コールセンターにおける「カスハラ」対策認定制度の開始──中小企業にも求められる環境整備

最近、コールセンターを運営・受託する企業において、顧客からの過大要求・高圧的言動、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対応が大きなテーマとなっています。 日本コンタクトセンター協会(CCAJ)がこのたび 「カスタマーハラスメント対策推進企業」認定制度 を開始し、業界全体の職場環境改善・魅力向上に向けた動きが具体化しています。今回はこの制度の概要と、熊本県内の中小企業経営者として押さえておくべきポイントを整理します。
なぜ今「カスハラ」が注目されるのか
電話・チャット・メールといった「非対面/声だけ/顔が見えない」接点をもつコールセンターでは、顧客側の匿名性・反復性・高圧性が強く出やすい環境です。
こうした言動が放置されると、従業員の心理的安全性(メンタルヘルス)、離職・定着率、応対品質、企業ブランド等に悪影響を及ぼします。
社会的にも、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表しており、地方自治体で条例化の動きも出ています。
こうした流れを受け、コールセンター業界の団体であるCCAJも、ガイドライン策定・認定制度設立に踏み切ったというわけです。
制度概要:CCAJ「認定制度」のポイント
以下、本ニュース記事を整理しながら、制度の概要を解説します。
認定の対象・目的
- CCAJ会員企業(自社でコールセンターを設置・運営する企業、または受託する企業)を対象に、「カスタマーハラスメント対策推進企業」認定を開始。記事時点で第1回認定として15社を認定。
- 認定の目的は「業界全体の職場環境改善・魅力向上」を図ることで、従業員が安心・安全に働けるコールセンターを増やすこと。
認定要件(誓約事項)
認定を受けるために、企業は次のような項目を誓約します:
- 基本方針の公開
- 対策責任者の任命と登録(複数拠点の場合は統括レベルの責任者)
- 相談窓口の設置
- ガイドラインに則った対応の実施
- 実態把握のためのアンケート協力
- 受託・委託関係においても双方で対策を行う
- 従業員から相談があった際、責任者が真摯に対応・報告を行う
- 再三の改善依頼に応じない場合は認定を取り消す可能性がある
- 現状、認定料・更新料は無料(会員限定)
認定制度の留意点
- 責任者として登録できるのは「拠点長や現場リーダー」ではなく、「統括責任者など顧客対応側から一定距離がある立場」が想定されているとのことです。
- 「企業として対応してもらう必要があるので、それなりの立場の方の登録を想定しています。拠点長などの顧客に近すぎる人材の登録は、承認できないとのことです。
- 認定制度の前提として、2025年3月に CCAJ が「コンタクトセンター/コールセンターにおけるカスタマーハラスメント対策ガイドライン」を公開しています。
- ガイドラインでは「長時間拘束は1時間以上」「リピートは3回以上」など、判定ラインが具体化されています。
中小企業(熊本県内)における示唆・実務のポイント
熊本県内の中小企業経営者の方々が「うちも関係あるのか?」「どう準備すべきか?」と考える時に、以下の観点から整理しておくことをお勧めします。
① 規模・形態を問わず“顧客接点”がある企業は対象となり得る
受託型ではなく、社内でコールセンター(顧客対応窓口)を運営している企業、あるいは外部に受託している企業も対象になり得ます。
熊本県でも、金融、保険、サービス、ICT、製造業アフターサポートなど、コールセンター的な窓口を持つ企業が少なくありません。
“自社製品・サービスのための応対窓口”として構えている場合には、本制度・ガイドラインを無視できない状況になっています。
② “安全配慮義務”・“労働環境整備”という観点
従業員が顧客からの不当言動・過度な要求で精神的に追い込まれた場合、企業にも「安全配慮義務」(労働契約法5条、労働安全衛生法など)があります。ガイドライン・認定制度の流れは、「従業員を守るという観点」が根底にあります。
