固定残業代が使われる場面とは
社会保険労務士の荻生清高です。
今回は、お客様から質問を頂いた固定残業代(定額残業手当)について、連続的に取り上げています。
前々回:固定残業代とは何か &固定残業代が有効となる要件とは
固定残業代は、漫然と導入せず、明確な目的をもって、取り扱うことが必要です。
今回は、固定残業代が目的をもって、具体的に使われる場面を、取り上げていきます。
固定残業代が使われる場面 ①新人教育
固定残業代が使われる場面のひとつは、新人教育です。
規定の労働時間には仕事をして、時間外は資料の揃った会社で勉強する。
あるいは、時間外でも仕事をして、量稽古をこなす。
そのための時間を、固定残業代扱いしている例がみられます。
私の見解としては、この対応はおすすめしていません。
そもそも業務に必要な教育や研修であれば、業務の一環として、時間内に行って完結させるのが、本来の在り方と考えます。
また、このやり方は、事情があって残業ができない人の、排除につながります。
例えば、育児や介護、あるいは療養との両立が必要な人。
その対応が、会社の中の従業員、あるいは社外の求職者やお客様、世間に発するメッセージとして、会社の理念・行動規範に一致したものでしょうか。
会社の業務遂行に必要な教育や研修は、ライフイベントに関わらず、等しく機会を供給されるべきと考えます。
固定残業代が使われる場面 ②管理職手当
固定残業代を活用する、もうひとつの場面は、管理職に対してです。
役職手当の一部を、固定残業代部分にする設計は、よく行われます。
特に、課長・部長以上は、賃金が労働時間に対する対価と、ならなくなってきます。
これは、課長以上は「期待される目標を、いかに達成するか」が大事になってきますので、「遅くまで働いたので、お金を支払いましょう」という対象ではなくなる、ということです。
このメッセージとして、役職手当の一部に、一定時間を見積もった固定残業代部分を設ける、ということが行われてきました。
「この時間を超えて働くようでは、管理職の資質を問います」ということですね。
ただ最近では、このような役職手当の設計が、難しくなってきました。
最近の裁判例では、固定残業代の明確区分性を、厳しく判定する傾向があります(国際自動車・第二次上告審事件)。
また、最近の人事制度の傾向として、部長・課長クラスであっても、役職手当の固定残業代部分を設けず、残業時間に応じた割増賃金を支払う制度を、設ける事例もみられます。
固定残業代は、正しく理解して取り扱うことが大事です。
固定残業代は、表面的なイメージに流されることなく、正しい理解のもと、明確な目的をもって取り組む必要があります。
その上で、貴社にとってのメリットとデメリットを比較し、検討する必要があります。
個別の案件については、ご相談ください。
関連記事