大和リースの「選択制労働時間」が示す次世代ワークスタイル|熊本の中小企業こそ制度設計の好機

週休3日×1日6〜10時間の「選択肢」──大和リース㈱が2026年4月から全社員に開放する新制度は、「短時間勤務=特別扱い」という空気を一掃し、成果基準へ舵を切る取り組みです。熊本の中小企業にとっても、人材確保と定着のカギとなる柔軟な労働時間設計が待ったなし。本稿では制度の要点と法的留意点、地場企業が取り入れる際のステップを社会保険労務士の視点で解説します。
制度の概要:「理由を問わない短時間勤務」と週休3日制
大和リースの新しい制度では、以下の働き方を選択できます。
- 週休2日:所定労働時間6時間・7時間の2パターンから選択
- 週休3日:同9時間・10時間の2パターンから選択
所定労働時間・日数、追加で休みとする曜日については、年度ごとに本人が申請。会社は組織運営上重大な支障がない限り、原則として本人の希望通りに承認します。1カ月単位の変形労働時間制を用い、週40時間未満分は賃金控除する一方、賞与は残業時間数を含めて出勤率ベースで算定します。入社3年目までは社会人としての育成基礎期間として、上司・先輩との時間の確保を優先するため、従来どおり週5日・1日8時間勤務で育成に専念させる点も特徴です。
法的チェックポイント
1. 変形労働時間制の協定締結
1カ月単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定を締結するか就業規則へ規定し、管轄労基署への届出が必須(労基法32条の2)。
2. 短時間勤務と均衡処遇
「理由を問わず短縮」が前提でも、賃金・賞与・評価の算定根拠を明文化し、公平感への配慮が不可欠。
3. 社会保険の月額変更リスク
時間短縮により賃金が変動しやすいため、年間平均による社会保険等級・保険料算定の運用設計を取り入れることが望ましい。
熊本県内中小企業への示唆
1. 採用競争力向上
若手層は「時間の可塑性」を重視。求人票に「6・7時間勤務選択可」と明記するだけで応募率が平均1.3倍になった事例もあります(当所クライアント実績)。
2. コストは「総人件費」で捉える
時間短縮=人件費減とは限りません。人時生産性を指標化し、残業抑制と離職低減でトータルコストを最適化する視点が重要。
3. 助成金活用
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進コース)は最大150万円。制度設計時に併せて検討を。
導入ステップ(サンプル事例)
- ヒアリング:部署別の業務波動・希望シフトを調査(2週間)
- 制度設計:勤務パターンと賃金ルールをドラフト化(1カ月)
- 労使協定・規程整備:変形労働時間協定・就業規則改定、社内説明会(1カ月)
- 試行運用:特定部署で3カ月パイロット実施、KPI分析
- 全社展開:結果を反映し本格導入、助成金申請
まとめ
「人が集まり誰もが活躍できる企業」──大和リースのキーワードは、従来の「時間=勤務量」から「成果=勤務価値」へのシフトです。少子高齢化が進む熊本で持続的に人材を確保するには、働く時間の柔軟性と公平な評価軸を整え、社員が遠慮なく選択できる職場文化が必要不可欠。まずは現状の就業規則と賃金体系を点検し、自社フェーズに合ったスモールスタートを検討してみてはいかがでしょうか。当所では制度設計から助成金活用までワンストップで支援していますので、ご相談ください。
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