中小企業であっても、応対部門・窓口部門があるならば、「何もしない」のではなく、「どう備えるか」を把握しておくことがリスク管理になります。
③ 実務として抑えておくべき具体策
以下は、ガイドラインや実務支援サイトで示されている対策例です。中小企業でも段階的に導入可能です。
- 通話を録音している旨を通話開始時にアナウンス:抑止力となります。
- 非通知設定の着信を拒否:匿名・追跡困難なケースへの対策。
- 応対時間・回数の上限を設定(例:3回以上/30分以上という目安)を顧客と交渉。記事でもこのような目安が紹介されています。
- マニュアル化・研修実施:オペレーターが「これはクレームか、カスハラか」の判断が迷わないようにするため、判断基準・対応フローを社内で明文化。
- 相談窓口・責任者の設置:現場だけで抱え込ませず、上位責任者が対応方針・報告をフォローできる体制を整備。
- 受託・委託契約の見直し:センター業務を外部委託している場合、「委託先・受託先双方でカスハラ対策を行う」旨がガイドラインに入っています。
「受託関係においては双方で対策を行い、従業員を守るように努めること」
④ 熊本の中小企業だからこそ注意すべき“ボトルネック”
- 人員・専任体制が整いにくい:中小企業では専任の「責任者/登録担当者」を置く余裕がないケースもあります。とはいえ、ガイドラインでは「統括的な立場」の責任者を求めていますので、兼任でも構いませんが明確な役割分担が必要です。
- 相談窓口・実態把握のためのアンケート・データ収集が手間:アンケートやモニタリングを導入することで、現場の“見える化”が進みますが、コスト・負荷を考える必要があります。
- 委託・受託の関係/外部コールセンターの活用:熊本県でも県外の受託先を使用しているケースがあります。受託関係の責任範囲・契約条項を早めに整理する必要があります。
- 社内文化・気風:クレーム対応=「顧客第一」という風土ゆえに、「顧客が悪くても断れない」という慣習が残っていると、カスハラを断つための制度・体制が機能しづらくなります。
経営者・人事担当者向けチェックリスト
経営トップ・人事・総務ご担当の皆さまに向けて、まず押さえていただきたいチェック項目を以下に整理します:
- 顧客対応窓口(電話・チャット・メール)を設置しているか?
- 「カスハラ(顧客等からの過大要求・暴言・長時間拘束など)」を社内で定義し、判断基準を持っているか?
- 基本方針を策定し、社内外に公開・周知しているか?(例:○○社は、「従業員が安心して働ける応対環境を守る」旨を掲げている)
- カスハラ対応責任者あるいは統括責任者を任命・登録可能な体制を整えているか?
- 相談窓口制度・報告体制を整備し、従業員が利用しやすくしているか?
- 応対時間や回数、着信拒否・通話録音アナウンスなど、未然防止策を検討・実施しているか?
- 委託・受託のコール業務を行っている場合、委託先・受託先双方でカスハラ対策を協議・契約に盛り込んでいるか?
- 定期的に実態把握(アンケート・ヒアリング・録音モニタリング)を実施し、改善サイクルを回せる仕組みを設けているか?
まとめ
コールセンター運営・受託業務を有する企業にとって、今回のCCAJの「カスハラ対策認定制度」は、単なる業界の付加制度ではなく、 従業員を守る・職場を守る・企業ブランドを守る ための大きな潮流と捉えるべきです。
熊本県内中小企業であっても、対応窓口を有するならば、この動きを「他人事ではない」と捉えて頂いたほうが賢明です。早めに「自社の現状把握」→「方針と体制の整備」→「実践・運用」の順で取り組むことで、将来的なリスクを低減し、安心・安全な顧客対応環境を構築することが可能です。
労務・人事管理の観点からも、「従業員が安心できる応対環境=離職抑制・定着率向上・応対品質の確保」という観点で重要です。今後、認定企業が拡大するとともに、非会員・中小企業にも同様の枠組みが広がる可能性がありますので、動きが小さいうちに体制構築を進めることをおすすめいたします。
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