熊本労働局から「令和8年度行政運営方針」が公表されました。
行政運営方針は、その年度に労働局が重点的に取り組む施策や監督指導の方向性を示すものであり、企業経営や人事・労務管理に大きく関わる重要な資料です。
特に熊本県では、TSMCをはじめとした半導体関連企業の進出による採用競争の激化、人手不足の深刻化、賃上げ圧力の高まりなど、企業を取り巻く環境が大きく変化しています。
そこで今回は、令和8年度熊本労働局行政運営方針から、中小企業経営者が押さえておきたい労務課題について整理してみたいと思います。
目次
賃上げと同一労働同一賃金への対応が引き続き重要
令和8年度の行政運営方針では、最低賃金の引上げと非正規雇用労働者の処遇改善が重点施策として位置付けられています。
熊本県の最低賃金は令和8年1月1日から1,034円となりました。近年の上昇幅を見ると、賃上げへの対応はもはや一時的な課題ではなく、企業経営そのものに関わる重要テーマになっています。
また、賃上げとあわせて注目したいのが「同一労働同一賃金」の遵守徹底です。
行政運営方針では、短時間労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について確認を行い、不合理な待遇差の解消に向けた指導を実施するとされています。
企業としては、
- 基本給
- 賞与
- 各種手当
- 福利厚生
について、正社員との待遇差を合理的に説明できる状態にしておくことが求められます。
令和8年10月施行のガイドライン改正にも注目
同一労働同一賃金については、令和8年10月1日から改正ガイドラインが施行される予定です。
改正後のガイドラインでは、これまでの最高裁判例等を踏まえ、各種待遇に関する考え方や具体例がより詳しく示されています。
特に、
- 賞与
- 病気休職制度
- 福利厚生施設の利用
については記載内容が充実されており、企業が待遇差の合理性を検討する際の参考となる内容が追加されています。
また、
- 家族手当
- 住宅手当
- 退職手当
- 夏季・冬季休暇
- 無事故手当
などについても、新たに考え方が示されています。
私自身、企業から同一労働同一賃金に関する相談を受ける際、「どこまで待遇差を設けてよいのか分からない」という声をよく耳にします。
しかし重要なのは、待遇差を完全になくすことではなく、その違いについて合理的な説明ができる状態を整備することです。
今回のガイドライン改正は、自社の賃金制度や各種手当の運用を見直す良い機会になるのではないでしょうか。
人手不足時代に求められる「選ばれる会社づくり」
熊本労働局は、半導体関連産業をはじめ、医療・介護、建設、警備、運輸などの人材不足分野への支援を重点施策として掲げています。
熊本県ではTSMC関連企業の進出以降、製造業だけでなくサービス業や建設業においても採用競争が激化しています。
実際に当事務所にも、
「求人を出しても応募が来ない」
「採用しても定着しない」
というご相談が増えています。
これからの採用活動では、
「募集を出す」から
「選ばれる会社になる」
という発想への転換が必要です。
賃金だけでなく、
- 職場環境
- 働きやすさ
- 育成制度
- キャリア形成支援
などを含めた総合的な魅力づくりが求められる時代になっています。
リスキリング支援制度を活用した人材育成
令和8年度の行政運営方針では、リスキリング(学び直し)による能力向上支援も大きな柱となっています。
厚生労働省では、
- 人材開発支援助成金
- 教育訓練給付制度
- 教育訓練休暇給付金
などを活用した人材育成を推進しています。
さらに熊本県では「熊本県リスキリング応援補助金」が設けられており、県内中小企業等が取り組む従業員教育や能力開発を支援しています。
この制度は、生産性向上や売上向上につながる人材育成を目的としており、教育訓練機関等が提供する研修や訓練の活用を後押しするものです。
また、育児休業中の従業員が職場復帰後も活躍できるようにするための能力開発も支援対象となっています。
人手不足が続く時代においては、
「採用して補う」
だけでなく、
「今いる人材を育てる」
という視点が重要です。
国の助成金と県の補助制度を組み合わせながら、人材育成に取り組むことをおすすめします。
障害者雇用率2.7%時代への備え
多様な人材活躍の推進も令和8年度の重要テーマです。
特に障害者雇用については、令和8年7月1日から法定雇用率が2.7%へ引き上げられる予定です。
また、除外率の引下げも進められており、対象企業にはより計画的な対応が求められます。
障害者雇用は単に人数を満たすことが目的ではありません。
重要なのは、
- 業務の切り出し
- 職場環境整備
- 受入れ体制づくり
- 定着支援
を行い、戦力として活躍できる環境を整備することです。
採用直前になって慌てるのではなく、中長期的な視点で準備を進めていただきたいと思います。
カスタマーハラスメント対策への対応が急務
令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務となります。
今後は、
- 基本方針の策定
- 相談窓口の整備
- 管理職研修
- 従業員教育
などが必要になります。
当事務所でも近年、カスタマーハラスメントに関するご相談が増加しています。
そのため、テレビ番組での解説や地元新聞、経済情報誌等を通じた情報発信を行うとともに、企業向けセミナーや研修を通じて、管理職や従業員への啓発活動に取り組んでいます。
今後はハラスメント対策を「問題が起きた時の対応」ではなく、「発生を予防するための仕組みづくり」として捉えることが重要になるでしょう。
長時間労働対策は「指導対応」から「予防」へ
熊本労働局は、長時間労働の抑制についても引き続き重点的に取り組む方針を示しています。
時間外労働が長時間に及ぶ事業場に対する監督指導は今後も継続されると考えられます。
しかし、本来重要なのは監督指導への対応ではなく、長時間労働を未然に防ぐ仕組みづくりです。
当事務所では、クラウド勤怠管理システムの導入支援を通じて、
- 労働時間の見える化
- 残業時間の把握
- アラート機能の活用
- 管理職によるマネジメント強化
などを支援しています。
これからの労務管理は、問題発生後の対応ではなく、予防型の管理体制が求められます。
熊本県企業が確認したい労務チェックリスト
令和8年度に向けて、次の項目を確認してみてください。
□ 最低賃金1,034円以上となっているか
□ 同一労働同一賃金について説明できるか
□ 非正規雇用労働者の処遇改善を検討しているか
□ 育児・介護休業規程を最新の法改正に対応させているか
□ カスタマーハラスメント対策の準備を進めているか
□ 障害者雇用率2.7%への対応を検討しているか
□ 長時間労働を把握できる仕組みがあるか
□ 人材育成計画を作成しているか
□ リスキリング支援制度を活用しているか
社労士の視点|令和8年度は「人材定着」が最大のテーマ
今回の行政運営方針を通読して感じるのは、令和8年度の労働行政は単なる法令遵守ではなく、「人材定着」と「持続的な人材確保」を強く意識した内容になっているということです。
最低賃金の引上げ、同一労働同一賃金、障害者雇用、高齢者雇用、育児・介護との両立支援、カスタマーハラスメント対策など、一見すると個別の制度改正のように見えます。
しかし本質的には、
「従業員に選ばれ、長く働き続けてもらえる職場づくり」
という一つのテーマにつながっています。
人手不足が常態化する時代においては、採用だけで企業は成長できません。
人材が定着し、能力を発揮できる職場環境を整備できるかどうかが、企業競争力を左右する時代になっています。
令和8年度は、自社の労務管理体制を総点検する絶好の機会ではないでしょうか。
当事務所では、
- 就業規則改定
- 育児・介護休業法対応
- カスタマーハラスメントを含む各種ハラスメント対策
- 人材定着支援
- クラウド勤怠管理導入支援
などを通じて、熊本県内企業の労務管理をサポートしております。
労務管理に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。

