従業員の退職が会社を揺るがす 「従業員退職型倒産」急増の背景と中小企業への示唆

2025年に入り、従業員の退職が原因となる倒産、いわゆる「従業員退職型倒産」が過去最多ペースで増えています。人材の流出は単なる人手不足ではなく、企業の存続に直結するリスクとなりつつあります。本記事では、帝国データバンクの調査結果をもとに、その背景と熊本の中小企業にとっての具体的な課題・対策を整理します。
「従業員退職型倒産」が過去最多ペースに
帝国データバンクの調査によれば、2025年1~7月に発生した人手不足倒産のうち、「従業員退職型」は74件。前年同期の46件から約6割増という急増ぶりです。このペースで推移すれば、年間100件を超える可能性が指摘されています。
サービス業やIT業、建設業を中心に、幹部社員や専門人材の退職が直接的に事業継続を困難にしています。例えば、システム開発会社がエンジニア流出で外注費が増大し破綻、住宅販売会社が幹部社員退職で営業力を失い倒産に至るなど、典型的な事例が挙げられています。
背景にある「待遇改善できない企業」の苦境
今回特徴的なのは、給与や待遇の改善ができなかったことで人材流出を招き、経営破綻に至ったケースが多い点です。
大企業や成長企業が優秀な人材を高給で確保する一方、資金余力の乏しい中小零細企業では十分な報酬を提示できず、結果的に人材流出が止められない状況が広がっています。帝国データバンクは「待遇改善をしないことによるリスクが顕在化している」と指摘しています。
熊本県内中小企業への示唆
熊本でも例外ではなく、建設・製造・サービスといった地場産業は慢性的な人材不足に直面しています。
特に若手や専門資格を持つ人材は流動性が高く、給与や労働環境に敏感です。「辞められたら困る社員」に依存している企業ほどリスクは大きいといえます。
企業が今取り組むべきこと
1. 待遇の適正化
ただ単に給与を上げるのではなく、地域相場や業界相場を踏まえて「納得感」のある水準を検討することが重要です。
2. 人材流出リスクの見える化
誰が退職すれば経営に直結するのかを洗い出し、代替要員や外部委託の準備をしておくこと。
3. 働きやすさの改善
長時間労働や属人化した業務を減らす仕組みづくりも、人材定着には欠かせません。
4. 制度と風土の両輪で対応
就業規則の整備、評価制度の明確化といった“制度面”と、上司のコミュニケーションや心理的安全性の確保といった“風土面”の両方に目を向ける必要があります。
まとめ
「従業員退職型倒産」は決して都会の話ではなく、熊本の中小企業にとっても現実的なリスクです。
人材は企業の最重要資産であり、待遇改善を含めた労務管理の戦略的対応が欠かせません。経営者の皆さまには、今一度、自社の人材戦略を点検いただきたいと思います。
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