介護と仕事の両立支援、2025年法改正をチャンスに変える方法

2025年4月、介護支援の新常識が始まる
「仕事と介護の両立ができない」「介護を理由に退職を考えている」。こうした悩みを抱える従業員は決して少なくありません。現在、日本では年間約10万人が「介護離職」によって仕事を辞めています。その背景には、「介護のために働き続けることは難しい」という認識や、「そもそも会社に介護を支援する制度があることを知らなかった」といった情報不足が大きく影響しています。
こうした状況を受けて、2025年4月から「育児・介護休業法」の改正が施行されます。今回の改正では、企業に対して「従業員が介護に直面した際の個別周知・確認」や「40歳到達時点での情報提供」が義務づけられました。これは、企業が従業員の介護問題に積極的に関与し、離職を防ぐことを目的とした大きな制度改革です。
これまでの制度では、介護休業や介護休暇などの仕組みは用意されていたものの、それを知らずに仕事を辞めてしまうケースが後を絶ちませんでした。実際、「介護休業を利用すればよかったと退職後に知った」という声も多く、企業側からの積極的な情報提供が不足していたことが原因の一つと考えられます。
また、企業側にとっても介護離職は大きな課題です。優秀な人材が介護を理由に辞めてしまうと、新たな人材を採用・育成するためのコストが発生し、組織の安定性も揺らぎます。さらに、介護を抱えながら働く従業員が制度を知らずに無理をしてしまうと、心身の負担が増し、結果的に生産性が低下してしまう可能性もあります。
今回の法改正は、企業にとって単なる「義務」ではなく、従業員の働きやすさを向上させ、組織の安定性を確保するための「チャンス」とも言えます。従業員が介護に直面した際に適切なサポートを受けられる環境を整えることで、長く安心して働ける職場を作ることができるのです。
では、具体的に何が変わるのか? 企業はどのように対応すべきなのか? 次のセクションで詳しく解説していきます。
なぜ介護離職は減らないのか?
日本では、少子高齢化の進行に伴い、介護を担う世代が増え続けています。特に、40代・50代の働き盛りの世代が親の介護を理由に退職するケースが後を絶ちません。政府は介護離職を防ぐために、これまでにも介護休業や介護休暇といった制度を整えてきましたが、実際にはこれらの制度が十分に活用されていないのが現状です。では、なぜ介護離職が減らないのでしょうか?
最大の理由の一つは、「制度の認知不足」です。企業には既に、介護休業(最大93日間取得可能)や介護休暇(年5日取得可能)、短時間勤務やフレックスタイムなど、介護と仕事を両立するための仕組みが整っています。しかし、多くの従業員はこれらの制度の存在を知らない、あるいは「自分には関係ない」と思い込んでいるのです。
特に、介護の問題は突然発生することが多いため、準備のないまま直面し、「仕事と両立するのは無理だ」と判断してしまうケースが少なくありません。また、職場内で介護に関する話題がタブー視される風潮がある場合、相談しづらく、一人で抱え込んでしまうことも介護離職を招く原因の一つです。
もう一つの理由は、介護休業の「本当の使い方」が知られていないことです。介護休業というと、「親の介護をするために仕事を休む制度」と思われがちですが、本来の目的はそうではありません。介護休業は、介護サービスや公的支援を利用しながら、仕事を続けるための環境を整えるための時間なのです。
たとえば、介護休業を利用することで、ケアマネージャーと相談しながら介護計画を立てたり、デイサービスや訪問介護の利用手続きを進めたりすることができます。しかし、こうした制度の使い方を理解していないと、「仕事を休んでも結局、自分で介護をしなければならない」と思い込み、結果的に離職を選んでしまうのです。
