厚生労働省は、令和8年熊本地震の災害に伴い、雇用調整助成金の特例措置を実施することを正式に発表しました。
今回の特例措置は、熊本地震に伴う経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされ、従業員の雇用を維持するために休業、教育訓練または出向を行う事業主を対象とするものです。
ここで注意したいのは、建物や設備が直接被害を受けた企業だけが対象ではないということです。
たとえば、地震の影響による売上や客数の減少、取引先の被災、物流への影響、ライフラインの支障などによって事業活動を縮小せざるを得ない場合も、今回の特例措置の対象となる「経済上の理由」に該当する可能性があります。
また、今回の特例では、生産指標の確認期間の短縮や計画届の事後提出など、通常とは異なる取扱いが設けられています。さらに、熊本県内の事業所については、全国共通の措置に加えた追加措置も実施されます。
この記事では、厚生労働省から発表された内容をもとに、今回の雇用調整助成金の特例措置について、どのような企業が対象になるのか、通常の制度から何が変わったのかを中心に解説します。
まず確認|今回の特例措置の対象となる企業
今回の特例措置は、令和8年熊本地震に伴う「経済上の理由」によって事業活動を縮小し、休業、教育訓練または出向を行う事業主が対象です。
「地震で被災したかどうか」だけでなく、地震によって事業活動にどのような影響が生じているかを確認することが重要です。
対象となる休業等の期間
今回の特例措置では、休業、教育訓練または出向の初日が、令和8年7月28日から令和9年1月27日までである場合が対象とされています。
また、本特例は1年の期間内に実施した休業等が助成対象となります。
ただし、支給日数には上限があり、1年間で100日に達した場合には、その上限日数までが助成対象となります。
「経済上の理由」とは
厚生労働省は、令和8年熊本地震に伴う「経済上の理由」について、経済的な取引関係の悪化・困難等の事情として、次のような具体例を示しています。
1.需要の減少や風評被害により、販売・集客が難しくなった
地震の影響によってお客様が減少したり、風評被害によって販売や集客が難しくなったりしたケースです。
店舗、飲食業、宿泊業、観光関連業などでは、建物自体は営業できる状態であっても、地震の影響によって来店客や予約が減少することが考えられます。
2.取引先の被災により、原材料や商品の取引が難しくなった
自社が大きな被害を受けていなくても、仕入先や取引先が被災したことによって、原材料や商品の仕入れなどが困難になるケースがあります。
このような取引先の被災による間接的な影響も、「経済上の理由」の具体例に含まれています。
3.交通の途絶により、物流や従業員の通勤などに支障が出た
交通の途絶によって製品や原材料を運ぶことができない、あるいは従業員が出勤できないなど、生産・販売環境が悪化したケースです。
事業所そのものに被害がなくても、交通事情によって通常どおり事業を継続できなくなっている場合には確認が必要です。
4.電気・水道・ガス・通信などの影響で事業活動が難しくなった
電気、水道、ガス等の供給や通信が途絶したり、利用が困難になったりしたことによって、生産・販売環境が悪化したケースも挙げられています。
5.被災した施設・設備の修理や部品調達に時間がかかっている
施設や設備が損壊し、修理業者の手配や修理部品の調達などに、災害の影響によって時間を要しているケースです。
修理が完了するまで通常どおり事業を行えず、従業員を一時的に休業させなければならない場合などが考えられます。
建物や設備に直接被害を受けた場合は?
