就活生が敬遠する「転勤が多い会社」──熊本の中小企業が取るべき人材戦略とは

近年の就職活動では、「転勤なし」を強調する企業が増えています。背景には共働き志向の強まり、リモート勤務の浸透、そして若い世代の「転勤よりも転職」という価値観の変化があります。熊本県内の中小企業にとっても、採用力や定着率に直結する重要なテーマです。本記事では、この動向を整理し、地元大学をはじめとする学生の進路傾向を踏まえた地域企業の戦略を提案します。
若い世代にとって「転勤=不人気要素」
マイナビの調査によると、2026年卒学生の31%が「転勤が多い会社」を行きたくない企業の特徴に挙げ、2015年卒の20 %から上昇しています。
また、転勤経験のある20代では4人に1人が転勤をきっかけに退職しており、転勤がキャリアのリスクになる現実が浮き彫りになっています。
背景にある「共働き志向」と「リモート経験」
学生の72 %が「共働きが望ましい」と回答しており、家族や生活との両立を重視する価値観が強まっています。加えて、コロナ禍でリモート慣れした世代は「転勤に伴う生活変化」を必要と感じにくくなっています。
熊本の地元志向データ:地元就職への好意的傾向が明確に
● 熊本大学
令和5年度の学部卒業生において、77 %が熊本を含む地元・九州地域で就職しており、地元定着率の高さがうかがえます。
● 熊本学園大学
2024年度の就職決定率は97.6 %と極めて高く、**68.9 %が熊本県内に就職**していることが報告されています。
● 九州ルーテル学院大学
熊本県内への就職率は約8割と非常に高く、地元志向の強さが際立ちます。
● その他大学の傾向
ある熊本県内大学では、「6割が県内企業へ就職」とする報告もあり、学生の地元志向は一貫して高いです。
● 熊本県UIJターン支援
熊本県は、Uターン・Iターン・Jターン希望者向けの就職支援を積極的に展開しており、就職活動に伴う交通費や宿泊費の補助、ふるさとセンターでの相談窓口の設置など、地元就職を後押しする制度を整備しています。
熊本の中小企業にとっての示唆
熊本では、学生の地元志向が強く、地元就職率の高さが企業の採用力に直結します。特に熊本大学や熊本学園大学の卒業生は、地元企業でのキャリアを前向きに考えている傾向が顕著です。
したがって、求人票や採用ページで「転勤なし」や「地域密着のキャリアあり」を明記することは、大きなアピールポイントになります。また、県によるUIJターン支援を活用することで、より多くのUターン希望者と接点を持つことができます。
一方、拠点拡大を視野に入れる場合は、「本人同意の転勤制度」「エリア限定職制度」を導入し、柔軟かつ透明な対応をすることが求められます。
実務上の対応ポイント
1. 求人票・採用ページで勤務地を明確に
「転勤なし」または「本人同意の転勤」という文言を明記することで安心感を醸成できます。
2. 人事制度の工夫
転勤が不可避な場合でも、制度として「希望確認」や「補助制度(家賃補助、帰省費用など)」を整備しましょう。
3. 地域密着型キしゃャリア形成の提示
「転勤=出世」ではなく、「熊本でキャリアを築く」道筋や成功ストーリーを示すことで、学生に安心感と未来志向を伝えられます。
4. UIJターン支援制度の活用
熊本県のUIJターン支援センターを通じ、Uターン希望学生との接点を増やし、面接や会社説明会への参加を促す施策を注力しましょう。
まとめ
若い世代にとって「転勤」はもはやキャリアのチャンスではなく「転職リスク」としてみなされつつあります。しかし、熊本には高い地元就職志向を持つ学生が多く、地元大学卒業生の大部分が地域に根ざした働き方を望んでいます。
熊本の中小企業はこの地元志向を強みに、「転勤なし」「地域貢献できるキャリア」を前面に打ち出すことで、人材確保・定着を大きく改善するチャンスがあります。
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