツールのプライバシー設定や運用ルールの策定支援も可能です。そのため、実務でのリスクを最小限に抑える運用体制を一緒に構築できます。
また、生成AIの進化と同時に関連法規や業界のガイドラインも変化しており、最新の動向把握が重要です。社労士は労働法改正や助成金制度のアップデート、そして生成AIが絡む著作権問題の動きにも敏感であり、クライアント企業に適切な情報提供をおこない安心安全な活用環境の整備をサポートします。特に、就業規則の改定や助成金申請、育児介護休業制度の整備など専門領域においては、AI生成だけに頼らず社労士の知見を融合することが不可欠です。
さらに、労務担当者や経営者が生成AIの導入・運用にあたり「どこまでAIに任せてよいのか」「社内ルールをどう設計すべきか」といった迷いを抱く事例が増えています。社労士はこうした疑問に対し、実務で経験した成功例やトラブル事例を踏まえて助言し、利用ガイドラインや教育プログラムの作成を包括的に支援します。教育面では、AIの特性やリスク、正しい使い方を従業員に分かりやすく伝えるための研修設計も行い、組織全体のリテラシー底上げを実現します。
加えて、中小企業では特にITリテラシーや法知識に偏りがあるため運用ミスが発生しやすく、定期的なモニタリングや改善提案が欠かせません。社労士が伴走することでルールの「生きた活用」が促進され、AIを活用しながらも組織のコンプライアンス精神を醸成していけます。これにより、生成AIの利便性を最大限に享受しつつ、トラブルの芽を速やかに摘み取ることが可能となります。
筆者は実際に、生成AI導入支援に加えてクラウド勤怠管理システム・給与計算システムの導入支援も手がけており、システム面・労務面の両方から整合性のとれたDX推進をお手伝いしています。労務関連法令に即したAI出力の確認から、独自の社内ルール設計、教育体制の構築までワンストップサービスを提供しているため、導入プロジェクトで生じやすい多数の課題に一元的に対応可能です。
まとめると、中小企業における生成AIの安心活用には、単にシステムを導入するだけでなく、専門的な労務知識と経験を持った社会保険労務士の伴走が極めて有効です。人間の目でAIの出力をチェックし、情報管理を徹底し、最新法令に即した運用を確立する。さらに、従業員への教育や相談体制を整える―こうした総合的な支援を通じて、企業が安全かつ効果的なAI活用を推進できるのです。
生成AIに係る労務リスクの不安を解消し、DXによる業務効率化を実現したい企業様は、ぜひ早めに社会保険労務士への相談をご検討ください。法令対応力とAI運用ノウハウを兼ね備えた専門家が、安心を担保しながら企業の未来を後押しします。
10回の記事は、こちらのタグ「生成AIの基礎知識」にまとめています。
特定社会保険労務士 荻生 清高|社会保険労務士 荻生労務研究所(熊本市)
中小企業の労務トラブル防止・職場環境改善をサポートします。お気軽にご相談ください。
関連記事
-
なぜ日本では「バカンス」が根付かないのか?年次有給休暇制度の歴史と課題を読み解く なぜ日本では「バカンス」が根付かないのか?年次有給休暇制度の歴史と課題を読み解く -
【2025年最新】熊本県の最低賃金引上げとその影響、対応策 【2025年最新】熊本県の最低賃金引上げとその影響、対応策 -
熊本県のスタートアップ起業家が押さえておきたい、労務管理の基本と専門家のサポート 熊本県のスタートアップ起業家が押さえておきたい、労務管理の基本と専門家のサポート -
精神障害の労災支給が過去最多に カスタマーハラスメント対応が企業の喫緊課題に 精神障害の労災支給が過去最多に カスタマーハラスメント対応が企業の喫緊課題に -
生成AI時代に備える熊本県の企業へ|無理なく始めるヒント 生成AI時代に備える熊本県の企業へ|無理なく始めるヒント -
社労士診断認証制度の概要と熊本県におけるニーズ 社労士診断認証制度の概要と熊本県におけるニーズ