「始業前に作業着へ着替えている時間は、労働時間になるのか」
「自由参加としている社内研修に、残業代を支払う必要はあるのか」
こうした問題は、製造業、建設業、運送業、医療・介護業など、さまざまな職場で起こります。
厚生労働省は2026年6月、労働時間の考え方を整理したリーフレットを公表しました。着替え、研修・教育訓練、仮眠・待機といった判断に迷いやすい時間について、労働時間に該当する例と該当しない例を示しています。
熊本県内の中小企業にとっても、未払い残業代や労使トラブルを防ぐために、あらためて確認しておきたい内容です。
目次
労働時間は「会社の指揮命令下にあるか」で判断する
労働時間に該当するかどうかは、就業規則にどのように書いているか、会社がどのような名称を付けているかだけで決まるものではありません。
基本的な判断基準は、従業員が「使用者の指揮命令下に置かれているか」です。
会社から明確な指示を受けている場合だけでなく、明示的な指示はなくても、実際には参加や作業を断れない状況であれば、黙示の指示があったとして労働時間に該当する可能性があります。
経営者として注意したいのは、会社側の「任意のつもり」と、従業員が感じている「実質的な強制」との間に差が生じることです。
着替え時間が労働時間になる場合
今回の資料では、制服や作業着の着用が任意である場合や、自宅から制服・作業着を着用して出勤することを認めている場合は、原則として着替え時間は労働時間に該当しないとされています。
一方で、次のような場合は労働時間に該当する可能性が高くなります。
・制服や保護具の着用を会社が義務付けている
・衛生管理や安全管理上、事業場内で着替える必要がある
・会社指定の更衣室で着替えるよう指示している
・着替えなければ業務を開始できない
厚生労働省のガイドラインでも、会社の指示により、業務に必要な所定の服装へ事業場内で着替える時間は、労働時間として扱うべき例に挙げられています。
特に、製造現場や食品加工、医療・介護、建設現場などでは、安全靴、衛生服、防護服などの着用が業務上不可欠になることがあります。
このような職場では、始業時刻を「着替えが終わり、作業を始める時刻」としていないかを確認する必要があります。
「自由参加」の研修でも労働時間になる
研修や勉強会については、業務上義務付けられておらず、従業員が自由に参加できるものであれば、原則として労働時間には該当しません。
例えば、就業時間後の勉強会について、
・参加を強制していない
・不参加による不利益がない
・人事評価に影響しない
・通常業務とは直接関係しない
という実態であれば、労働時間に該当しない可能性があります。
しかし、表面上は「自由参加」としていても、実際には次のような事情があれば注意が必要です。
・研修内容が担当業務に直接必要である
・上司が繰り返し参加を求めている
・不参加者が人事評価や昇進で不利になる
・正社員登用や資格手当の要件になっている
・参加できるよう会社が勤務シフトを調整している
こうした場合は、事実上参加を義務付けているとして、労働時間に算入する必要が生じます。
単に案内文へ「自由参加」と書くだけでは十分ではありません。実際の運用状況から判断される点が重要です。
携帯電話を持ち帰るだけなら待機時間ではない?
夜間や休日に、緊急連絡用の社用携帯電話を従業員へ持ち帰らせる会社もあります。
携帯電話を所持していても、自宅で自由に過ごすことができ、電話対応の頻度も低く、直ちに一定の場所へ駆け付けることまで求められていない場合は、待機時間全体が労働時間に該当しないことがあります。
一方、連絡があれば即時対応しなければならず、外出や飲酒、入浴などが事実上制限されている場合には、会社の拘束の程度を詳しく検討する必要があります。
また、待機時間全体が労働時間に当たらない場合でも、実際に電話対応やパソコン操作、現場対応を行った時間は、原則として労働時間として記録しなければなりません。
熊本県内の中小企業が確認したい4つのポイント
今回の資料を受けて、まず次の4点を確認してみてください。
1.制服や保護具を、いつ、どこで着用させているか
2.始業前や終業後に行う作業がないか
3.自由参加の研修が、実質的な強制になっていないか
4.夜間・休日の電話当番について、対応時間を記録しているか
労働時間の問題は、1日数分であっても、対象者が多く、長期間にわたれば、未払い賃金の金額が大きくなることがあります。
また、労働時間を正しく把握していなければ、時間外労働の上限規制や健康管理にも影響します。
まとめ
着替え、研修、待機といった時間は、一律に労働時間になる、あるいは一律にならないというものではありません。
重要なのは、会社の指示の有無、業務との関連性、不参加による不利益、従業員が自由に行動できる程度など、実際の運用状況です。
「これまで問題にならなかったから大丈夫」と考えるのではなく、就業規則、勤怠管理、現場での指示が一致しているかを確認することが、トラブル予防につながります。
当事務所では、着替え時間や研修時間を含む労働時間管理の確認、就業規則の見直し、勤怠管理方法の整備についてご相談を承っています。
参考情報
厚生労働省パンフレット(PDF)
労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い
「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方

