同一労働同一賃金ガイドライン見直しへ 〜中小企業経営への影響と対応のポイント〜

厚生労働省が「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直しに着手しました。退職金や住宅手当など、これまで明記されていなかった待遇項目が追加検討されています。熊本県内の中小企業経営にも影響が及ぶ可能性が高く、早めの準備が求められます。今回は、改訂の背景と企業側の実務対応のポイントを整理します。
背景:なぜ今見直しなのか
同一労働同一賃金は、正社員と非正規労働者(パート・アルバイト、有期雇用社員)の間の不合理な待遇差をなくすための制度で、2018年に「働き方改革関連法」の一環として導入されました。
施行から5年の見直しを迎え、社会情勢や最高裁判決の動きを踏まえて、ガイドラインの改訂が検討されています。
今回の論点案では、次の項目を追加する方向です。
- 退職金
- 住宅手当
- 無事故手当
- 夏期・冬期休暇
- 家族手当
- 褒賞
最高裁では、退職金・住宅手当の待遇差は「不合理ではない」、無事故手当・夏期冬期休暇は「不合理」と判断された事例があり、これらがガイドラインに反映される見込みです。
中小企業経営への影響
1. 待遇差の見直しが必須に
新たな項目が明記されることで、従来グレーゾーンだった手当や休暇も比較対象になります。
2.正社員・非正規双方への説明責任が重く
待遇差がある場合は、その理由を合理的に説明できなければ是正が求められます。
3.人件費構造の再設計が必要
不合理な差を埋める方向だけでなく、全体の給与・手当体系を見直すことが必要です。
実務対応のポイント
- 現状分析:正社員と非正規の待遇差(手当、休暇、賞与、退職金など)を棚卸しする
- 理由付けの文書化:差がある場合は、業務内容・責任・配置変更範囲などとの関係を説明可能にする
- 労使協議の記録化:改訂ガイドラインでは、合意形成の有無や経緯も重要な判断材料になります
- 段階的な制度改定:一度に是正するとコストインパクトが大きいため、複数年度での対応も検討
まとめ
ガイドラインの改訂は、単なる法令解説ではなく「会社の賃金制度・人材戦略の再構築」の機会でもあります。
熊本県内の中小企業にとっては、地域の人材確保競争力を高めるチャンスにもなり得ます。
今のうちに現状分析と方針策定を進めておくことが、改訂後の混乱を避ける最善策です。
当事務所では、
- 待遇差の現状分析
- 合理性説明の資料作成
- 労使協議の進め方支援
など、同一労働同一賃金への実務対応をサポートしています。お気軽にお問い合わせください。
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