大学発ベンチャー起業家が迷いやすい社会保険の比較 共済組合との違いは?

大学教員の共済組合と、民間企業の協会けんぽ+厚生年金保険。保険料だけで判断していませんか?
大学教員の起業・兼業時に迷いやすい社会保険の制度について、保障内容や将来の年金も踏まえて丁寧に比較します。
ライフプランに応じた、判断のヒントにしていただければ幸いです。
なお、以下の関連記事も、併せてご参照ください。
大学教授が起業すると社会保険はどうなる?大学発ベンチャーが知っておくべき注意点
共済組合と一般の社会保険、どこが違うの?
大学教員の加入する共済組合と、民間企業の協会けんぽ・日本年金機構の厚生年金保険では、保険料率や保障内容が異なります。
ここでは旧国立大学の国家公務員共済を取り上げますが、公立大学や私立大学の共済組合も、概ね同等です。
| 項目 | 協会けんぽ+厚生年金保険 | 文部科学省共済組合(国家公務員共済) |
|---|---|---|
| 保険料率(2025年時点) | 健康保険:全国平均で約10%前後(地域で異なる)厚生年金:18.3%(労使折半) | 短期給付(健康保険):8.094% 長期給付(共済年金):18.3%(労使折半) |
| 保険料の負担割合 | 会社と労働者が折半 | 大学と組合員(職員)が折半 |
| 給付内容(医療) | 法定給付(傷病手当金、出産手当金等) | 傷病手当金・出産手当金・休業手当金等(傷病手当金は支給期間終了後も附加金を支給) |
| 年金の種類 | 老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金 | (老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)+(退職等年金給付+経過的職域加算額) ※年金上乗せあり |
| 退職後の年金 | 老齢厚生年金のみ支給 | 老齢厚生年金+退職等年金給付額+経過的職域加算額 |
| 加入資格 | 民間企業の労働者 | 国立大学法人の教職員、文部科学省の職員など |
解説:ポイント別の違い
1. 保険料面の負担(共済組合が有利)
-
協会けんぽの健康保険料率は地域差がありますが、共済組合の方が平均して1〜2%程度低く、同じ給与でも手取りが増える可能性があります。
2. 年金給付(共済組合がやや有利)
-
共済組合には職域加算(旧職域年金)に相当する「退職等年金給付」があり、同じ報酬でも老齢年金の支給額が若干高くなります(加入年数や役職による差あり)。
3. 医療給付(若干の差、共済組合がやや有利)
-
傷病手当金において、支給期間が満了した後の附加金の支給があり、共済組合の方がやや手厚いです。
4. 加入の柔軟性(協会けんぽが有利)
-
協会けんぽは幅広い業種・職種の労働者が加入でき、副業や転職時にも継続性が取りやすいです。一方、共済組合は特定の職域(主に公的機関)でしか加入できません。
結論
| ポイント | 有利な制度 |
|---|---|
| 保険料負担 | 共済組合(保険料率が低い) |
| 年金の給付額 | 共済組合(上乗せあり) |
| 医療保障の手厚さ | 共済組合(制度的に厚い) |
| 柔軟性・加入範囲 | 協会けんぽ(自由度高い) |
現在は共済組合も厚生年金保険に統合されていますが、退職等年金給付のような上乗せ制度が残っており、特に長期勤続の大学教職員には有利に働く仕組みが維持されています。
単純に保険料が安い・高いだけで判断するのではなく、保障内容(年金、医療、休業補償など)も総合的に比較し、自分に合った選択が必要です。
最終的な判断に迷った場合は、社会保険労務士への相談を強くおすすめします。
まとめ
大学発ベンチャーやスタートアップの設立にあたっては、「社会保険をどうするか」という問題は後回しにされがちです。
しかし、社会保険の選択や加入の可否は、将来的な保障や経営リスクにも直結します。
本業(大学教員)の立場、副業・兼業の状況、法人の形態、また本人のライフプランなどに応じて、最適な対応を検討することが必要です。
もし具体的な設立準備や人事労務体制整備でお困りの方は、当事務所までぜひご相談ください。
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