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人事労務ニュース

103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁 ってナニ? &支援措置 ~年収の壁・支援強化パッケージ~

社会保険労務士の、荻生清高です。

 

最低賃金の大幅引き上げを受け、「年収の壁」を嫌って就業調整をする人が増えており、人手不足に拍車をかけている状況です。

この事態に対応するため、企業への助成金、従業員への特例という「年収の壁・支援強化パッケージ」が行われます。

パート従業員を多く雇用する、飲食店・スーパー業界などの経営者、および従業員の皆様は、参考にしていだければと思います。

 

税の壁:103万円の壁

年収が103万円を超えると、本人に所得税が発生し始めます。

この壁で就業調整を始める方は、弊所の顧問先様等にも多く、厚生労働省の実態調査でも、就業調整を始める人が複数回答で46.1%と多いです。

 

103万円の壁を超えても、実際に手取りは減らない

この壁を超えても、実際には手取りは減りません。

壁を1万円超えても、所得税が500円増えるだけです。収入が増えた分のほとんどは、手取りの増加になります。

ですので、103万円の壁を気にする従業員については、「働いて収入が増えれば、税金がかかっても、その分手取りは増えます。気にせず遠慮なく働いてください」と答えてかまいません。

ただし、家族手当や配偶者手当などを受けている場合は、手当がカットされることがありますので、別途検討する必要があります。これは後述します。

 

社会保険の壁① 106万円の壁

この壁が関わるのは、従業員101人以上の会社にお勤めで、月収88,000円(年収換算で106万円)を超え、週20時間以上勤務などの条件を同時に満たした場合です。

 

この条件に当てはまると、厚生年金や会社の健康保険に入ることになります。

それまで夫(妻)の扶養に入っていた方は、年16万円程度の保険料負担が発生し、手取り収入が減少します。壁を越える前の手取りに戻すには、年収を125万円程度に引き上げる必要があります。

 

厚生労働省の調査では、この106万の壁を理由に就業調整した人も、36.3%と多いです。

第3号被保険者、夫(妻)の扶養に入っていた人に限ると、48.1%と更に上がります。

 

106万円の壁越えは、必ずしも「働き損」ではない

106万円の壁を越えると、厚生年金を受給できるようになります。

特に女性は長生きすることが多いので、通常は支払った保険料合計を、将来の厚生年金受給額合計が上回ります。

また、会社の健康保険には、国民健康保険よりも給付が手厚いです。

病気やケガの際には、収入の3分の2の傷病手当金が受けられますし、産前産後の産休の間は、同じく収入の3分の2の出産手当金も受けられます。

 

ですので、「106万円の壁」超えの実態は、フルタイムの会社員と同様に、保険料を払った分だけの手厚い社会保障を受けられるということです。

しかし保険料負担だけに目を向けて、「働き損」という、実態と異なる世間の「声」を信じてしまい、就業調整していることが多いのではないでしょうか。

 

ただ、目先の手取り額減少を嫌う人が多いのも、また事実です。

そこで「年収の壁・支援強化パッケージ」として、企業が賃上げや手当の支給などで、手取り額の減少を補うことで、壁を意識せずに働ける環境を整える企業に対し、助成金を支払う制度が始まります。

 

助成金の名称は「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」です。

制度の詳細は、10月中に決まる予定です。対象となる従業員1人あたり、最長3年間で最大50万円を支払う予定となっております。

 

社会保険の壁② 130万円の壁

夫(妻)の社会保険の扶養に入っている人が、年収が130万円以上となる見込みとなる場合、扶養を外れます。

この場合、週30時間未満労働の人など会社の社会保険の加入条件を満たさない場合は、厚生年金保険に入れず、国民健康保険と国民年金に入ることになります。

つまり、加入保険は国民年金で変わらないまま、厚生年金の上乗せを得られず、新たに保険料負担だけが発生します。

この場合は、手取り額の現象だけを伴う、本当の意味での「壁」になります。

 

この130万円には、残業代なども含まれますので、就業調整が起こります。

また、年収が実際に130万円以上とならなくても、月額108,333円を超えたところで、「130万円以上の見込みになった」とされ扶養を外れますので、年末に限らず就業調整が発生します。