こうした課題を解決するために、2025年4月の法改正では、企業に対して「介護に直面した従業員への個別周知・確認」と「40歳に到達した従業員への事前情報提供」が義務化されました。これは、介護が必要になってから慌てるのではなく、早い段階で正しい知識を持ち、仕事と両立する準備をすることが重要だという考え方に基づいています。
では、今回の法改正によって、企業は具体的にどのような対応を求められるのでしょうか? 次のセクションで詳しく解説していきます。
2025年法改正で何が変わる?企業が対応すべきポイント
2025年4月の育児・介護休業法改正では、企業に対して新たに2つの義務が課されます。
- 介護に直面した従業員への「個別周知・確認」の義務化
- 40歳に到達した従業員への「事前情報提供」の義務化
この改正の目的は、従業員が介護と仕事を両立しやすい環境を作ることにあります。これまで、介護に関する情報は自ら調べなければ得られない状況でした。しかし、介護の問題は突然発生することが多いため、いざという時に適切な情報を得られず、結果として離職してしまうケースが多く見られました。今回の法改正では、企業側から積極的に情報を提供し、従業員が適切な制度を活用できるよう支援することが求められます。
① 介護に直面した従業員への「個別周知・確認」の義務化
これまで、企業には育児・介護に関する制度の周知義務がありましたが、一般的な説明にとどまり、個別の従業員に対する具体的な情報提供は義務付けられていませんでした。その結果、制度があることを知らずに介護離職してしまうケースが発生していました。
今回の改正により、企業は介護に直面した従業員に対して、個別に制度の周知を行い、利用できる制度について説明することが義務化されます。具体的には、以下のような対応が求められます。
- 介護休業・介護休暇の制度の説明(利用要件や取得可能日数、手続き方法)
- 短時間勤務制度やフレックスタイム制度の案内(仕事を続けながら介護をする選択肢を提示)
- 公的介護サービスの活用方法の紹介(地域の介護支援窓口やケアマネージャーとの連携)
- 企業独自の支援制度がある場合、その利用方法の説明(有給の特別休暇やリモートワークの活用など)
これにより、介護が突然始まった従業員が適切な制度を活用し、「介護のために仕事を辞めるしかない」という状況を防ぐことが期待されます。
② 40歳に到達した従業員への「事前情報提供」の義務化
介護はある日突然始まることが多く、準備不足のまま直面すると、適切な対応ができずに混乱してしまいます。そのため、今回の改正では、40歳に達した従業員に対して、事前に介護に関する情報を提供することが企業に義務付けられました。
なぜ40歳なのか? これは、日本の公的介護保険制度において、40歳から介護保険の被保険者となるためです。40歳を超えると介護保険料が徴収され始めますが、多くの人はその意味を深く理解していません。実際に親の介護が必要になったときに初めて介護保険制度の存在を知る人も多く、結果的に介護離職を選んでしまうケースが生じています。
そこで、企業は40歳に到達した従業員に対して、以下のような情報を提供することが求められます。
- 公的介護保険制度の仕組みと利用方法(どのようなサービスが受けられるのか)
- 介護休業・介護休暇の活用方法(介護が始まる前から制度の理解を深める)
- 仕事と介護を両立するための選択肢(在宅勤務や時短勤務の活用方法)
- 介護が必要になる前に準備すべきこと(親と介護について話し合うタイミング、必要な手続きなど)
この事前情報提供によって、従業員が早い段階から介護の準備を進められるようになり、いざという時に適切な対応ができるようになることが期待されます。
企業はどう対応すべきか?
