退職社員のリファレンスチェック依頼にどう対応すべきか?

近年、中途採用や管理職採用の場面で「リファレンスチェック(前職照会)」を導入する企業が増えています。
採用企業としては、応募者の経歴や勤務態度などを確認することでミスマッチを防ぎたいという意図がありますが、前職企業(照会を受ける側)にとっては、「どこまで回答してよいのか」「法的リスクはないのか」という悩ましい問題でもあります。
特に「本人の同意があります」と言われて照会が届いた場合、同意さえあれば回答しても問題ないのか?
あるいは、どのように対応すれば自社として適切なのか?
今回は、個人情報保護法や厚生労働省・個人情報保護委員会(PPC)の公式情報をもとに、前職企業としての実務対応を整理します。
(日本政府の公式情報に基づく内容です。)
リファレンスチェックとは?
リファレンスチェックとは、採用候補者の前職場(上司・同僚・人事担当など)に対して、勤務実績や人物評価などを確認するプロセスです。
採用企業の間では、経歴詐称防止や採用のミスマッチ防止の目的で導入が進んでいます。
一方で、前職企業が照会に応じて情報を提供することは、個人情報の第三者提供に該当する可能性があるため、個人情報保護法に基づいた慎重な対応が求められます。
本人の同意があれば回答しても問題ないのか?
結論から言えば、「本人の同意がある」という理由だけで無条件に回答するのは、適切ではありません。
関連する法令・ガイドライン
- 個人情報保護法第27条:個人データを第三者に提供する場合、原則として本人の同意が必要。
 - 同法ガイドライン(個人情報保護委員会):同意の取得にあたっては、提供先・提供目的・提供内容を明示する必要がある。
 - 厚生労働省「公正な採用選考をめざして」:応募者の適性・能力と関係のない情報(健康状態、家族、思想・信条等)を収集しないこと。
 
同意があっても注意すべき4つのポイント
1. 同意内容の具体性
同意は「何を」「誰に」「何の目的で」提供するかを本人に明確に伝えた上で取得していなければなりません。
単に「リファレンスチェックに協力する」という一文では、提供範囲が不明確でトラブルのもとになります。
2. 提供範囲の限定性
提供する情報は「採用判断に必要な範囲」にとどめるべきです。
在籍期間・役職・職務内容など、客観的事実を中心に、主観的な人物評価や健康情報などは避けることが望ましいとされています。
3. 記録の保存義務
個人情報保護法では、第三者提供を行った場合、提供内容・提供先・日時等の記録保存が義務付けられています。
4. 差別・不当取扱いリスク
提供した情報を基に採用企業が不当な差別や内定取消しを行った場合、前職企業にも説明責任・連帯的な影響が及ぶおそれがあります。
過去には、提供情報が誤解を招いたことで名誉毀損や損害賠償請求に発展した例もあります。
前職企業がとるべき実務対応ステップ
| ステップ | 対応内容 | 
|---|---|
| A:照会依頼の確認 | 依頼内容・目的・項目を明確化。本人同意書の有無と内容を確認。 | 
| B:社内確認 | 提供可能な情報(在籍期間・職務内容)と、提供しない情報(健康情報・懲戒情報等)を社内で整理。 | 
| C:回答実施 | 事実に基づく範囲で回答。必要最小限に留める。回答後は提供記録を保存。 | 
| D:社内ルール整備 | 「リファレンスチェック対応方針」や「個人情報取扱規程」を整備し、担当者教育を実施。 | 
実務上の対応例(推奨回答スタンス)
実務上は、以下のように対応するのが安全です。
「本人の同意については確認しましたが、当社としては個人情報保護の観点から、在籍期間・職務内容など客観的事実の範囲で回答いたします。それ以外の評価的情報についてはお答えいたしかねます。」
このように「事実のみ回答し、評価・主観は控える」という姿勢を明確にしておくことで、情報漏えい・名誉毀損・差別リスクを最小化できます。
まとめ:本人同意は“免罪符”ではない
リファレンスチェックにおける「本人同意」は、個人情報提供の前提条件ではありますが、免責条件ではありません。
企業としては、以下の観点で対応方針を整える必要があります。
- 同意の範囲・目的を明確に確認する
 - 提供情報を必要最小限に留める
 - 提供記録を必ず保存する
 - 差別・不当取扱いにつながる情報は回答しない
 - 社内で一貫した対応ルールを定める
 
こうした対応を徹底することで、個人情報保護法遵守はもちろん、企業の信用維持にもつながります。
参考・出典
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)」
厚生労働省「公正な採用選考の基本」
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