【2026年10月施行】同一労働同一賃金指針改正で熊本の中小企業が今すぐ準備すべき5つのポイント

【2026年10月施行】同一労働同一賃金指針改正で熊本の中小企業が今すぐ準備すべき5つのポイント

2026年4月28日、厚生労働省が同一労働同一賃金制度の指針を初めて改正しました。10月からの適用を控え、熊本県内の中小企業経営者にとって、この制度変更は人事労務管理における大きな転換点となります。本記事では、社会保険労務士の視点から、改正内容の詳細と中小企業が取るべき具体的な対応策を解説します。

同一労働同一賃金制度とは?基本を再確認

同一労働同一賃金制度は、正社員と非正規労働者(パート、契約社員、派遣社員など)の間に不合理な待遇格差を設けることを禁じた制度です。パートタイム・有期雇用労働法に規定され、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から適用されています。

この制度の目的は、「同じ仕事をしているのに、雇用形態が違うだけで待遇に差がある」という不合理を解消し、働く人々の公平性を実現することにあります。

今回の指針改正で何が変わるのか

家族手当の支給義務が明確化

今回の改正で最も注目すべきは、家族手当の取り扱いです。労働契約の更新を繰り返し、継続的な勤務が見込まれる非正規労働者には、正社員と同一に家族手当を支給しなければならないことが明記されました。

これまで多くの企業では、家族手当は正社員のみに支給されていましたが、今後は雇用形態による区別が認められなくなります。

無事故手当・住宅手当も対象に

配送業者のドライバーが事故を起こさずに勤務した際に受け取る無事故手当についても、業務内容が同じであれば非正規労働者にも支給するよう促されています。

住宅手当については、正社員と同じく転居を伴う配置変更の可能性がある場合には支給することが明示されました。

正社員の待遇引き下げは望ましくない

重要なポイントとして、不合理な待遇差を改善する手段として、正社員の手当や賃金を削減するのは望ましくないと新たに明記されました。同一労働同一賃金は、あくまで非正規労働者の待遇改善を目指すものであり、正社員の待遇を下げることで帳尻を合わせることは制度の趣旨に反します。

熊本の中小企業への影響と現状

非正規労働者の現状

総務省の労働力調査によると、非正規労働者は2025年におよそ2,130万人と30年で2倍超に増え、雇用者全体の4割を占めています。熊本県内の中小企業でも、パートや契約社員を多数雇用している事業所は少なくありません。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2025年の正社員の平均賃金に対して非正規の平均賃金は67.4%にとどまっており、大きな格差が存在しています。

是正指導の急増

同一労働同一賃金の指針に違反しても罰則はありませんが、各地の労働局による是正指導は急増しています。2022年度は144件だったものが、2023年度には2,596件、2024年度には3,653件と、わずか2年で25倍以上に跳ね上がっています。

この背景には、各地の労働局と労働基準監督署が連携して指導にあたっていることがあり、今後さらに厳格化することが予想されます。

中小企業が直面する課題

人件費増加への懸念

企業側からは「人件費が増えるだけでなく、手当の有無でパート従業員に待遇差が出てしまう」「手当の支給要件を満たす人がどれくらいいるかやコスト増は未知数」といった懸念の声が上がっています。

特に熊本県内の中小企業では、利益率が限られている中で人件費増加は経営に直結する問題です。

支給基準の複雑化

「共働きで世帯主が既に家族手当をもらっている世帯で、配偶者がパート従業員の場合は重複して支給するのか」など、実務上の疑問も多く出ています。

採用時に家族構成まで詳しく把握していない企業も多く、制度運用の複雑化が予想されます。

前向きに捉えるべき理由

従業員の定着率向上

一方で、「非正規従業員の意欲向上や長期就業につながるのではないか」と評価する企業もあります。実際、物語コーポレーションは約3.5万人のパート従業員を抱え、「パート従業員のモチベーション向上や人材の定着につながり、中長期的な成長を支える制度だ」として、店舗運営の効率化や生産性向上で原資を捻出する意向を示しています。

消費マインドの改善

大手小売り幹部からは「賃金の伸びが物価に追い付いておらず消費マインドは弱い。従業員も消費者だ。家族手当の支給は実質賃上げになり長い目ではやむを得ない」との声もあります。

従業員の生活が安定すれば、地域経済全体にもプラスの影響をもたらします。

熊本の中小企業が今すぐ準備すべき5つのポイント

1. 就業規則と賃金規程の総点検

まず、現在の就業規則と賃金規程を見直し、正社員と非正規労働者の待遇差が不合理でないかチェックしましょう。特に以下の手当について確認が必要です。

– 家族手当
– 住宅手当
– 無事故手当
– 通勤手当
– 役職手当

2. 非正規労働者の雇用実態把握

現在雇用している非正規労働者について、以下の情報を整理しましょう。

– 雇用期間と更新回数
– 継続勤務の見込み
– 業務内容と責任の程度
– 配置変更の可能性
– 家族構成(家族手当対象者の有無)

3. 人件費増加のシミュレーション

改正指針に対応した場合の人件費増加を試算し、予算を確保する必要があります。10月施行まであと5ヶ月ですので、早急にシミュレーションを行いましょう。

4. 支給基準の明確化

家族手当などの支給基準を明確にし、公平性を確保することが重要です。

– 扶養の定義(税法上の扶養か、健康保険上の扶養か)
– 重複支給の有無
– 支給額の決定方法

5. 従業員への説明と理解促進

制度変更について、従業員に丁寧に説明し、理解を促進することが大切です。特に、正社員の待遇を下げずに非正規労働者の待遇を改善する姿勢を示すことで、職場全体の士気を高めることができます。

社会保険労務士に相談するメリット

同一労働同一賃金への対応は、法令の解釈や就業規則の改定など専門的な知識が必要です。社会保険労務士に相談することで、以下のメリットがあります。

– 法令に適合した就業規則・賃金規程の作成
– 労働局の是正指導を受けないための予防的対応
– 人件費増加を抑えつつ法令を遵守する工夫
– 助成金や補助金の活用提案

まとめ:ピンチをチャンスに変える

同一労働同一賃金指針の改正は、確かに中小企業にとって人件費増加という課題をもたらします。しかし、これを「人への投資」と捉え、従業員の定着率向上、採用力強化、企業ブランド向上のチャンスにすることができます。

熊本県内の中小企業が持続的に成長し、地域に根差した優良企業として発展していくために、今回の改正を前向きに受け止め、早めの準備を進めていきましょう。

10月施行まであと5ヶ月。今から準備を始めれば、十分に対応可能です。ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽に社会保険労務士にご連絡ください。

【参考】
厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」2026年4月28日改正
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html
日本経済新聞「家族手当『短時間労働者にも』厚労省、同一労働同一賃金の指針改正」
記事詳細:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA238TO0T20C26A4000000/