中小企業には独特の難しさがあります。
数字だけでは経営できません。
人間関係だけでも経営できません。
特に創業から会社を支えてきた幹部がいる場合、その存在は単なる社員ではなくなります。
会社の歴史そのものです。
だからこそ、その人物に関する問題が発生したとき、経営者は冷静な判断ができなくなります。
「長年会社に尽くしてくれた」
「この人がいなければ今の会社はなかった」
「本当にそんなことをする人ではない」
こうした感情は自然です。
しかし私は、このような場面で最も危険なのは不正そのものではないと考えています。
本当に危険なのは、
「誰も検証できない状態」
です。
相談事例
ある電気設備工事会社での話です。
創業時から会社を支えてきた工事部長がいました。
現場経験は豊富。
協力会社との関係も深い。
取引先からの信頼も厚い。
社長にとっては右腕のような存在です。
ところが近年、外注費が急増していました。
経理担当者が分析すると、特定の協力会社への発注が急増しています。
その会社の社長は工事部長の元部下でした。
さらに、
相見積もりがない。
発注理由が残っていない。
工事記録が不十分。
という問題も見つかります。
加えて退職した社員から、
「以前から現場では噂になっていた」
という情報も入ります。
しかし決定的証拠はありません。
社長は言います。
「彼は会社の恩人だ。」
この言葉は間違っていません。
しかし私は、その言葉だけで調査を止めるべきではないと考えます。
この問題の本質
私は、この問題の本質は不正疑惑ではないと思います。
本質は、
「権限の集中」
です。
もし一人の幹部しか判断できない。
もし誰もチェックできない。
もし発注理由も残っていない。
もし社長ですら確認をためらう。
その時点で組織としては危険な状態です。
実際に不正があるかどうかは、その後の話です。
まず問題なのは、
検証不能になっていることです。
よくある失敗
このようなケースで経営者が陥りやすい失敗があります。
1つ目は、信頼と管理を混同することです。
信頼しているから確認しない。
長年一緒だからチェックしない。
これは経営ではありません。
信頼しているからこそ、仕組みで確認する必要があります。
2つ目は、感情で判断することです。
功労者を傷つけたくない。
関係を壊したくない。
そう考えて先送りするケースがあります。
しかし時間が経つほど問題は大きくなります。
3つ目は、噂だけで処分することです。
逆に証拠もないまま強硬措置を取れば、新たなトラブルになります。
だからこそ必要なのは調査です。
私ならどう考えるか
私ならまず、誰が正しいかを決めません。
先に事実を集めます。
発注履歴。
見積書。
工事記録。
原価推移。
協力会社との関係。
これらを客観的に確認します。
そして可能であれば第三者を入れます。
なぜなら、この問題は社内だけでは解決しにくいからです。
社長は恩義を感じています。
専務は将来を心配しています。
工事部長は自分の正当性を主張します。
誰も完全には中立になれません。
だからこそ客観性が必要になります。
なぜ法律だけでは解決できないのか
仮に不正発注やキックバックが存在すれば、法的問題になります。
しかし経営者が向き合う現実はもっと複雑です。
もし工事部長が退職したらどうなるか。
協力会社との関係は維持できるのか。
取引先はどう反応するのか。
後継者承継に影響しないか。
社員は会社を信頼できるのか。
こうした問題は法律だけでは解決できません。
だから経営判断が必要になります。
重要なのは、
法的正解ではなく、
会社を守る順番です。
実務上のチェックポイント
私なら次の項目を確認します。
・発注先別の推移
・原価率の変化
・相見積取得状況
・協力会社との関係
・承認フロー
・工事実績記録
・写真管理状況
・退職者ヒアリング
・銀行からの指摘内容
・主要取引先からの評価
・権限分散状況
・後継者承継計画
特に確認したいのは、
「誰がチェックできるのか」
です。
誰もチェックできないなら、それは人の問題ではなく仕組みの問題です。
まとめ
私は、この問題の本質は創業功労者ではなくガバナンスだと考えます。
功労者を疑えと言いたいわけではありません。
むしろ逆です。
功労者だからこそ、
本人を守るためにも、
会社を守るためにも、
客観的な検証が必要です。
重要なのは、
信頼することと、
確認することを分けて考えることです。
中小企業では、
「疑うか、信じるか」
という二択になりがちです。
しかし経営に必要なのは第三の選択肢です。
それが、
「検証する」
という考え方です。
私は、それが会社と人間関係の両方を守る最初の一手だと考えます。
【免責文】
本記事は一般的な経営課題に関する考察です。個別事案によって事実関係や契約内容、適用法令は異なります。実際の判断にあたっては、具体的な事実関係を確認したうえで検討する必要があります。

