社会保険労務士法第9次改正への懸念にどう応えるか|実務家としての視点と提案

改正法成立と広がる議論
2025年6月、社会保険労務士法の第9次改正が可決・成立しました。今回の改正は、社会保険労務士(以下、社労士)の業務の明確化や、労務監査に関する業務の明記、さらには裁判所への補佐人としての出廷・陳述の明記など、多岐にわたる内容を含んでいます。
この改正に対しては、日本労働組合総連合会(連合)や日本労働弁護団などから、懸念や反対の声が挙がっています。本稿では、そうした懸念に対して、一人の社労士として冷静に受け止めつつ、私自身がどのように取り組んでいくかを示します。
懸念の内容整理:連合と日本労働弁護団の主張
連合の主張(労働者保護の観点から)
- 一部社労士の問題行動により、労働者保護が損なわれる懸念。
- 労務監査・補佐人出廷の制度化による実務の混乱。
- 労働政策審議会を経ない議員立法での制定手続きへの不満。
日本労働弁護団の主張(法的専門性の観点から)
- 社労士には労働組合法や民法などの基礎法知識が欠けており、業務拡大は不適切。
- 労務監査業務は、企業の労働法遵守状況に「お墨付き」を与えるリスクがある。
- 裁判や労働審判への関与は、職業倫理や判断力の面で懸念がある。
社労士としての受け止めと問題認識
現実に一部の社労士に不適切な行為が見られることは、謙虚に受け止めるべき事実です。また、労働組合法や民法といった分野が個別の試験科目に含まれていない点は、課題として認識しています。
ただし、こうした法分野は「労働に関する一般常識」として試験範囲に含まれており、加えて、合格後の研鑽によって補完可能です。実際、近年では社労士会連合会や都道府県社労士会、あるいは自主研究会において、社労士向けの自己学習教材やフォローアップ研修、リーガルマインドの育成を目的とした能力担保型研修も広がっています。
私の取り組み1:労務監査に必要なスキルの強化
労務監査に必要なスキルとして、
- 労務リスクの発見・判定・改善支援に関する能力、
- 経営者や実務者とのファシリテーション能力
を重視しています。これらを高めるため、実務経験の蓄積や、自主的なトレーニングを継続していきます。
将来的には、こうしたスキルを客観的に示せる認定制度があれば、望ましいと考えます。
私の取り組み2:補佐人関与に向けた能力向上
補佐人としての出廷が認められるにあたり、民事訴訟法や証拠構成、判決文の読解といった実務力を磨く必要があります。私は今後も書籍での学習や実務経験者からの学びを重ねていきます。
また、信頼できる弁護士との連携も意識し、必要に応じて共同対応ができる体制を整えていきます。
私の視点:社労士法制定過程と現場からの視点
社会保険労務士法は、その当初から議員立法によって制定したという経緯があり、現場の実務者が関与して形作ってきた制度です。私は今後も、現場の視点を持ち、制度に対して実務的かつ建設的な意見を持ち続けていきたいと思っています。
私の立場:倫理とガバナンスへの意識
懲戒制度の運用や倫理研修の充実についても、一人の社労士として真摯に取り組むべき課題だと認識しています。私自身、法的理解を深め、職業倫理の確立に努めていきます。
弁護士や他士業と協働する機会を活かし、相互の専門性を尊重した関係性の中で、より良い実務を目指していきます。
おわりに:自覚と実践をもって信頼に応える
社会保険労務士制度は、私たち実務者の行動と姿勢によって、信頼される制度へと進化していきます。
今後も、自覚と継続的な学びをもって、専門職としての責任を果たしていきたいと考えています。
参考情報
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