 

この130万円の壁で就業調整する人は、従業員の44.6%、夫がいる女性では57.3%に上ります。

 

「年収の壁・支援強化パッケージ」における「130万円の壁」対策

この対策では、例年10月に行われる「被扶養者資格確認」において、年収が130万円以上となる見込みであっても、繁忙期に残業になって収入が増えたなど一時的なものであれば、会社が証明することで扶養を外れず、引き続き認定できるようにします。

この証明については、書類のひな型が公表される見通しです。

 

「130万円の壁」を気にする従業員、会社様へ

対策が発表された今は、「一時的に忙しくなって、給料が増えても、扶養を外れない特例があります。会社が証明しますので、気にせず働いてください」と案内することで、壁を気にして就業調整することなく、働き続けられます。

 

ただ、注意点があります。

この措置は最長2年間、令和6年10月までが上限です。

また、あくまで一時的な収入増への対応ですので、同一の者に対し、原則として連続2回までを上限としています。

つまり、最大でも2年間までということです。この期間中は壁を気にする必要はありませんが、その先のことについては、別途検討を要します。

 

企業の配偶者手当の見直し

企業の配偶者手当は、103万円の壁または130万円の壁を超えない従業員に対し、支払われる基準になっていることがほとんどです。

そのため、この壁を超えて手当がカットされるのを嫌い、就業調整する従業員がみられました。

 

これを理由に就業調整する従業員は、複数回答で12.1%。夫のいる女性に限れば、15.4%。決して少なくない割合です。

そこで、「年収の壁・支援強化パッケージ」では、企業に対する配偶者手当の見直しの促進も、挙げられています。

 

ただ、このパッケージから出る前から、配偶者手当を見直す企業は増えていました。

配偶者手当の支給基準が変わっているかもしれませんので、配偶者がお勤めの会社に、確認する必要があります。

 

なお、配偶者手当を見直す場合は、既に支給されている人にとっては労働条件の不利益変更となりますので、労働者の同意を要する場合がございます。労働契約法や裁判例等を踏まえた、対応が必要です。

 

103万円の壁、106万円の壁はそもそも無い。130万円の壁もいずれ無くなるかもしれない

「壁」が今後どうなるかですが、まず103万円の壁が実質的に無いことは、説明しました。

106万円の壁についても、実質的に働き損で無いことは、これも説明しました。ただし一時的な手取り額の減少を補う企業への、助成金が今後実施されます。

130万円の壁は、一時的に超えても扶養を外れない措置も、今後取られます。

ただ、今回の「年収の壁・支援強化パッケージ」は、2025年に予定されている抜本的な対策がとられるまでの、3年間に限定された一時的な措置です。また、そもそも今回の措置は、自営業の妻(夫)などにとって不公平を伴います。

最終的には、第3号被保険者の制度を見直さない限り、130万円の壁に伴う不公平は解消されません。そして、第3号被保険者のそもそもの趣旨を鑑みれば、すでに歴史的役割を終えており、廃止するのが本来のあり方と考えます。

ただ、第3号被保険者制度が廃止されるかどうかを措いても、130万円の壁をはみ出す従業員は、今後は被用者年金である厚生年金保険、つまり社会保険の適用拡大により、吸収する方針です。

そして社会保険の適用拡大は、今は被保険者数が101人以上の企業に対して行われていますが、2024年10月以降は51人以上の企業へ拡大されます。将来はこの企業規模の要件自体が撤廃され、週20時間以上働く従業員のすべてが、社会保険の加入となる見通しです。

これら企業規模の要件は、社会保険の被保険者数で判定します。企業の総人数では判断しません。

被保険者数50人以下の会社への適用拡大は当面先ですが、適用拡大されれば会社の負担する社会保険料は大きいです。今のうちに、パートを含む従業員をどう活用するか、そしてコスト増に伴う売上や利益・生産性の向上に、企業は備える必要があります。

個別の企業様については、それぞれ対応が異なりますので、ご相談ください。

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