この法改正に対応するために、企業は次の3つのポイントを押さえて準備を進める必要があります。
- 介護に関する社内ガイドラインの整備
- 介護に直面した従業員への周知方法を明文化する
- 40歳到達時の情報提供のタイミングを決める
- 管理職向けの研修の実施
- 介護を抱える従業員が相談しやすい環境を作る
- 介護休業や短時間勤務制度の適切な運用方法を学ぶ
- 社内外の専門家との連携
- 社労士や介護支援専門員と協力し、従業員が相談できる体制を整える
- 外部セミナーの活用や相談窓口の設置
今回の法改正は、企業にとって単なる義務ではなく、従業員の定着率向上や生産性向上のチャンスでもあります。介護に直面する従業員が安心して働き続けられる環境を整えることで、企業の魅力が高まり、長期的な人材確保にもつながるでしょう。
次のセクションでは、さらに踏み込んで、企業が法改正をうまく活用し、介護と仕事の両立を支援するための具体策を解説していきます。
法改正をチャンスに変える3つのポイント
2025年4月の育児・介護休業法改正によって、企業には「介護に直面した従業員への個別周知・確認」と「40歳に到達した従業員への事前情報提供」が義務づけられます。しかし、これは単なる義務ではなく、企業が従業員の定着率を向上させ、働きやすい環境を整える絶好のチャンスでもあります。
ここでは、法改正をうまく活用し、介護と仕事の両立を支援するための3つの具体策を紹介します。
1. 介護に関する社内の周知体制を強化する
介護の問題は、誰にとっても突然やってくるものです。そのため、日頃から介護に関する情報を提供し、従業員が「自分ごと」として意識できる環境を作ることが重要です。
具体的な施策として、以下のような取り組みが考えられます。
✅ 社内ハンドブックの作成
介護休業・介護休暇の取得方法、短時間勤務制度の利用条件、公的介護サービスの種類などを分かりやすくまとめた資料を作成し、社内ポータルサイトで共有する。
✅ 定期的な社内説明会の開催
「40歳を迎えた従業員向け」や「管理職向け」の研修を定期的に実施し、制度の正しい理解を促進する。
✅ eラーニングや動画配信の活用
忙しい従業員でも介護制度について学べるように、オンライン研修を導入する。
✅ 社内相談窓口の設置
「介護に関する悩みを相談できる窓口」を設け、専門家(社労士やケアマネージャーなど)に気軽に相談できる環境を整備する。
こうした取り組みを通じて、従業員が介護の問題に直面した際に、「どこに相談すればいいのか」「どの制度を利用すればいいのか」がすぐに分かる環境を作ることができます。
2. 人事部門と管理職の理解を深める
介護を抱える従業員にとって、上司や人事担当者が介護制度について理解しているかどうかは非常に重要です。上司が「そんな制度があったんだね」「忙しい時期だから休業は難しい」といった対応をしてしまうと、従業員は制度を利用しづらくなり、最悪の場合、離職を選んでしまいます。
そのため、管理職や人事部門向けに以下のような対策を行うことが効果的です。
✅ 管理職向けの研修を実施
「介護に直面した部下をどうサポートすべきか」を学ぶ研修を開催する。介護休業の目的、フレックスタイムの活用方法、チーム内での業務調整のポイントなどを具体的に伝える。
✅ 人事部門の役割を明確化
従業員が介護の相談をしやすい環境を作るために、人事部門が「どのような情報を提供するのか」「どんなサポートを行うのか」を明確にする。
✅ 管理職向けの「対応マニュアル」を作成
「部下が介護の問題を相談してきたとき、どのように対応すべきか」をまとめたマニュアルを作成し、管理職が適切なアドバイスをできるようにする。
こうした取り組みによって、介護を抱える従業員が安心して相談できる職場環境を整えることができます。
3. 外部専門家と連携し、企業独自のサポート体制を構築する
企業の人事部門だけで介護支援を完璧に行うのは難しいため、外部の専門家と連携することが重要です。
✅ 社労士や介護支援専門員(ケアマネージャー)との連携
社労士が「介護休業制度の適用方法」についてアドバイスを行い、ケアマネージャーが「実際の介護サービスの利用方法」について説明することで、従業員がスムーズに介護と仕事を両立できるようサポートする。
✅ 企業向けの介護相談窓口の設置
社外の専門家と提携し、従業員が匿名で介護に関する相談ができるオンライン窓口を設ける。
✅ 企業独自の支援制度の導入
たとえば、
- 介護休業の「有給化」
- 介護支援手当の支給
- 介護を理由とした在宅勤務の許可
など、企業ごとに独自のサポート体制を構築することで、従業員にとって「この会社なら安心して働ける」と思える環境を作ることができる。
まとめ:企業の対応が「選ばれる職場」につながる
今回の育児・介護休業法の改正は、企業にとって「新たな義務」ではありますが、同時に職場環境を改善し、従業員の定着率を向上させる大きなチャンスでもあります。
📌 企業が取り組むべき3つのポイント
- 社内の周知体制を強化し、従業員が情報を得やすい環境を作る
- 管理職と人事部門が介護に関する正しい知識を持ち、適切な対応を行う
- 外部専門家と連携し、企業独自のサポート制度を整える
これらの取り組みを実施することで、介護に直面した従業員が仕事を辞めずに済む環境が整い、企業としての魅力も向上します。
「介護支援制度を整えたい」「従業員が安心して働ける職場を作りたい」という企業の皆さまへ。専門家と連携しながら、自社に最適な制度設計を進めてみませんか?
