採用の「見えないリスク」を防ぐ─熊本県内企業も注目すべきリファレンスチェックの実務と課題

経歴詐称や退職代行の増加を背景に、「リファレンスチェック」を導入する企業が急増しています。
採用のミスマッチを防ぐ新たな手段として注目される一方で、個人情報の取り扱いや労働法上のリスクも存在します。
今回は、熊本県内の中小企業経営者の皆様に向けて、社会保険労務士の視点から実務上の留意点と導入の考え方を整理します。
なぜ今、リファレンスチェックが注目されているのか
近年、経歴の「盛り」や「虚偽」、さらに退職代行サービスの利用が採用現場の新たな課題となっています。
オンライン面接の普及で候補者の人柄や職場適性を見極めることが難しくなり、「第三者の証言」による裏付けを求める動きが広がっています。
全国ではマイナビやエン・ジャパンなどが提供するリファレンスチェックサービスが普及し、
2025年には前年の1.5倍以上の利用件数に達する勢いです。
熊本県内でも、特にIT・製造・医療系の中途採用を中心に導入事例が増えています。
リファレンスチェックの仕組みと法的留意点
リファレンスチェックとは、候補者の元上司や同僚などに勤務態度やスキルを尋ねる制度です。
本人の承諾を前提とする点で、いわゆる「身元調査」とは異なります。
しかし、次のような法的配慮が求められます。
① 個人情報保護法の遵守:
候補者本人の同意取得を明確に記録すること。
第三者提供(元職場への照会)に当たるため、利用目的も具体的に明示する必要があります。
② 労働基準法・職業安定法の観点:
虚偽経歴の確認は企業防衛の観点で合理性がある一方、
過度に私生活や思想信条に踏み込む質問は「就職差別」に該当するおそれがあります。
③ SNS調査(バックグラウンドチェック)との線引き:
過去のSNS投稿や信用情報の調査は、本人の承諾があっても慎重を要します。
特に「裏アカウント特定」などはプライバシー侵害のリスクが高く、外部委託時の契約管理が不可欠です。
中小企業が導入する際のポイント
熊本県内の中小企業では、人事部門の専任担当がいないケースも多く、
リファレンスチェックを「形式的」に導入しても効果が薄いことがあります。
実施にあたっては次の3点が重要です。
①「どんな情報を確認したいか」を明確にする
例:勤務態度・ハラスメント傾向・職務スキル・チーム適性など。
② 評価結果をどう採用判断に反映させるかを事前に設計する
面接評価と矛盾する結果が出た場合の扱いを、複数人で協議できる体制にしておく。
③ 外部サービスを活用する場合は、個人情報保護体制を確認する
契約書で「再委託の禁止」「データ削除のルール」などを明記しておく。
リファレンスチェック導入の意義
採用の目的は「優秀な人を採ること」ではなく、
「ミスマッチを防ぐこと」です。
リファレンスチェックは万能ではありませんが、
人物面を多面的に把握することで、
「入社後に問題が発覚するリスク」を大幅に下げることができます。
また、本人が評価者に依頼する過程で、
「人間関係を大切にしてきたか」という点も自然に見えてきます。
まとめ:信頼と透明性のある採用へ
熊本県内でも、採用後のハラスメントや早期退職に悩む企業は少なくありません。
リファレンスチェックは、そのような「採用リスクを事前に防ぐ」ための有効なツールです。
ただし、制度として導入する際には、法令・倫理の両面に配慮した設計が欠かせません。
当研究所では、
・リファレンスチェック導入時の個人情報保護対応
・質問項目の設計支援
・採用判断における法的リスク整理
などをサポートしております。
関心をお持ちの企業様はお気軽にご相談ください。
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👉 採用・人事労務に関するご相談はこちらのフォームからお寄せください。
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