【2026年施行に向け準備】「カスハラ対策の義務化」指針素案から、中小企業が備えるべき5つの実務ポイント

「お客様対応だから仕方ない」で現場に抱え込ませる時代は終わりつつあります。2025年改正の労働施策総合推進法では、職場の“カスタマーハラスメント(以下カスハラ)”により就業環境が害されないよう、事業主に雇用管理上の措置が求められ、厚労省が指針(告示)を示す流れです。施行は2026年(令和8年)10月1日とされています。
本記事では、厚労省の「指針素案」に沿って、熊本の中小企業が“今から”準備しておくべき実務を、過不足なくまとめます。
1. そもそも「カスハラ」とは(苦情=カスハラではありません)
指針素案では、①顧客等の言動、②社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境が害される――の3要素を満たすものをカスハラと整理しています。正当な申入れ(合理的な苦情)まで排除する趣旨ではない点が重要です。
また、対面だけでなく電話・SNS等での言動も含まれます。
【典型例(素案の整理)】
・内容が不相当:契約を著しく超える要求、根拠のない賠償要求、プライバシー侵害の要求 等
・態様が不相当:暴行・脅迫・暴言・土下座強要・盗撮、長時間拘束、執拗なメール連投 等
2. 中小企業でも「必ず整える」べき措置は大きく4つ+共通2つ
素案は、事業主が講ずべき措置を明確に整理しています。ポイントは“書類を作ること”ではなく、現場が迷わず動ける導線を作ることです。
① 方針の明確化・周知(社内&顧客側)
「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」方針を明文化し、管理職含め周知。可能なら店頭掲示・HP等で顧客にも周知すると、より有効とされています。
② 相談窓口の整備(“微妙なケース”も受ける)
相談窓口を定め周知。実際に起きたケースだけでなく、発生のおそれや判断が微妙な場合も、広く相談対応することが求められています。
③ 事後対応(事実確認→被害者配慮→再発防止)
録音・録画等の客観証拠の確認、周囲からの聴取などで迅速・正確に確認。被害者のメンタル不調への相談対応、配置配慮、警察通報・弁護士相談も想定されています(犯罪に該当し得る場合)。
④ 抑止措置(特に悪質なケースへの線引き)
警告文、出入り禁止、サービス提供拒否(法令の範囲内)、仮処分申立て等、悪質時の方針と実行体制の整備が示されています。
【共通して必須の2点】
・プライバシー保護(相談者情報の取扱い)
・相談等を理由とする不利益取扱いの禁止の周知
3. 熊本の中小企業向け:まず“この順番”で整えると失敗しません(最短ルート)
人員に限りがある企業ほど、次の順番が現実的です。
(1) 1枚でよいので「方針」を出す(社長名が強い)
(2) 現場の初動ルールを決める(1人対応にしない/上長へ即報告/録音の可否など)
(3) 相談窓口(担当者)を決め、周知する(既存のハラスメント窓口と統合でも可)
(4) “悪質ライン”を明文化する(警察・弁護士・社労士へつなぐ基準を作る)
(5) 記録の型を作る(誰が・いつ・何を・どう対応したか)
ここまで揃うと、現場が「我慢」ではなく「手順」で動けます。結果として離職・メンタル不調・生産性低下といった経営損失の抑制にもつながります。
4. 注意点:やりすぎは逆効果(消費者対応・合理的配慮との両立)
素案は、消費者の権利や、障害者差別解消法における合理的配慮(過重な負担でない範囲)に留意し、建設的対話を重ねることにも触れています。つまり「苦情は全部シャットアウト」ではなく、「線引きと手順で守る」が正解です。
まとめ:施行前に“最低限ここまで”を
・方針(従業員を守る/毅然対応)を明文化し、社内外へ周知
・相談窓口と初動フロー(1人対応にしない、記録する)を作る
・悪質ケースの基準(警察・弁護士・社労士等)と抑止策を用意する
指針は素案段階ですが、方向性は明確です(厚生労働省・労働政策審議会資料として公表)。
当事務所では、業種(小売・医療介護・飲食店・建設・BtoB取引等)に合わせた「社内方針文」「対応フロー」「記録様式」「就業規則・対策マニュアル・服務規律との整合」まで、実装ベースで整備支援しています。
まずは現状(困っている場面・頻度・チャネル)を棚卸しして、最小コストで“回る仕組み”を一緒に作りましょう。
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