キャバクラ経営における「業務委託」の限界と労務管理リスク 〜東京地裁の2000万円支払い命令判決から学ぶ〜

2025年6月25日、東京地裁がキャバクラ勤務の女性に約2,000万円の未払い賃金支払いを命じる判決を下しました。本件は、キャバクラにおける「業務委託契約」の限界と、実質的な労働関係が認定された事例です。熊本県内でも同様の契約形態が散見される中、今回の判決が示すリスクと、取るべき対応を解説します。
労働契約と認定された背景
店側は女性キャストとの間に「業務委託契約」が存在すると主張していましたが、裁判所はこれを否定。シフトの決定や時給制の賃金、勤務時間の拘束などを根拠に「使用者の指揮監督下での就労」として、労働契約と認定されました。
これは、名目が「業務委託」であっても、実態として労働者的な働き方をしていれば労働契約とみなされ、労働基準法が適用されることを意味します。
違法とされた控除と未払い
判決では以下の点が労基法違反とされました:
- 支給額から「税金」名目で10%控除(賃金全額払いの原則違反)
- 深夜労働の割増賃金不払い(労基法第37条違反)
これらは、キャバクラ業界で「慣例」とされている支払い方法が通用しないことを、明確に示しています。
熊本のキャバクラ経営者への示唆
熊本県内でも、キャバクラやナイトワーク業界において業務委託契約によるキャスト運用は一般的です。しかし、この判決はそのリスクを突きつけています。とくに以下のような運用は危険です:
- 店舗側がシフトを決定・調整している
- 時給・歩合などで報酬を支払っている
- 出勤管理をしている
- 控除(「税金」「罰金」「衣装代」など)を行っている
これらがある場合、「実質的な労働契約」と判断されるリスクが高く、過去数年分の未払い賃金請求が認められる可能性もあります。
企業はどう対処すべきか?
もしキャストとの契約を業務委託として維持したいのであれば、「実態」もその契約形態に沿わせる必要があります。以下の点が特に重要です:
1. 勤務時間や出勤日の自由を保証すること
店側がシフトを決定したり、出勤を強制したりすれば、指揮命令関係があると判断されるリスクが高まります。あくまでキャスト自身が、自由に働く時間・頻度を決定できる体制が必要です。
2. 報酬の決定方法を業務成果に紐づけること
「時給制」ではなく、「接客人数」「ドリンク本数」など成果ベースの報酬設計が望ましいです。また、報酬額の決定や交渉もキャストに委ねる余地があるとよいでしょう。
3. 業務の裁量性を明確にすること
接客方法や服装、営業スタイルなどに店舗側が細かく指示する場合、それ自体が「指揮命令」と評価されることがあります。マニュアル類の運用も「推奨」にとどめるなど、注意が必要です。
4. 業務委託契約書の整備と定期的見直し
契約書だけでなく、実態もそれに即したものであることが重要です。形式的な契約だけでは裁判で通用しません。
【補足】
もちろん、キャストを労働者として雇用し、労基法に則った就労形態に切り替えるという選択もあります。いずれの方針を取るにしても、「契約と実態の整合性」が最大のポイントです。
現場の慣習に流されず、法的な視点で仕組みを再構築することが、将来のリスクを防ぐ最良の手段です。
労務管理の見直しや契約形態の再設計については、専門家(社会保険労務士)への相談が不可欠ですので、ご相談ください。
まとめ
業務委託か労働契約か――これは書面よりも「実態」で判断されます。ナイトワーク業界における「常識」が、法的には通用しないことが明らかになった今回の判決。熊本県内でも他人事ではありません。
正しい労務管理と法令遵守こそが、事業の継続性と信用を守る最善策です。少しでも不安がある方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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