夜勤中の「仮眠」は休憩ではない?労働時間と認定された大阪府の事例から学ぶ労務管理の落とし穴

2025年5月、大阪府の一時保護施設での夜勤中の仮眠が「労働時間」と認定され、労働基準監督署から是正勧告を受けるという事例が報道されました。これは労働時間と休憩時間の線引きが不明瞭なまま運用されていたことに起因する問題です。中小企業においても、同様のリスクは十分に考えられます。
本記事では、今回の事例を踏まえ、仮眠・手待ち時間の労務管理における注意点を解説します。
事件の概要と労基署の判断
大阪府が設置した箕面子ども家庭センター内の一時保護施設において、夜勤の非常勤職員に3時間30分の「仮眠時間」が与えられていたものの、その仮眠は保護中の子どもと同室で行われ、非常時には常勤職員への報告義務が課されていました。
この運用に対し、淀川労働基準監督署は「労働から解放されていない」として、仮眠時間を休憩とは認めず、実態として「労働時間」に該当すると是正勧告を行いました。
休憩時間と労働時間の法的な違い
労働基準法第34条の解釈では、休憩時間は「労働から完全に解放され、自由に利用できる時間」でなければなりません。
業務への即応を求められる状態は、「手待ち時間」として労働時間に分類され、賃金の支払い義務が発生します。つまり、仮に「休憩」と称していても、実態が業務からの解放でなければ、それは休憩とは認められないのです。
判例と通達に学ぶ実務対応
この問題は、夜勤や24時間体制の現場で、しばしば起こる論点です。過去の判例でも、夜間警備員の仮眠中に警報対応の義務があった場合、「使用者の指揮命令下にある」として労働時間とされました。
また、厚生労働省の通達でも、休憩とは「労働からの解放が保障された時間」であることが明確にされています。
中小企業における実務対応のポイント
この問題は、福祉施設や警備業だけでなく、以下のような業種でも同様に起こり得ます:
- 介護施設の夜勤スタッフ
- ホテル・宿泊施設のナイトフロント
- 工場の交代制勤務者
これらの業態では、仮眠・待機・休憩時間の扱いについて、以下の点に留意しましょう:
- 実態に即した休憩の確保:従業員が完全に業務から解放されているか。
- 就業規則・労働契約書の整備:仮眠や休憩の取扱いを明記し、実務と一致させる。
- タイムカードの記録と賃金支払い:手待ち時間や実質的労働時間を正確に把握・記録し、賃金を正しく支払う。
適切な労務管理が企業の信用とトラブル防止につながる
今回の大阪府の事例は、「形式上の休憩」が「実質上の労働時間」と判断された典型例です。中小企業においても、業務実態に即した労務管理を徹底しなければ、遅かれ早かれ是正勧告や未払い賃金問題に直面しかねません。
就業実態の見直しと、適切なルール設定・運用をこの機会にぜひご検討ください。
参考リンク
特定社会保険労務士 荻生 清高|社会保険労務士 荻生労務研究所(熊本市)
中小企業の労務トラブル防止・職場環境改善をサポートします。お気軽にご相談ください。
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