今回の厚生労働省の発表では、施設や設備が令和8年熊本地震によって直接的な被害を受け、事業活動を休止・縮小する場合についても取扱いが示されています。
施設・設備への直接的な被害による休止・縮小であっても、上記1~5のいずれかの理由を伴う場合には、「経済上の理由」があるものとして取り扱われます。
したがって、「地震で被災したから対象になる」、あるいは反対に「建物には被害がなかったから対象にならない」と、被害の有無だけで判断するのではなく、地震によって自社の事業活動にどのような影響が生じているのかを具体的に整理することが大切です。
雇用調整助成金とは
雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持するため、一時的に休業、教育訓練または出向を行った場合に、休業手当や賃金等の一部を助成する制度です。
たとえば、地震の影響で売上が減少し、これまでと同じように従業員に働いてもらうことが難しくなった場合でも、すぐに人員削減を行うのではなく、一時的に休業させて休業手当を支払いながら事業の回復を待つという選択肢があります。
雇用調整助成金は、このような一時的な雇用調整を行いながら従業員の雇用を維持する事業主を支援する制度です。
今回の熊本地震では、災害による急激な事業環境の変化を踏まえ、通常とは異なる特例措置が設けられました。
今回の熊本地震で実施される5つの特例措置
全国の事業所を対象として、次の5つの措置が実施されます。
1.熊本地震に伴う「経済上の理由」により事業活動を縮小する事業主が対象
今回の特例措置は、令和8年熊本地震に伴う経済上の理由によって事業活動を縮小する事業主を対象としています。
具体的な「経済上の理由」については前述したとおり、需要の減少や風評被害、取引先の被災、交通やライフラインへの影響などが示されています。
自社への直接的な被害だけでなく、熊本地震と事業活動の縮小との関係を確認することがポイントです。
2.生産指標の確認期間を3か月から1か月に短縮
今回の特例措置では、生産指標の確認期間が3か月から1か月に短縮されます。
災害の場合、地震発生前までは通常どおり営業していた企業でも、被災を境に売上や生産量などが急激に落ち込むことがあります。
確認期間が1か月に短縮されることで、こうした地震発生後の急激な事業活動の縮小を、より早い段階で確認できることになります。
3.最近3か月の雇用量が対前年比で増加していても対象に
今回の特例措置では、最近3か月の雇用量が前年同期と比べて増加している場合でも助成対象とされます。
たとえば、地震発生前まで事業が順調で、事業拡大のために従業員を増やしていた企業が、その後、地震の影響によって急に事業活動を縮小せざるを得なくなることも考えられます。
地震発生前に採用を増やしていた企業にとっては、確認しておきたい特例です。
4.地震発生時に事業所設置後1年未満でも対象に
今回の特例措置では、令和8年熊本地震の発生時に事業所設置後1年未満だった事業主についても助成対象とされます。
そのため、開業・創業して間もない時期に今回の地震の影響を受けた企業についても、事業所を設置してから1年未満であることだけで対象外とはなりません。
最近事業を開始した企業や新しい事業所を開設した企業は、確認しておきたい特例です。
5.計画届の事後提出が可能に
今回の特例措置では、計画届を事後に提出することが可能とされています。
災害発生直後は、従業員の安全確認、取引先への対応、施設や設備の復旧など、さまざまな対応が集中します。そのような状況では、雇用調整助成金の手続きを事前に行うことが難しいケースも考えられます。
ただし、事後提出が可能だからといって、何の準備もしなくてよいということではありません。
制度の利用を検討している場合には、可能な範囲で早めに必要な手続きや書類を確認しておくことをおすすめします。
熊本県内の事業所には、さらに2つの追加措置
ここまで説明した5つの特例措置に加えて、熊本県内の事業所については、さらに2つの追加措置が設けられています。
1.残業相殺のルールを撤廃
通常の雇用調整助成金では、従業員を休業させる一方で所定外労働を行わせた場合、支給対象となる休業等の延べ日数から、所定外労働時間に相当する分を控除する取扱いがあります。
これが、いわゆる「残業相殺」です。
今回の特例措置では、熊本県内の事業所について、この残業相殺のルールが撤廃されます。
災害時には、会社全体として仕事が減っている一方で、復旧対応など特定の業務に仕事が集中することも考えられます。一部の従業員を休業させながら、別の従業員には所定外労働が発生するという状況もあり得ます。
今回、この残業相殺の取扱いが撤廃されることは、熊本県内で休業を検討している企業にとって重要な変更点です。
2.教育訓練の実施率による助成率の引下げを撤廃
通常の雇用調整助成金では、支給日数が30日を経過した日以降、教育訓練の実施率が10%未満の場合には、助成率を引き下げる取扱いがあります。
今回の特例措置では、熊本県内の事業所について、この教育訓練の実施状況に応じた助成率の引下げが撤廃されます。
災害後は、事業の復旧や取引先への対応などを優先せざるを得ず、通常時と同じように教育訓練を実施することが難しい場合もあります。
