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■ はじめに──「一律45時間以内」指導からの方針転換
2026年9月、厚生労働省が労働時間に関する監督指導の方針を大きく見直しました。これまで労働基準監督署は、特別条項付き36協定を締結している事業場に対しても「時間外労働は月45時間以内に抑えるべき」と一律的な指導を行ってきましたが、今回の見直しにより、時間数だけでなく、健康確保措置の実施状況を重点的に確認する方針へと転換されます。
熊本県内の中小企業においても、この変化は経営判断や労務管理の実務に直結する重要なトピックです。本記事では、社会保険労務士の視点から、今回の方針転換の意味と、経営者として押さえておくべきポイントを解説します。
■ 今回の見直しの背景──日本成長戦略と骨太の方針
今回の見直しは突然決まったものではありません。日本成長戦略や骨太の方針といった政府の経済政策の中で、「労働時間に関する労使合意を尊重した柔軟な指導が必要」との指摘がなされてきました。
背景には、次のような問題意識があります。
– 一律的な「45時間以内」指導が、業種や事業の実態に合わない場合がある
– 法令上、特別条項を適切に締結していれば、一定の時間外労働は認められている
– 重大・悪質な違反事案への対応と、労使合意に基づく柔軟な労務管理への支援を、明確に区別すべき
つまり、「健全な労使関係のもとで合意された働き方を、行政が過度に制限すべきではない」という考え方への転換です。
■ 何が変わるのか──3つの重要ポイント
① 指導の視点が「時間数」から「健康確保措置」へ
これまでは時間外労働の時間数そのものが指導の中心でした。しかし今後は、36協定に記載された健康・福祉確保措置が実際に運用されているかが重点的にチェックされます。
具体的には以下のような項目です:
– 医師による面接指導
– 深夜業の回数制限
– 終業から始業までの休息時間(勤務間インターバル)の確保
– 代償休日・特別な休暇の付与
– 健康診断の実施
– 連続休暇の取得促進
つまり、「長時間働かせているかどうか」ではなく、「働く人の健康をきちんと守っているか」が問われる時代になったということです。
② 支援体制の拡充──専門相談窓口とアウトリーチ支援
厚労省は、各事業場が適切に36協定を締結できるよう、支援体制も強化します。
– 全国の働き方改革推進支援センターに「専門相談窓口」を設置
– 特別条項の締結支援、変形労働時間制やフレックスタイム制などの柔軟な労働時間制度の導入支援を実施
– 労働基準監督署と支援センターが連携した訪問型支援(アウトリーチ)も展開
これは、中小企業にとって大きなチャンスです。「相談に行く時間がない」「何をどう整備すればいいかわからない」という経営者の方々にとって、専門家が訪問してくれる支援は非常に心強いものとなるでしょう。
③ 重大・悪質な事案には引き続き厳正対応
誤解してはいけないのは、「残業し放題になった」わけではないという点です。
厚労省は明確に、「重大・悪質な事案に対しては厳正に対応する」と述べています。違法な長時間労働、労使協定のない残業、健康確保措置を一切講じない放置状態などには、これまで通り厳しい指導・是正勧告が行われます。
つまり、「ルールを守り、労働者の健康に配慮している事業場には柔軟に、違反している事業場には厳しく」というメリハリのある運用に変わるということです。
■ 熊本の中小企業経営者が今すぐやるべきこと
この方針転換を受けて、経営者として今すぐ取り組むべきことは以下の3つです。
1. 自社の36協定の内容を再確認する
特別条項に記載した健康確保措置が、形式だけのものになっていませんか? 実際に運用されているか、記録が残っているかを確認しましょう。
2. 健康確保措置の実効性を高める
面接指導の実施、勤務間インターバルの導入、代償休日の付与など、36協定に記載した措置を確実に実施できる体制を整えましょう。
3. 支援制度を積極的に活用する
働き方改革推進支援センターの専門相談窓口や訪問支援を活用し、自社に合った柔軟な労働時間制度の導入を検討してください。特に変形労働時間制やフレックスタイム制は、業種によっては大きな効果があります。
■ まとめ──「働き方の質」が問われる時代へ
今回の見直しは、労働時間管理における大きなパラダイムシフトです。「時間数を減らせばいい」という単純な発想ではなく、「労働者の健康をいかに守りながら、事業を持続可能な形で運営するか」が問われています。
熊本県内の中小企業の皆様におかれましては、この機会に自社の労務管理体制を見直し、健康確保措置の実効性を高めるとともに、必要に応じて専門家の支援を活用されることをお勧めします。
当事務所でも、36協定の見直しや健康確保措置の整備、柔軟な労働時間制度の導入支援を行っております。ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

