「労働者」の定義が40年ぶりに見直しへ?中小企業が知っておくべき影響とは

2024年5月、厚生労働省が「労働者」の定義見直しに向けた議論を開始しました。
この議論、実は40年ぶりの大改革になるかもしれません。
背景にあるのは、アマゾンやウーバーイーツなどの配達員といった「プラットフォームワーカー(PFワーカー)」の増加。
スマートフォンで仕事を請け負う新しい働き方に、今の法律が追いついていないという問題です。
現行の「労働者」の定義とは?
現在の「労働者」の定義は、労働基準法第9条に基づき「事業に使用され、賃金を支払われる者」とされています。
具体的には、使用者からの指揮監督、働く時間・場所の指定、報酬の支払形態などを総合的に判断し、「労働者」に該当するかが決まります。
この基準は1985年から変わっておらず、現在の多様な働き方には十分対応できていないのが現状です。
なぜ今見直しが必要なのか?
PFワーカーは、アプリを通じて業務指示を受け、GPSで位置を把握されるなど、実質的には使用者の「指揮監督下」で働いています。
それでも、形式上は個人事業主とされるため、最低賃金や割増賃金(残業代)、労災の対象外とされることも。
現場とのギャップが、労働者保護の課題として浮上しています。
使用者による「指揮監督」とは何か?
指揮監督とは、働き方に対して事業者が具体的な指示・命令を行い、その内容に従わざるを得ない状態のことをいいます。
たとえば、配送ルートが一方的に決定される、業務指示の拒否が実質的にできないといった場合は、形式上の自由があっても実質的には「労働者」としての状態に近いと考えられます。
個人事業主と労働者の線引きが曖昧に
このようなケースでは、雇用契約がない、または業務委託であるにもかかわらず、労働者としての実態がある場合も出てきます。
今後、定義の見直しが進めば、最低賃金、労災、残業代の対象となる「労働者」の範囲が広がる可能性があり、中小企業の契約形態や管理体制にも影響が出てきます。
国際的な動向:アメリカ・EUの対応
アメリカでは2024年1月に、新たな規則でPFワーカーの「労働者」認定を強化。PFワーカーを実質的に企業と雇用関係にある「労働者」と判断し、保護しやすくする新規則をまとめました。
EUも同年10月、PFワーカーを原則として正式な雇用関係のある労働者と推定し、保護する指令を採択しました。
今年6月に開かれる国際労働機関(ILO)総会でも、議題として扱われる予定です。
日本も、この国際的な流れに無関係ではいられません。
中小企業への影響:想定される変化とは
外注していた配達や事務作業の一部が、「実態としての労働者」と判断される可能性が高まれば、労務管理や報酬体系、契約内容の見直しが迫られます。
特に、従来「外注=リスクが少ない」とされていた領域でも、労働法の適用対象になることを見越した体制が必要になります。
実務上の注意点:今から備えておくべきこと
- 外部委託契約書の見直し(業務委託と雇用の区別が明確か)
- 実態として指揮監督関係がないかの確認
- 外注スタッフの業務内容と連絡手段の整理
- 自社内の雇用・委託区分に対する理解促進
特に「業務の指示内容」が雇用に近くなっていないか、第三者の視点でもわかるように整理しておくことが重要です。
社労士から見た今回の見直しの意味
働き方の多様化は、裏を返せば「労働法の適用が難しい時代」の到来でもあります。
中小企業にとっては、契約形態の柔軟性と法令順守のバランスが問われる時代です。
私たち社会保険労務士は、こうした過渡期の労務リスクを最小限に抑えるためのアドバイスや、体制構築をサポートしています。
まとめ:変わる働き方にどう向き合うか
今回の「労働者」の定義見直しは、単なる法律の話にとどまりません。
「どのような働き方を、どう守っていくか?」
という社会全体の価値観の転換点に立っているのです。
熊本の中小企業がこの波に適応し、時代に合った雇用管理を進めることが、
従業員から選ばれる企業づくりの第一歩になるはずです。
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