今回の措置により、教育訓練の実施率が10%未満であっても、それを理由とした助成率の引下げは行われないことになります。
特例措置を利用する際に注意したいこと
今回の特例措置によって、通常の雇用調整助成金とは異なる取扱いが設けられています。
ただし、特例措置の対象に該当することと、雇用調整助成金が実際に支給されることは同じではありません。
制度を利用する際には、今回発表された特例措置だけでなく、雇用調整助成金そのものの支給要件や申請手続きについても確認する必要があります。
雇用保険の適用事業所であることなど、ほかにも要件がある
厚生労働省の発表資料でも、雇用保険の適用事業所であることなど、ほかにも要件があるとされています。
今回紹介した特例措置のいずれかに該当すれば、必ず助成金が支給されるというものではありません。
実際の利用にあたっては、自社がその他の支給要件を満たしているかについても確認してください。
申請に関する書類は5年間保存する必要がある
雇用調整助成金を申請した事業主は、提出または提示した書類の写し、その他支給要領に規定する各種書類を、支給決定日の翌日から起算して5年間保存する必要があります。
災害発生後は、通常業務に加えて復旧対応なども重なりますが、申請が終わったからといって関係書類を処分してよいわけではありません。
申請時に使用した書類は、後から確認できるよう適切に保存しておきましょう。
休業を検討する段階から状況を整理しておく
今回の特例では計画届の事後提出が可能ですが、制度の利用を検討しているのであれば、可能な範囲で早い段階から、
- なぜ休業が必要になったのか
- 熊本地震によって事業にどのような影響が生じたのか
- いつ、どの従業員を休業させたのか
- 休業手当をどのように支払ったのか
といった事実関係を整理しておくことをおすすめします。
特に、売上や客数の減少、取引先の被災、物流への影響、ライフラインの支障、設備の修理状況など、熊本地震と事業活動の縮小との関係を整理しておくことが大切です。
なお、具体的な必要書類や手続きについては個々の状況によって確認が必要です。厚生労働省も、詳細については雇用調整助成金特設ページのガイドブック等を確認するよう案内しています。
熊本地震の影響で休業を検討している企業経営者の方へ
今回の特例措置について、「建物や設備に大きな被害がなかったから、自社は関係ない」と早い段階で判断しないことが大切です。
地震によって従業員を通常どおり勤務させることが難しくなり、休業を検討している場合には、まず自社の状況を整理してみてください。
たとえば、
- 地震発生前と比べて売上や客数がどのように変化したか
- 取引先や仕入先の被災による影響はないか
- 原材料や商品の入荷に支障はないか
- 交通への影響によって物流や従業員の通勤に支障が生じていないか
- 電気・水道・ガス・通信などに支障はないか
- 施設や設備の修理、部品の調達などに時間を要していないか
といった点です。
また、すでに休業を実施している場合も、今回の特例では計画届の事後提出が可能とされています。「事前に手続きをしていなかったから、もう利用できない」と自己判断せず、対象となる可能性があれば制度の詳細を確認してください。
雇用調整助成金は、事業活動が一時的に縮小したときに、従業員の雇用を維持するための選択肢の一つです。
「自社が今回の特例措置の対象になるのか分からない」という場合には、自己判断だけで結論を出さず、早めに制度の対象となる可能性を確認することをおすすめします。
まとめ|熊本地震の影響を受けている企業は早めに確認を
令和8年熊本地震に伴う今回の特例では、生産指標の確認期間の短縮、雇用量に関する取扱いの緩和、事業所設置後1年未満の事業主への対象拡大、計画届の事後提出などが認められています。
さらに、熊本県内の事業所については、残業相殺の撤廃と、教育訓練の実施状況に応じた助成率引下げの撤廃という追加措置が設けられています。
今回の特例を検討するうえでは、自社への直接的な被害の有無だけではなく、熊本地震によって事業活動にどのような影響が生じているのかを見ることが重要です。
地震の影響で休業を検討している場合には、対象外だと自己判断せず、早めに支給要件や必要な手続きを確認しておきましょう。
雇用調整助成金についてのご相談
荻生労務研究所では、令和8年熊本地震の影響を受け、従業員の休業や雇用調整助成金の利用を検討されている企業からのご相談を承ります。
「自社が今回の特例措置の対象になるのか分からない」
「地震による売上減少があるが、雇用調整助成金を利用できるのか確認したい」
「従業員を休業させる前に、どのような準備が必要なのか知りたい」
といった段階でも、まずは状況を整理することが大切です。
今回の地震による事業への影響や休業の状況などを確認したうえで、制度の利用について一緒に検討していきます。
※雇用調整助成金には、今回ご紹介した特例措置以外にも支給要件があります。個別の状況によって取扱いが異なる場合がありますので、実際の申請にあたっては最新の情報をご確認ください。
参考情報
厚生労働省「令和8年熊本地震に伴う雇用調整助成金の特例を実施します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75665.html

