熊本県最低賃金「千円時代」目前――経営者が今すべき3つの備えとは?

2025年度の熊本県最低賃金を巡る審議が佳境に入っています。労働者側は178円の大幅引き上げを主張し、使用者側は39円上乗せ案を提示。中央審議会の目安「64円」を挟んで激しい議論が交わされています。物価高、実質賃金の低下、他県との格差――現場の声を交えながら、社会保険労務士として中小企業経営者が今取るべき対策を考察します。
最低賃金「千円時代」突入の可能性
熊本県の現行最低賃金は952円。今回の労使交渉では、労働者側が1,130円(+178円)、使用者側が991円(+39円)を提示しており、最大で「時給1,000円超え」が現実味を帯びてきました。
中央最低賃金審議会が示した全国加重平均の引上げ目安は64円。熊本はCランク地域であり、例年であればこの範囲内に収まる可能性が高いものの、今年は物価上昇率や他県との賃金格差、そして豪雨災害の影響も議論の中心にあり、例外的な展開も想定されます。
企業側の声:急激な賃上げは「経営に影響」
使用者側からは以下のような懸念が聞かれます:
- 「毎年50〜60円の上昇は正直厳しい」(飲食チェーン運営本部長)
- 「時給アップが扶養の壁にぶつかり、人手不足が深刻化する」(旅館業界関係者)
- 「原材料費や光熱費の高騰と重なると、価格転嫁にも限界がある」
特に、宿泊・飲食・サービス業など人件費の比率が高い業種では、「最低賃金上昇=利益圧迫」となる構造的な問題に直面しています。
最低賃金上昇の背景:労働者の切実な現状
一方、労働者側からは以下のような切実な声が上がっています:
- 「ガソリン代や食費の高騰で、貯金に回す余裕がない」
- 「福岡との40円の格差に不満」
- 「時給1,000円でも自立できるか不安」
実質賃金が下がり続ける中で、最低賃金の引き上げを求める動きは「生活防衛」の意味合いが強まっており、単なる労使交渉にとどまらない社会的課題となっています。
中小企業が今すべき3つの備え
① 「人件費の見える化」と労務コストの再設計
賃金以外にも社会保険料・法定福利費が上昇しています。職種別・店舗別・時間帯別に人件費を「見える化」し、必要に応じて業務設計や労働時間の見直しを検討しましょう。
② 「扶養の壁」対策の再確認
パートタイマーにとって年収103万円・130万円の壁は依然として大きな問題です。社会保険適用拡大の流れも踏まえ、労働時間と所得のバランスを見ながら働き方の選択肢を増やす工夫が必要です。
③ 「生産性向上」への投資判断
時給単価を補うには「時間当たりの生産性」を高めるしかありません。デジタル化、省人化投資、オペレーションの標準化など、中長期視点での戦略的投資を前向きに検討すべき局面です。
まとめ
最低賃金の議論は単なる「時給の話」ではありません。人材確保、労働意欲、事業継続――すべてに直結する経営課題です。熊本でも「1,000円超え」が現実になろうとする今、経営者は守りではなく、戦略的な人事・労務の再構築に舵を切る時期に来ています。
「人件費はコストでなく、投資である」
その視点を持つ企業こそが、労働市場の変化に対応し、持続的な成長を遂げられるのではないでしょうか。
社会保険労務士 荻生労務研究所では、最低賃金引き上げに伴う給与設計の見直しや、人件費分析、扶養の壁対策などの個別相談も承っております。お気軽にご相談ください。
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