次のセクションでは、さらに「具体的な企業事例」や「成功事例」を紹介しながら、実際に企業がどのように対応できるのかを詳しく解説していきます。
今こそ企業が動くべき時
2025年4月の育児・介護休業法改正は、企業にとって単なる義務ではなく、「働きやすい職場環境を整え、優秀な人材を確保するチャンス」でもあります。介護離職を防ぐための施策を講じることで、従業員の定着率向上や生産性の維持、さらには企業のブランド価値向上にもつながります。では、具体的に何から始めるべきなのでしょうか?
企業が今すぐ取り組むべきアクション
① 社内の周知体制を整備し、従業員に情報を届ける
介護に関する情報は、従業員が自ら調べなければ手に入らないのではなく、企業が積極的に提供する体制を作ることが重要です。
✅ 「40歳到達時の情報提供」の仕組みを整備
- 40歳の従業員に対して、公的介護保険制度の仕組みや介護休業の概要を説明する資料を配布する。
- 定期的な介護セミナーを開催し、介護が必要になる前から準備できる環境を作る。
✅ 「介護に直面した従業員への個別周知」の体制を構築
- 介護の相談窓口を設置し、相談があった際にすぐに適切な情報を提供できるようにする。
- 介護休業や介護休暇の取得方法、短時間勤務やテレワークの活用方法を分かりやすく説明するガイドラインを作成する。
② 管理職の意識改革を進め、介護しながら働ける環境を作る
従業員が介護に直面したとき、「相談しやすい職場環境」が整っているかどうかが重要です。
✅ 管理職向け研修の実施
- 介護を抱える部下への適切な対応方法を学ぶ研修を実施する。
- 「介護の相談を受けたときにどう対応すればよいか?」をまとめたマニュアルを用意する。
✅ 柔軟な働き方の推進
- 介護のために出社が難しい従業員に対して、在宅勤務や時短勤務の選択肢を用意する。
- 介護と仕事を両立しやすい職場環境を整え、チームで支え合う文化を醸成する。
③ 専門家と連携し、企業独自の介護支援策を整備する
企業単独で介護支援制度を整備するのは難しいため、社労士や介護支援専門員と連携し、適切な制度設計を行うことが有効です。
✅ 社労士や介護専門家との相談窓口の設置
- 社労士に労務管理の観点からアドバイスを受け、企業の実態に合った制度を整備する。
- 介護支援専門員と連携し、従業員が公的介護サービスを適切に活用できるよう支援する。
✅ 企業独自の支援策の導入
- 介護休業の有給化や、介護支援手当の支給を検討する。
- 介護に関するオンライン相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる体制を整える。
まとめ:「今から準備」を始めることが成功のカギ
2025年4月の法改正は、企業にとって「介護離職を防ぐための仕組みを作る絶好の機会」です。
📌 今すぐ取り組むべき3つのポイント
- 介護に関する情報を積極的に周知し、従業員に届ける
- 管理職の意識改革を進め、介護と仕事を両立できる職場を作る
- 外部専門家と連携し、企業独自の支援制度を整備する
法改正に対応し、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることで、企業の信頼性が向上し、「選ばれる企業」へと成長していきます。
「介護支援制度を整備したい」「自社に合った対応策を知りたい」という企業の皆さま、ぜひ専門家にご相談ください。
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