「転勤=当たり前」はもう古い?採用・定着に直結する“選ばれる企業”の条件とは

辞令1本で生活の拠点が変わる転勤は、企業にとって人材育成や事業運営の手段である一方、社員本人だけでなく家族の暮らし・キャリア・治療や介護などにも大きな影響を与えます。いま学生・若手の多くが「転勤の有無」を就職先選びの重要条件にしており、制度設計を放置すると採用・定着で不利になりかねません。熊本県内の中小企業こそ、“必要な転勤”を残しつつ“納得できる転勤”へ変える視点が重要です。
いま転勤が「会社の都合」だけでは回らない理由
共働きの一般化、育児・介護の長期化、不妊治療などのライフイベントが、以前より“働き盛り”と重なりやすくなりました。転勤が引き金となって退職を選ぶケースが増えると、会社に残るのは「転勤できる人」だけになり、結果として組織の多様性・専門性が損なわれます。
さらに採用面では、転勤があるだけで応募の母集団が縮む時代です。地方の中小企業は、そもそも採用市場が狭い。だからこそ「転勤を前提にした働き方」を疑い、制度の説明可能性(なぜ必要で、どこまで配慮するのか)を言語化することが、採用広報の武器になります。
転勤を「ゼロ」にできない会社が、まずやるべき整理
転勤改革は、いきなり“廃止か維持か”の二択にしないことがコツです。まずは次の3つを棚卸しします。
(1) 本当に転勤が必要な業務か
・現場責任者の配置、顧客対応、立上げ支援など「その場所に人が要る」業務か
・オンライン、短期出張、兼務、派遣・委託で代替できないか
(2) 転勤の範囲と頻度は妥当か
・全国転勤が必要な職種と、県内・近隣で十分な職種を分ける
・「最短〇年で異動」など慣行が目的化していないか
(3) 会社が負っている“配慮義務”の視点
転勤命令は会社の人事権として一定範囲認められますが、無制限ではありません。業務上の必要性と、社員の生活上の不利益(育児・介護・健康・配偶者の就労等)を丁寧に比較衡量し、説明と手続を整えておかないと、トラブルの火種になります。
“選ばれる会社”に近づく制度設計(中小企業向けの現実解)
大企業のように多額の手当を用意できなくても、設計の工夫で「納得感」は作れます。ポイントは「選択肢」「予見可能性」「支援」です。
●選択肢:転勤可否・地域範囲をコース化
・全国(広域)/九州内/県内/勤務地限定 など
・年1回の自己申告でコース変更の機会を設ける
→“人生設計を会社が尊重している”メッセージになります。
●予見可能性:いきなり辞令にしない
・異動候補の早期打診(例:3~6カ月前)
・理由の説明(なぜその人が必要か、期間はどれくらいか)
・家族事情の申告ルート整備(上司だけでなく人事・第三者窓口も)
●支援:お金より“困りごと”に刺さる支援を
・転居費・初期費用の実費補助(上限を決めても効果大)
・単身赴任の帰省交通費、社宅が難しければ住宅手当の設計見直し
・育児・介護・治療など一定事由の「転勤凍結」「猶予」制度
・短期赴任は“手当+休日の確保”をセットで(疲弊は離職に直結)
就業規則・運用ルールを整えないと逆に危ない
制度を作っても、就業規則や雇用契約、運用フローが曖昧だと不公平感が生まれます。最低限、次を整備しましょう。
・勤務地・転勤の定義(どこまでが「転勤」か)
・命令の手続(申告→面談→決定→異議申立ての流れ)
・配慮事由の例示(育児、介護、健康、配偶者転勤、治療等)
・手当の根拠と支給条件(課税・非課税も含め整理)
・例外運用の記録(「なぜこの判断か」を残す)
中小企業では「社長の判断」でスピード感を出せる反面、属人的運用になりがちです。ルール化は社員を縛るためではなく、“会社を守り、社員も安心して働ける”ための土台です。
まとめ:転勤改革は「採用」と「定着」の投資
転勤制度は、会社の都合と社員の人生が真正面からぶつかるテーマです。だからこそ、①必要性の棚卸し、②選択肢の提示、③予見可能性、④支援、⑤ルール整備――この5点を押さえるだけで、同じ転勤でも受け止められ方が変わります。
熊本の中小企業が“選ばれる会社”であり続けるには、賃上げや福利厚生だけでなく、「生活と両立できる働き方」を制度として提示できるかが勝負どころです。
【社労士としての実務メモ】
「転勤の線引き」「コース設計」「就業規則への落とし込み」は、会社の実態に合わせた個別設計が重要です。自社の転勤ルールが今の採用市場に合っているか、簡易診断からでも対応できますので、気になる方はご相談ください。
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