第9次社会保険労務士法改正が成立:中小企業の人材戦略と労務管理に与える影響とは

令和7年6月18日、第217回通常国会で「第9次社会保険労務士法改正」が成立しました。今回の法改正は、社会保険労務士の使命の明確化、業務範囲の拡充、そして企業との関わり方を進化させる大きな転機となります。熊本県内の中小企業経営者の皆様にとっても、人材確保と労務リスク対応の観点から無視できない内容です。以下では、今回の改正のポイントと実務への影響を整理します。
社会保険労務士の使命が法文化された意義
これまで社会保険労務士の職務内容は制度運用の補助的役割として捉えられがちでしたが、今回の改正により「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて、適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与する」ことが使命として明文化されました。
この変更は、単なる手続き代行業務から、経営のパートナーとしての社労士像を明確にしたものです。企業経営における人材マネジメントやコンプライアンス対応において、社労士の活用がより戦略的に求められるようになるでしょう。
労務監査業務の明記:労務リスクの可視化と予防へ
改正法では、社会保険労務士の業務に「労働協約、就業規則及び労働契約の遵守の状況を監査する」ことが含まれることが明記されました。これにより、企業の労務コンプライアンス状況を第三者視点で点検・改善する仕組みが整備されます。
特に、中小企業にとっては未然のトラブル回避と「人的資本」の信頼性向上に直結します。今後、IPO準備企業や同一労働同一賃金への対応などでも「労務監査」のニーズが高まると予想されます。
裁判や労働審判での「補佐人」関与を改めて明確化:労使トラブル対応
今回の法改正では、社会保険労務士が裁判所での「本訴以外」の手続き、たとえば労働審判のような場面でも「補佐人」として弁護士とともに出頭・陳述できることが、改めて明文化されました(第二条の二)。これにより、紛争解決手続への社労士の関与が、あらためて制度上裏付けられる形となります。
なお、補佐人となるために特定社労士の資格は必要とされておらず、また従来から代理人弁護士との共同で裁判所での出頭・陳述が可能だったことに変わりはありません。今回の改正は、それを裁判以外に労働審判も適用できることを、条文上明確化したものと理解できます。
名称使用制限の強化:誤認防止と信頼確保へ
改正により「社労士」「社労士法人」「社労士会」「全国社労士会連合会」といった名称についても、無資格者や非関連組織による使用が制限されることが明記されました。これにより、専門性の誤認を防ぎ、社労士制度全体の信頼性向上につながる施策と言えるでしょう。
今後の実務的留意点
- 人材活用・育成戦略において社労士との連携を強化すること
- 就業規則・労働契約等の「監査的点検」を受ける仕組みを導入すること
- 労務トラブル対応の際、社労士と弁護士の役割分担、協調体制を再確認しておくこと
まとめ
第9次社労士法改正は、社労士制度を「経営支援型」へ進化させる転換点です。熊本県内の中小企業も、これを契機に労務リスクの見直しと戦略的人材活用に向けた取り組みを始めてはいかがでしょうか。今後も法改正の動向を注視しながら、実務に即した情報提供を継続してまいります。
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