「業務時間外のやり取りだから会社には関係ない」
「育休そのものではなく、仕事の引継ぎに対する不満を伝えただけ」
そう考えている経営者の方も少なくないかもしれません。
しかし、東京地裁は2026年6月、育児休業を取得した従業員に対して同僚が送った「無責任」「自己中心的」といったメッセージについて、不法行為に当たるとして、同僚だけでなく院長にも使用者責任を認め、22万円の損害賠償を命じました。
今回の判決は、パタニティハラスメント(パタハラ)対策や職場コミュニケーションのあり方を考えるうえで、中小企業にとっても重要な示唆を含んでいます。
育休取得者へのメッセージが「人格的利益の侵害」に
東京都内の整形外科医院で勤務していた男性労働者が育児休業を取得したところ、同僚から次のようなメッセージが送られました。
・「無責任すぎて言葉も出ません」
・「自分と家族のことだけ考えているとしか思えない」
・「いかにお前が自己中心的か再確認できた」
東京地裁は、これらの発言について、労働者の人格的利益を侵害するものであり、不法行為を構成すると判断しました。
育児休業は法律で保障された権利です。
その権利行使に対して人格を否定するような非難を加えることは、「意見」や「疑問」の表明の範囲を超えると評価されたのです。
終業時間後の連絡でも使用者責任は否定されなかった
今回の判決で特に注目したいのは、メッセージのやり取りが終業時間後だったにもかかわらず、院長の使用者責任が認められた点です。
裁判所は、
「内容が業務に密接に関連しており、単なる私的なやり取りとはいえない」
と判断しました。
つまり、
「勤務時間外だから会社は関係ない」
「個人間のLINEだから知らない」
という主張は通用しなかったわけです。
近年では、LINEやSNS、チャットツールを利用したコミュニケーションが増えています。
しかし、業務に関連する内容であれば、やり取りの場所や時間にかかわらず、会社の責任が問われる可能性があることを示した判決といえるでしょう。
なぜパタハラは起きるのか
育児休業制度そのものに反対しているわけではなくても、
「周囲に負担がかかる」
「引継ぎが大変」
「自分たちばかり忙しくなる」
という不満が、育休取得者本人への攻撃に向かってしまうことがあります。
特に人員に余裕のない中小企業では、このような感情が生じやすいのも事実です。
しかし、本来解決すべき課題は「育休を取る人」ではなく、
「誰かが休んでも業務が回る仕組み」
にあります。
個人への非難ではなく、組織の課題として捉えることが重要です。
熊本県内の中小企業経営者が見直したいポイント
今回の判決を踏まえると、次のような対策が重要になります。
① 育児休業取得を前提とした業務体制を整える
特定の社員に業務が集中している状態では、不満や軋轢が生じやすくなります。
業務の見える化や複数人での担当体制など、属人化を防ぐ仕組みづくりが求められます。
② ハラスメント教育を管理職だけでなく全従業員に行う
パワハラやパタハラは、上司だけでなく同僚間でも発生します。
「悪気はなかった」「本音を言っただけ」という認識が、法的責任につながることもあります。
定期的な研修や周知を通じて、職場全体で共通認識を持つことが大切です。
③ LINEやチャットの利用ルールを整備する
私的なツールであっても、業務に関連する内容であれば会社の責任が問われる可能性があります。
連絡方法や時間帯、ハラスメント防止に関するルールを明確にしておくことが望まれます。
まとめ
今回の東京地裁の判決は、
「育休取得者への感情的な非難は違法となり得る」
「終業後のメッセージでも会社の責任が生じる場合がある」
ことを明確に示しました。
人手不足が続く中小企業だからこそ、従業員同士の不満や負担感を個人の問題にしないことが重要です。
育児休業を取得する人も、残る人も安心して働ける環境を整えることが、結果として人材定着や採用力の向上につながります。
「休む人を責める職場」ではなく、「誰かが休んでも回る職場」を目指す。
今回の判決は、その重要性を改めて示したものといえるでしょう。
参考:労働新聞 2026年6月11日
「パタハラ 経営者・同僚へ賠償命じる 終業時間後の連絡で 東京地裁」
https://www.rodo.co.jp/news/220445/

