奨学金代理返還支援制度による人材確保 社会保険料取扱と助成金に着目を
今回は、奨学金代理返還制度を活用した、人材確保を取り上げます。
奨学金代理返還制度とは
大学生の奨学金返還の負担の大きさが、社会的な問題となっています。
これに対し、2021年4月より、企業が元学生に代わって、奨学金の貸し手である日本学生機構に直接送金できる制度が、設けられました(奨学金代理返還制度)。
それ以前は、企業が元学生たる社員に直接、金銭を支援する方法のみでしたが、選択肢がひとつ増えたことになります。
この制度を、新卒採用のインセンティブとして活用するケースが、増えています。
地方自治体の関心も高く、Uターン学生の取り込みをねらい、奨学金を支援する企業に対して助成金を支払う例もみられます。
今回、この返還金について、社会保険料の取扱いを示した事務連絡が、厚生労働省より示されましたので解説します。
奨学金代理返還制度における返還金についての、社会保険の取扱い
9月5日に示された、厚生労働省の事務連絡には、以下のように示されています。
問2 事業主が、「奨学金返還支援制度(代理返還)」として、被保険者の奨学金を日本学生支援機構に直接送金することにより返還する場合、当該返還金は「報酬等」に含まれるか。
(答) 「奨学金返還支援(代理返還)」を利用して給与とは別に事業主が直接返還金を送金する場合は、当該返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかであり、被保険者の通常の生計に充てられるものではないことから「報酬等」に該当しないが、事業主が奨学金の返還金を被保険者に支給する場合は、当該返還金が奨学金の返済に充てられることが明らかではないため「報酬等」に該当する。
なお、給与規程等に基づき、事業主が給与に代えて直接返還金を送金する場合は、労働の対償である給与の代替措置に過ぎず、事業主が被保険者に対して直接返還金を支給しない場合であっても「報酬等」に該当する。
まとめると、こうなります。
- 会社が日本学生機構に返還金を直接送金する場合は、社会保険料算定における報酬等に該当しない
- 会社が元学生たる従業員に、返還金を支給する場合は、社会保険料算定における報酬等に含まなければならない(賞与または給与として、社会保険料がかかる)
社会保険料負担だけ見れば、会社が日本学生機構に直接返還金を送金するほうが、会社・元学生とも、負担が少なくてすむといえます。
奨学金代理返還制度を設計する際には、確認しておくべきポイントです。
奨学金代理返還制度の導入に、助成金を支払う自治体も
先に述べました通り、奨学金代理返還制度は、地方自治体が学生・若者などのUターン・Iターン支援策として、活用している場合があります。
例えば、ここ熊本県では、採用した学生の奨学金を支援した企業に対し、支払った額の2分の1を県が負担します。赴任費用、研修費用についても、県が2分の1を補助します。
熊本県 奨学金返還等支援制度 くま活サポート
https://www.kumakatsusupport.pref.kumamoto.jp/list00001.html
このような制度は、令和3年6月1日現在、33府県487市町村が導入しています。
各自治体の取り組みは、こちらのサイトでチェックできますので、調べたうえで利用をご検討ください。
内閣官房・内閣府「地方創生」 「奨学金」を活用した大学生等の地方定着の促進
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/shougakukin/index.html
詳しくはご相談ください
奨学金代理返還制度を設計する際には、このように社会保険料、あるいは助成金など支援制度も視野に入れて、設計する必要があります。企業については事前申し込みが必要な場合もございますので、詳しくはご相談ください。
参考情報
厚生労働省年金局事業管理課長 令和4年9月5日事務連絡
「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T220908T0010.pdf
日本学生支援機構「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kigyoshien/index.html
熊本県 奨学金返還等支援制度 くま活サポート
https://www.kumakatsusupport.pref.kumamoto.jp/list00001.html
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