最低賃金の大幅引上げは継続の見通し―骨太の方針2025が中小企業に求めること

2029年度までに「物価上昇+1%」の賃上げを日本社会のスタンダードとする――。政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」では、中小企業にも大きな影響を及ぼす方針が打ち出されました。単なるスローガンにとどまらず、実際に求められる対策とは何か?熊本の中小企業経営の現場目線で読み解きます。
賃上げが「新しい常識」に?「骨太の方針」の本気度
政府は2029年度までに、物価上昇率を1%程度上回る賃金上昇を「社会的な常識(ノルム)」として定着させることを掲げました。これは、すべての企業が「毎年5%前後の賃上げを検討すべき」という時代に入ったことを意味します。
最低賃金に換算すると?5%賃上げのインパクト
では、この5%の賃上げは最低賃金に換算するとどれくらいの負担になるのでしょうか?
| 地域 | 現行賃金 | 5%上昇後 | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 熊本県 | 952円 | 約1,000円 | 約48円 |
| 全国平均 | 1,055円 | 約1,108円 | 約53円 |
| 東京都 | 1,163円 | 約1,221円 | 約58円 |
※2024年10月適用
熊本県では、1時間あたり約48円の人件費上昇。月160時間勤務の場合、1人あたり月約7,700円の増額となります。従業員10人で約7.7万円、50人なら月約38.5万円のコスト増です。
一方で石破政権は「2020年代に最低賃金を全国平均で1,500円に引き上げる」目標も掲げています。実際の最低賃金引上げ幅は、5%を大きく上回る、100円前後になることも想定しておく必要があります。
政策支援と企業努力の両立がカギ
賃上げに向け、政府は「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」を打ち出し、以下の支援策を講じています:
- 適正な価格転嫁の促進
- 生産性向上支援(12業種の省力化投資プラン)
- 地域人材の育成・処遇改善
- デジタルスキル教育訓練支援(AIリスキリング含む)
一方で、政策だけに依存せず、「自社としていかに付加価値を高めるか?」という視点が不可欠です。
熊本の経営者がいま取り組むべきこと
熊本の多くの中小企業、とくにサービス業・小売業・医療福祉業界では、人材確保と処遇改善が経営の核心にあります。今回の方針は、単なる負担ではなく「魅力ある職場づくりへの転換点」と捉えることができます。
今後の5年間は、「労働力を守るコスト」ではなく「人材に投資するチャンス」として、次のアクションを検討することが求められます:
- 自社に合った価格転嫁の工夫
- 助成金や支援制度の積極活用
- 生産性向上に資する設備投資・IT導入
- 人材定着のためのスキルアップ支援体制の整備
まとめ
政府が「賃上げを社会通念に」とまで言い切る今、経営者としての覚悟が問われています。とはいえ、準備を始めるにはちょうど良いタイミングでもあります。制度と市場の変化を味方につけ、持続可能な成長モデルを構築していきましょう。
当事務所では、熊本県内企業の実情に即した制度活用・労務改善・賃上げ対応のご相談を随時承っております。お気軽にご相談ください。
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