出社できなければ復職は認められない? 東京地裁判決から学ぶ中小企業の対応ポイント

「在宅勤務ができるなら復職させるべきでは?」――働き方の多様化が進む中で、経営者や人事担当者が直面する難しい判断の一つが「休職からの復職可否」です。2025年8月、東京地裁が出した判決は、中小企業にとっても大きな示唆を与える内容でした。本記事では、この判例の概要と経営実務への影響を整理します。
判決の概要
事案の背景
大手情報通信企業の社員が脳梗塞や骨折で休職。退院後、主治医の診断書を提出し復職を希望しました。
ただし診断書には「長時間歩行や満員電車での通勤は困難」との記載。本人は「在宅勤務なら可能」と主張しました。
会社の対応
在宅勤務の対象者は「自己管理ができる者」「上司が認めた業務がある者」とする社内ルールがあり、この社員は該当しないと判断。出社できない状態では復職は認めず、結果として9か月間の休職継続扱いに。
裁判所の判断
東京地裁は「出社可能な状態にあることが復職の前提」とし、会社の対応を適法と認定。
障害者に対する合理的配慮を考慮しても、出社が不可能である限り休職事由の消滅は認められないとしました。
経営者にとってのポイント
1. 復職判断は「通常勤務が可能か」が基準
医師の診断書だけでなく、実際に出社して業務を遂行できるかが重要。
特に「在宅勤務ができるから=復職可能」とは直結しない点に注意が必要です。
2. 在宅勤務制度は「特例」ではなく「制度」として整備を
この判決では、コロナ禍による在宅勤務は例外措置と位置付けられました。
つまり、在宅勤務を恒常的に活用するには「誰が・どんな業務で可能か」をルール化しておくことが不可欠です。
3. 合理的配慮は「無制限」ではない
障害者雇用促進法に基づく合理的配慮が求められるのは事実ですが、それでも「業務遂行が可能か」という大前提は変わりません。
むしろ、中小企業としては過剰な負担にならない範囲で制度を設計することが重要です。
熊本県内中小企業への示唆
熊本でも人手不足が深刻化し、障害や疾病を抱えながら働く従業員の復職支援は避けて通れません。
今回の判決から学べるのは、「復職の可否を医師任せにせず、会社としての基準を持つこと」です。
- 就業規則や休職規程に「復職の判断基準」を明記する
- 在宅勤務制度を導入している場合は「対象者・業務範囲・評価方法」を明確にする
- 障害や疾病を抱える従業員への配慮は「できる範囲」で着実に行う
これらを整備しておくことが、将来の紛争予防に直結します。
まとめ
復職の判断は経営者にとって非常に難しいテーマですが、裁判所の基準は一貫しています。
「通常勤務が可能な状態であること」――この軸を持ちながら、在宅勤務や合理的配慮をどう組み込むかは企業の制度設計次第です。
当事務所では、中小企業の実情に即した休職・復職制度や在宅勤務規程の設計をサポートしています。
「自社の制度がこの判例に照らして問題ないか不安だ」という方は、ぜひご相談ください。
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